#2 弘前〜白神山地 20200703
これをまとめたところで旅録と呼べるものになるほどちゃんとしたドライブでもなかったけれど、とても良い一日だったので日記を書く。
日光を浴びることが何よりも好きな自分にとって、今は一年間で最も憂鬱な時期の渦中である。毎日のように朝から外はどんより暗いし、なんか寒いしで全くテンションが上がらない。
だから予報も見ずに昨日の休みもどうせ家で過ごすもんだと思っていたら、朝目覚めるとまさかの快晴!晴れの日は未知なる土地を訪れ自然に触れないと手の震えが止まらなくなってしまう自分は2秒で県外ドライブを決め、早々に準備をして出掛けることにした。
ノープランかつ動き出しがやや遅れたため、目的地は近場でその内行こうと思っていた弘前近辺に決定。
下道ルートをひた走り北上していると、立ち寄りたくなるスポットを途中で何度も見つけた。せっかくだから寄ってもよかったのだけれど、早めに目的地に着いておきたかったため泣く泣く全スルー。大館近辺にもまたゆっくり来ようと思う。
田舎はただ通るだけでも興味を惹かれる物がそこらじゅうに溢れていて、独特な地名が書かれた看板なんぞを見つけては、後で調べるためにとりあえずググって出てきた最初のページをChromeのタブに積んでおく、ということを道中何度も繰り返してしまう。
例えば大館では「商人留」なんていう地名を目にした。きっと往来する商人の宿なんかが沢山あった場所なんだろうなあと、それがいつかもわからぬこの土地の過去に思いを馳せる。
ド田舎の駅なんかは存在そのものがエモいし、まばらに残る民家を見ては、この土地の住民はどんな営みを紡いできたのだろうとしみじみしてしまう。こういう感覚を共有できる友達が欲しい。
そんなこんなで、何気にプライベートでは初の青森県に突入した。
盛美園
最初はずっと気になっていた青森県平川市の盛美園へ。詳細についてはあまり下調べせずに来たのだけれど、ざっくり言うと地元の資産家が明治時代に造った個人の庭園らしい。
この美しい日本庭園は10分弱もあれば隅々まで歩き回れるくらいの程よい広さで、静けさに満ちたとても心落ち着く空間だった。
また庭園の端には和洋折衷の見事な建築物「盛美館」があり、こちらも中に入ることができた。(一階部分のみ)
庭園を望む客間からの風景は格別で、今となってはおよそ劇画でしかお目にかかれないような日本の美がそこにはあった。
また、この躊躇無く大窓を嵌め込み徹底的に光を取り込む厠(かわや)の様式も、現代の御手洗いにおけるプライバシーを重視した様式とは一線を画す。
明治生まれの文豪 谷崎潤一郎は、著書「陰影礼賛」において当時の日本の厠に対する賛美をこう綴った。
まことに厠は虫の音によく、鳥の声によく、月夜にもまたふさわしく、四季おりおりの物のあわれを味わうのに最も適した場所であって、恐らく古来の俳人は此処から無数の題材を得ているであろう。
されば日本の建築の中で、一番風流に出来ているのは厠であるとも云えなくはない。総べてのものを詩化してしまう我等の祖先は、住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。
- 出典「陰影礼賛」谷崎潤一郎
御手洗いという場所を忌むことなく日当たりと風通しを与え、また外壁には梅の花の意匠を施すことで、そこを穢れた場所ではなくむしろ館の一角として風雅を与える。この御手洗いと言う最も身近なところに対する現代には無い感覚は、実際に目の当たりにすることで大きなカルチャーショックとなった。
あと来た時なぜか受付に誰もいなくて、券売機で入場券買って勝手に入ってたら、後ろから「お客さーん!今入られたばかりですか!?」と呼び止める職員さんの声が聞こえた。
振り返ると「ぜひ最初に見て欲しいところがある」とのことで、引き返して職員さんに着いていくと、盛美館の隣にある離れのような建物に誘導された。
そこは「御宝殿」という仏間のようで、中は真っ暗な土間のようになっており何だろうと期待していると、点灯するやいなや豪華絢爛な位牌堂が眼前に現れた。
大日如来を祀る金箔に覆われた堂内は見事なもので、更に堂内左右の壁を飾る巨大な蒔絵が言葉を失うほどの美しさで、これを見れただけでも来た甲斐があったと心から感動した。
蒔絵としては日本最大らしいそのサイズに加え、公開時間をも限定した徹底的な管理体制によって保存状態を極めて良好に維持できているのだとか。これは本当に、美術とか好きな人は絶対観に行った方がいいと思う。
撮影禁止だったからHPでしか写真は見れないけれど、想像以上に凄い物を観れて大満足だった。
盛美園、好きな人にはとことんハマるスポットだと思う。
岩木山神社
弘前から鯵ヶ沢方面へ続く道を進んでいると、「岩木山」という、津軽富士とも呼ばれる大きな山が見えてくる。その山の麓にある神社がとてもいい場所だと聞いていたので、ここも目的地の一つにしていた。
境内入り口には広めの駐車場があり、参道の手前には大きな鳥居が建つ。この鳥居から社殿まで一直線の参道となっており、天気が良いとさらに奥の岩木山山頂も正面に見えるのだとか。
圧倒的な迫力がある巨大楼門に、
とっても荘厳でこれまた巨大な社殿。
ここではあまり写真を撮らなかったものの、参道上でも所々脇道があっては意味深な石碑があったり飲食店があったり、場所が場所だけに雰囲気も良くて、素晴らしいスポットだった。
こんな素敵なところが近場にあったらしょっちゅう通っちゃうな…
白神山地
思い付きで、帰り道は往路とは反対に西側を回るルートで行くことにした。
岩木川に沿ってそのまま南下する形で山道を進んでいると、間も無く津軽白神湖・美山湖といった広大なダム湖がロードサイドに現れる。人工のダム湖とはいえ圧巻で、湖畔公園に降り立つとその空間の壮大さに息を飲んだ。
白神山地を通過する予定が全く無かったから当然下調べもしておらず、とりあえずやたらと案内表示が目に付く「暗門の滝」とやらを目掛けてしばらく進む。
しばらく車を走らせ、とりあえずそれっぽい所に辿り着いたものの、この先は入山届を提出した上で進むにはヘルメットが必要だとか、サラッと行ける感じでも無いうえに今は先日の大雨(←?)によってルートが中断してしまっている所があるとのことで、今回は断念した。(入山届と言ってもその場でちょこっと個人情報書くだけで、ヘルメットも100円で借りれるから普通に行けたのだけども)
更に山道を通って鯵ヶ沢に出てから海沿いを帰ろうと思ったものの、
「この先42km砂利道です」
と言う恐ろしい看板を見て引き返した。流石にそれはしんどすぎる。
結局内陸の山道で帰ることになった。
でもその道もちょいちょい険しくて、鰺ヶ沢方面に抜ける道と大して変わらんかったんじゃないかと思ってしまう。
ただこの西目屋二ツ井線というらしいとんでもない県道、白神山地のコアゾーンからは外れているものの、深い自然の真っ只中を貫くアップダウンの激しい山道で、特に高台からの風景は流石のスケールだった。
この風光明媚な美しい山道を30kmほど走った辺りで、ようやく人間の営みが見える場所に差し掛かった。住所としては既に秋田県藤里町に入っており、”帰ってきた感”を覚え安堵する。
峨瓏の滝・銚子の滝
自然探索も終わり、あとは帰るだけだと気を抜いて車を飛ばしていると、路肩に思わぬ案内板が見えた。
整備された駐車場に、公衆トイレ・自販機もある。
ココの構図が分かるような写真を全く撮ってなかった…。
駐車場からすぐ滝つぼに降りることが出来て、滝つぼからは川沿いに遊歩道が続く綺麗な場所。滝もそこそこボリュームがあって、20mほど離れた所でも水しぶきを感じるほど。
到達難易度も野生度も☆×1だけど、それでもやはり白神山地の息吹を感じるというか、あんなに整備されているのに、空間に満ちる荘厳さは今まで見てきた多くの滝を上回るレベルだった。
思わぬ出会いに感動し、改めて県道を南下していると、またもや滝の案内板を見つけた。それによると、和みの湯という温泉旅館の敷地内を奥に進むとまたもや滝があるらしい。
凄かった。ココでも構図を一望できる写真を取り損ねたのだけれど、ドーム状の岩盤の上からド直球ストレートな直瀑が落ちるタイプ。
見ての通り本当に真っ直ぐで細長い直瀑なので莫大な水量があるわけでは無いけれど、落差は18mとそこそこで、何より閉じた空間に響く轟音と爆風も込みで、写真では伝わらない結構な迫力がある。
ドーム上の岩盤から流れ落ちる滝とくれば、秋田では男鹿市北浦にある男鹿大滝を想起するけれど、空間の閉塞度合いはむしろ同じ男鹿でも海の方にあるカンカネ堂に近いほど。と言えば分かる人には伝わるだろうか。
峨瓏の滝もかなり良い滝だったけれど、こちらの銚子の滝は個人的に過去最高クラスの感動があった。
ちなみに鹿角市十和田にも同名の滝がある。そちらは物凄いボリュームで迫力は県内最大級なのだけれど、この藤里の方もそれに負けず劣らずな名スポットだと思う。
泣いちゃいそうだ。
帰還
弘前城とか有名な所も一応行っておきたかったのだけれど、いつでも行けると思って今回はパスした。
それでも、ココに載せるまでもないような名も無きスポットでも幾度となく立ち止まっては絶景を楽しめたし、本当にボリューム満点なドライブで、かなり長く濃い一日になった。
ちなみに昼食は弘前名物の煮干しラーメンを、たかはし中華そばにて。
美味かった。次はもっとエグいの食べたい。
あとデザートでは、岩木山神社の手前にある野市里(のいちご)という直売所の嶺きみソフトも激ウマ!
しかもキャンペーン中とか何とかでヤバいアイテムまで貰ってしまった。
以上、最高の一日でした。
次はどこに行こうかな!