[SS1]薔薇と外套

【まえがき】

創作シェアワールド「SCP財団」日本支部の作中世界「帝国」の設定を借りてTwitterに連載していた、非公式SSです。

登録したものの全然使用していなかったnoteの使い方を模索するため、こちらにまとめました。上手く使いこなせそうなら、公式としてお出しするに至らないSSや記事の案、私なりの世界観考察などを、今後もnoteに載せていきたいと思っています。

この小説はあくまで二次創作です。SCP財団本家様ならびに日本支部様へのリンクは最下部に明記してあります。


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言葉の刺を摘み取る私の手は己の針で血だらけだ。薔薇の花弁は柔らかく、吹けば容易く散り落ちてしまう――私の心よ。

舞った花粉が誰かの鼻孔を擽る事も叶わず、凍てつく土の下で、次の種は咲かず物言わぬことを望む。

私は臆病な薔薇。誰かが私に手を伸ばしても、きっと傷つけてしまうわね。薔薇は丸い夜露の涙をひとつ零すと、星達がじっと見つめる中、項垂れる様に花弁を閉じた。綺羅共はその醜態を噂し囁き合ったがやがてそれにも飽きると、皆夜の帳の内へと帰って行った。


――泣き虫なんじゃないの、夜露のせいよ。

――睫毛に夜露が付くのかい。

男は目にかかる前髪をそっと退けてやると女の瞳を覗きこむ。

君は温室育ちの薔薇なんだね、外に出たことがないから、かえって臆病になっている……この刺も。刺無しのやわな花になるのが怖いんだろう、本当は誰よりも憧れているのに。

そうよ、だから何よ。

女は丸い露を零す。

やわい花は嫌い、可愛いだけのか弱く咲く花、萎れたら暖炉に投げ込まれるだけよ。毒々しく咲き誇って誰にも近づいてほしくないの。

男はそれを聞くと鼻を啜った。

そうかい、けれど君、それはとても寂しそうだね。

頭上の街頭は点いては消え、路地の雪が音を吸った。

――俺もねぇ、怖いんだ、

男は乾いた唇をそっと舐めると破顔った。

君は酷く扱いづらい、無欲そうにしていながら、わがままで自分勝手で、寂しがりの聞かん坊だ。繊細に扱われるのを嫌がりつつ、誰かの腕の中で優しく愛でられたいとも願っている。そんな君へ、俺の好意が上手く伝わらないのが恨めしい。

君は愛されたいと願っていながら、愛されるのが怖いんだ。自分にその価値がないと思っている。何もかも足らない自分では、相手に貰った以上を返すことが出来ないと、そう思い込んでいる。

愛し方が分からないんだ、愛され方が分からないから。少し心を許すだけでも、弱さを曝け出すのが怖いんだろう?

男の言葉に女は終始頭を振りながら戦慄く唇を押えていた。その吐く息が早くなり嗚咽が漏れ始めると、男ははたと閉口し、目を泳がせてから息を吸った。

寒いかい。

女は答えずに男を睨みつけた。

好きよ。

女の震える声を聞くと男はため息をつき呆れた様に微笑んだ。

嗚呼、それでいい。

頬に添えられた大きな手の感触を確かめるように、女は目を閉じる。夜露が綺麗だと男は思った。

この恐ろしい夜に彼女が呑みこまれないように、無体な星共に嘲笑されぬように、男はコートの内に女の身を引き寄せた。




「売れ残った薔薇の化物と、捨てられた外套の精霊の話だ。つまらなかったろう?」

彼女は大人びた表情で私を見る。

「いいえ我が君、とても素敵でした」

私の言葉に、彼女は目を細めた。「お前たちはやはり低級な……」言いかけて光の巫女は沈黙する。

「――いや。私も実は、そう思っていたのだ」

呟かれた言葉に私は思わず微笑した。

「けれどピーマンは食べなくてはなりませんよ」

我ながら無慈悲な声音が出たものだが、それ以上に彼女の喚く声が宮殿に反響した。

今日も天蓋舎へ向かう羽目になりそうだ。



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【-CREDITS-】

この二次創作小説は、「クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0」に準拠しています。

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SCP-201-JP http://ja.scp-wiki.net/scp-201-jp


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