日本語という宗教_2021/11/21

ぼくは海外の宗教に関して、あまり詳しくはない。日本とて例外ではないが、しかし日本人のほとんどが無宗教であることはなんとなく知っている、ような気もする。けれどぼくには、誰もが立派に入信しているように思えてならない。

言語という名の宗教である。

ぼく達は、言葉を信じてやまないのである。それは誰かからの「愛してる」を信じているとか「嫌い」を言葉通りに受け取っている素直な人ばかりだとか、そういうことを言っているのではない。言葉そのものではなく、言葉に意味が宿っていると信じてやまないのである。


「友達ってなんですか?」

と尋ねられたことがある。友達は友達である。しかし質問者は納得しない。もっと精神的な意味合いを求めてくるのである。

「人を愛するってなんですか?」

と尋ねられたことがある。辞書を引いてくれ、そこに答えが書いてある。しかし質問者は納得しない。愛してるという状態の、普遍的でかつ厳密な定義を導き出そうとしているのである。

「家族ってなんですか?」

同じ家に住み生活を共にする、配偶者および血縁の人々。だそうだ。ググってきた。すると「じゃあペットは配偶者でも無ければ血縁でもないから、家族じゃないんですか!?」とか言ってきそうである。ググった結果から言えばそうなんじゃないか。でも、家族と言いたいなら言えばいいんじゃないか。あるいは他の都合の良い言葉を発明したって構わない。


言葉とは、道具だ。道具そのものに意味はない。道具は便利に使う物であり、いらなくなったら捨てる物であり、必要なら新たに用意する物でもある。それなのに人生のなんたるかを、言葉という道具を定義しさえすれば、獲得することができると多くの人が考えているのだ。意味不明である。

そして時に、言葉の解釈を巡って対立を起こす。やっていることは、ほとんど宗教戦争と変わらない。自分はこう解釈した、いやこちらはこう解釈した。そうやって現実の伴わない幻想の中で、言葉に意味があると信じ、不毛な争いをしているのである。宗教も、言語も、文字も、人がよりよく生きる為に、あるいは管理する為に生まれたただの道具であるはずだ。それなのに、その道具の奴隷となってしまうのは、一体なんの冗談であるのか。


例えば『アグル』という言葉を知っているだろうか。

知らなくて当然だ。今ぼくが適当に作った。


さて、ぼくが適当に作ったこの『アグル』という言葉の意味を、ぼくは「大切な相手にその想いを伝える、ちょっとフランクな言い方」とすることにした。貴方は一体誰に『アグル』と言うのか?誰に言うべきだろうか?愛してるとの違いはなんだろうか?好きと愛してるの間くらいだろうか?説明に「大切な相手」とあるから、「大切にする、大切に思ってる」の省略形で使うのが良いのだろうか?

正解は、誰に言ったっていい。である。

アグルと言いたいなら、言えばいいのである。それが妻に対してだろうが、ペットに対してだろうが、廊下ですれ違う程度の相手にだろうが、別に言いたいなら言えばいいのである。相手もこの言葉を知っていれば、大体ニュアンスは伝わるだろう。偉そうな説明文が書いてあったところで、アグルそのものに特別な意志はないのである。

だが、きっと考えるんじゃないのか?

『アグル』と言うべき相手は誰だろう、と。

そうして、ぼくが書いた説明文「大切な相手にその想いを伝える、ちょっとフランクな言い方」の枠を超えて、考える。考える考える考える。考えるさ、特にこの日記を読んでいるような物好きなら尚更だ。そうして無理矢理、言葉選びにアグルの場所を作ってしまう。気がつけばアグルとは、こういう場面でこういう相手に言うものだ!などと勝手に決めるのである。

馬鹿らしい話だと思っただろうか。しかし、似たようなことをずっとしてこなかっただろうか。好きって、誰に言うもの。愛してるって、こういうこと。信用と信頼の違いとか、善と偽善の違いとか、何もかもそうだ。言語に意味を宿しながら、自分だけの解釈を獲得しながら、生きてこなかっただろうか。少なくとも、ぼくはそうだ。そして一度作った定義に矛盾が生じるたびに、再定義を繰り返した。何度も何度も何度も何度も、繰り返した。単語だけではない。助けるってなんだろう、守るってなんだろう、生きるってなんだろう。何もかも定義しなければ、不安で前に進めなかった。だが、ぼくはそんな日々を思い返して、こう思う。

結論、生きたいだけ。

今、自分を肯定する言い訳が欲しいだけ。


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