森のプールにはシャチがいた_2021/11/22

「もりのおくにね、ぷーるがあったの。そこに、しゃちがおよいでたんだよ。ぼくもいっしょにおよいだの」

少年はそう言いながら、母の袖口を引っ張った。母は息子を見下ろすと、笑顔で「そうなんだ、すごいね」と言った。少年は嬉しくなり、次の日もまた森のプールの話をした。今日はこんな生き物がいた、今日はこんな生き物と泳いだ。それを母は「うんうん」と聞いた。

「ほんとうだよ、ほんとうにいたの!」

少年が森と言っていたのは、放置され草が生い茂った、ただの空き地だった。当然そこに、プールなどない。シャチなんて泳いではいない。けれど何を思ったのか、夢で見たのか、少年はそれを実体験だと言い張った。それを聞く唯一の人物である母親が否定しないものだから、少年の摩訶不思議な体験は事実となった。少年は自分の話す夢物語を疑うことはなかった。疑う必要もなかった。だって母は、喜んでくれたから。幻想の中の森もプールもシャチも、二人の間では実在しているのと大差なかった。

これは、自分の創作物の中でぼくが記憶している最も古い物語であり、そして同時に嘘を吐いた最初の記憶でもあった。


ぼくは今も、シャチはいたと言い張っている。


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