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『ニーア ゲシュタルト & レプリカント』『ニーア オートマタ』のサントラを紹介する

ゲーム音楽を後追いしていると突き当たること。それは「アレンジサントラ出すぎ問題」である。特にシリーズ歴史のあるものほど顕著で、FFなんかはピアノアレンジやバンドバージョン、リミックスアルバムにオーケストラコンサートアルバムとか、関連アルバムがどれだけあるのか見当がつかない。しかもこの辺はインタビュー記事やニュースリリースでも情報が整理されていないことが多く、権利関係とか製作の経緯も分からぬ。

特にニーアシリーズはシリーズと言いながら『ニーア ゲシュタルト & レプリカント』『ニーア オートマタ』の二作しか製作されていないにもかかわらず、商業リリースされたサウンドトラックは10枚も存在する。そう、シリーズ二作に対して10枚だ。

①NieR Gestalt & Replicant Original Soundtrack
②NieR Gestalt & Replicant 15 Nightmares & Arrange Tracks
③NieR Tribute Album -echo-
④Piano Collections NieR Gestalt & Replicant
⑤NieR:Automata Original Soundtrack
⑥NieR:Automata Arranged & Unreleased Tracks
⑦Piano Collections NieR:Automata
⑧NieR Gestalt & Replicant Orchestral Arrangement Album
⑨NieR:Automata Orchestral Arrangement Album
⑩NieR Orchestral Arrangement Album - Addendum

内訳はこんな感じである。もう何が何だか分からん。そこに特典や関連CDも含めるとその倍以上にもなる。比較的歴史の浅いIPにもかかわらず、これだけCDがリリースされているのはひとえに劇伴音楽のクオリティが高くめちゃくちゃ評判がいい故なのだが、それにしても調子が良過ぎである。乱発し過ぎだぞ。ちゃんと一枚一枚つくりこんであるのか。オイッ!スクエニ音楽出版!お前のことだぞ!

そこで今回、これまで発売されたニーアサントラを振り返り、それぞれのディスクレビュー(という名のベタ褒め好き語り)をしていこうと思います。行くぞ行くぞ。


①NieR Gestalt & Replicant Original Soundtrack(2010)

記念すべきゲシュタルト&レプリカントのオリジナルサントラ。ジャケットイラストは白の書。開幕ソプラノ少年合唱(とてもつらい)の夏ノ雪も、イノシシに轢ーッ!された光ノ風吹ク丘も、「くわた~」の唄い出しから始まるイニシエノウタも全てここから始まった。ゲームのサントラでは異例な大ヒットとなり、発売後はamazonでも一時期品薄状態が続いたらしい。

同名曲のアレンジが複数あるのが特徴であり、シーンに応じて使い分けられているのはオートマタにも引き継がれた。後のアレンジサントラ全ての元曲が揃っているためとにかく聴いておくのが良い。全編に渡って作中造語で唄われているAshes of Dreamsが聴けるのはこのサントラだけ!


②NieR Gestalt & Replicant 15 Nightmares & Arrange Tracks(2010)

ゲシュタルト&レプリカントのDLC「15 Nightmares」で使用された楽曲が収録されており、本編と一転してバッキバキの激しいテクノサウンドにアレンジされているのが特徴。ジャケットイラストは黒の書。アルバムの後半はシンプルなアコースティックアレンジとなっており、オリジナルサントラには未収録だった魔王のオルゴールバージョン(死ぬほどつらい)もあり。

ボーナストラックとしてピコピコアレンジメドレーがラストに収録されているが、まさか7年後でガッツリ8bitをやるとは夢にも思わなかったので某ゼルダの伝説パロディな悪ふざけとしかとられなかったのもいい思い出。


③NieR Tribute Album -echo-(2011)

外部アーティストがアレンジャーとして参加したニーアのトリビュートアルバム。同時期に展開していたスクエニゲーのアレンジコンピレーション「SQ MUSIC」シリーズの流れも汲んでいる。ニーア楽曲とアーティスト個性が正面からぶつかり合った結果、混沌と狂気が同居している傑作にして怪作コンピ。特にGo-qualia、world's end girlfriend両氏のドラッグ・オン・ドラグーンに先祖返りしたかのような狂気のリミックスメドレー(というよりも分解・再構築に近い)が白眉。

サプライズとしてドラッグ・オン・ドラグーンの楽曲を製作した佐野信義氏、相原隆行氏の2名もゲスト参加。ジャケットデザインはヨコオタロウ氏が監修しており、公式サイトでは製作の裏側も見られたのだが残念ながら現在は消滅している。


④Piano Collections NieR Gestalt & Replicant(2012)

スクエニお馴染みのピアノコレクション……と思わせて味わい深いアレンジがなされているアルバム。元々ゲーム本編でピアノ曲が用いられていたことと、原曲が思ったより短くまとまってるのもあって各作家によって自由な編曲がなされており、なかなか型破りな構成になっている。そんじょそこらのヒーリング系アレンジの同類と思って手を出すと火傷するぞ。


⑤NieR:Automata Original Soundtrack(2017)

10万枚を越えるヒットとなりゴールドディスク認定されたニーアオートマタのオリジナルサウンドトラック。ゲームのサントラなのに単体の作品としても完成度が高い奇跡のアルバム。2ループしてフェードアウトというサントラお馴染みのフォーマットを取らずに、全ての楽曲が進行とともに曲調が変遷していくという凄まじく凝った構成になっている(本来は一曲に対して3~4パターン+ボーカルの有無のバリエーションがあるが、これをまともに収録しようとするならアルバムがとんでもない枚数になるとのこと)。

これはストーリー進行、アクション、ムービーシーンの全てがシームレスに楽曲変化していくゲーム本編に対して、サウンドトラックという音のみの作品でアプローチした結果の産物だとは思うのだがそれにしたって気合いの入れようが半端じゃない。それでもディスク3枚組という特大ボリュームに全曲が入り切っておらず、ハッキング時に流れる8bit曲は初回特典として別ディスク扱いなので注意。


⑥NieR:Automata Arranged & Unreleased Tracks(2017)

外部アーティスト起用のアレンジ曲とオリジナルサントラ未収録曲を収録したオートマタのアルバム第2弾。先のオリジナルサントラと対になるジャケットデザインのため、2枚組にもかかわらず3~4枚組用の大型CDケースでリリースされた。今作もアレンジ個性が爆発しており、前回のトリビュートよりも振れ幅が広くさらに混沌とした様相。個人的にはパイプオルガン演奏で死ぬほど重厚に仕上がった追悼がマジヤバ。

ブックレットにはアレンジャーのメッセージや各曲が使われたシーンのプロット、ヨコオ氏の楽曲コメント、岡田氏、帆足氏とのインタビューまで掲載されているので資料価値も高い(ケースを大きくしたのでブックレットの内容も充実させる羽目になったらしい)。未収録曲にはあのスクエニ&プラチナゲームズのダブル社長戦のアレもあるのでいつでもあの「「社長です」」がリフレインするBGMが聴けるようになったよ!


⑦Piano Collections NieR:Automata(2018)

前回のピアノコレクションが攻めた内容だったので無意識に身構えてしまったが直球勝負なアレンジで安心感がすごい。オートマタは音がリッチになった分シンプルなピアノ曲は控えめになったのでこのピアノコレクションは非常にありがたい。「ヒーリング?癒し?そんなもん知るか!この鬱屈としながら美しいメロディの旋律を超ゴージャスなピアノ音階で味わえ!」と言わんばかりのガチ編曲で全く寝かせる気がない。


⑧NieR Gestalt & Replicant Orchestral Arrangement Album(2018)
⑨NieR:Automata Orchestral Arrangement Album(2018)

ゲシュタルト&レプリカントとオートマタそれぞれのオーケストラアレンジアルバム。特典CD(後述)付きのスペシャルボックスも同時発売された。オーケストラアルバム、スクエニゲーでもFFぐらいしかリリースがないので(ニーアの後にクロノトリガー、クロノクロスのCDが発売された)、オートマタの大ヒットがいかにスクエニを本気にさせたのか伺われる。その内容はストーリーを追体験できるレベルのクオリティであり、1枚のアルバムでひとつの交響曲とも言える圧巻の編曲構成。マジですごいのでまたオーケストラコンサートやって欲しい。切実に。

ブックレットには歴史改変のため時空を超えた逃亡劇を繰り広げるヨコオタロウの掌編小説が掲載されている(なんでCDのブックレットで時空転送装置なんて言葉が出てくるんだ……?)。


⑩NieR Orchestral Arrangement Album - Addendum(2020)

シリーズ10周年(二作しか出ていないが)を記念してリリースされた、まさかのオーケストラアルバム第二弾。先のオーケストラアルバムがコンサートライブ盤だとしたらこちらはスタジオ録音盤。オーケストラの調和を重視してボーカルをオミットした前回に代わってこちらはボーカル曲を全面に押し出し、原曲に近いように再編曲されているので同名曲でも印象がガラリと変わる。趣向が全く異なるので是非両方買い揃えて聴き比べるべし。


特典CDについて

2020/5/25現在、商業CDとして発売されたのは以上の10枚だが、ニーアサントラはそれ以外にもゲームやアルバムの予約特典、初回特典として封入されたものが存在する。そしてそのいずれもが現在ではプレミア価格である。その中でも自分が所持しているものについて紹介していこう。


NieR Gestalt Mini Album “オワリノウタ”(2010)
NieR Replicant Mini Album “ウラギリノコエ”(2010)

ゲシュタルト&レプリカントの予約特典として付属していたCD。いわゆるリミテッドサウンドトラックであるが、それぞれにボーナストラックとして “オワリノウタ”には完全新規アレンジ「カイネ/光ノ雨」が収録。これはケルト音楽調な原曲からはかけ離れたテクノ・エレクトロニカ系のミックスになっておりめちゃくちゃ良い。

“ウラギリノコエ”は未所持なのだが、ネタバレ上等なボイス&劇伴音源「Voice of Replicant」が収録されているらしい。


NieR:Automata Original Soundtrack HACKING TRACKS(2017)

オートマタのハッキング時に流れる8bit音源を収録したCDでオリジナルサントラの初回特典として付属。総再生時間が47分もあり実質的にディスク4枚目なので、完全なオートマタのサントラのために是非とも揃えておきたいが、オリジナルサントラ以上の値段で取引されている様子もチラホラ。これだから初回特典CDってやつは……!


NieR Orchestral Arrangement Special Box Edition Special Disc(2018)
NieR Orchestral Arrangement Album - Addendum Special Disc(2020)

それぞれのオーケストラアルバムの特典として付属。特に前者はアルバム2枚セットのボックス限定(収納箱もめちゃくちゃデカい)なのでまんまとスクエニに踊らされている気がしてならないが、どちらも本編ディスクに劣らないクオリティのアレンジ音源なので「買って良かった……!」と思わされる。悔しい……!


その他関連CD

ドラッグ・オン・ドラグーン オリジナル・サウンドトラック(2011)

ゲーム音楽の皮を被ったおぞましい何か。クラシックの名曲をズタズタに分解し、逆再生させ、エフェクトをかけ、ループさせ、商品ラベルのような無機質なタイトルを付け、その誉れを徹底的に貶めた冒涜的なサウンドの数々。わざわざ生のオーケストラ演奏で録音した後に加工して生まれた、商業音楽とは到底思えない”音”は、非現実の狂気世界へダイヴするようなトランス感覚を呼び起こす。各所で絶賛されているニーアサウンドはこの狂った音楽の延長線上に存在することを忘れてはならない。

ドラッグ・オン・ドラグーンは全作コンポーザーが異なるが、いずれも別ベクトルの狂気を宿しており、他のゲーム音楽とは一線を画すクオリティでもあるのでどれも必聴。


命にふさわしい(2017)

オートマタの主題歌……ではなく共同創作プロジェクトとして製作された、バンドアーティストamazarashiの楽曲。タイアップではなくコラボレーションというのがミソ。ゲーム中の劇伴音楽とは異なる方向性ながら、その歌詞とメロディ、歌声はニーア世界観と異様にマッチしており、この曲のおかげでamazarashiにドハマりした。ミュージックビデオもジャケットイラストも付属の絵本も全部本気のクオリティでコラボの次元を超えている。作品とアーティストの幸福な結婚。



未来へ

いかがでしたでしょうか?

いやー、どれも名盤オブ名盤でしたね!ゲームのサウンドトラックってただのファンアイテムじゃなくて、それぞれたくさん語れるポイントのある作品なんですよね。特にニーアのサントラはどのCDも明確にアレンジコンセプトが異なるので毎回ワクワクさせてくれます。他のゲームでもどんどんやっていって欲しい。そのためにみんなゲームのサントラ買おうぜマジで。

それはそれとしてニーアサントラはSpotifyでもApple Musicでも配信されているので「CD買う余裕はちょっと……」という人も定額聴き放題でガンガン聴いてやってください。でもライナーノーツや歌詞が掲載されてるブックレットは物理CDにしか付属してないから、いいものだと思ったら買えよ!ゲームサントラ!

実はドラマCDとかコンサートBDとか舞台とか関連作はまだまだあるし、インディーズのリミックスやファンアレンジを含めるととんでもないことになるので、この辺りで筆をおきたいと思います。


(終わりです)

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