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都会の絶望は田舎の希望

僕はいま、埼玉県の横瀬町という人口8,000人の小さな町で、ホームページ制作などを生業としながら暮らしている。獨協大学に通うために18歳で横瀬町を出て、そのまま都内の上場企業に就職。一度の転職を経て約11年間の都会生活ののち、4年前に横瀬町にUターンしたのだ。



僕は都会で絶望した。


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毎日、満員電車に揺られながら会社に通い、特に野望ももたず、決められた仕事をこなす。そして日々の疲れを紛らわすために飲み歩いては散財し、貯金は減る一方。気持ちも不安定な日々が続いていた。

周りを見れば、自分より稼ぎ、高層マンションに住み、裕福な暮らしをする人ばかりに目がいき、自分の劣等感と現実に苛まれ、自分より優秀な人が溢れる都会の競争に心底疲れていた


「このままでいいのか…」


そう問い続けていた自分は、いつしか田舎の横瀬町のことを思い出すようになった。

18歳で横瀬町を離れた時、「ここには二度と帰ってこないだろうな」と思った自分が、残業帰りの終電を待ちながら「田舎に住むってどんな感じなんだろう」と、そんなことを思うようになった。33歳の頃だった。


とはいえすぐに田舎に移住することはせず、週末を実家で過ごしながら、少しずつ田舎の空気を自分の中に取り込むようにしていった。まばゆいばかりの緑、澄んだ空気、静かにそよぐ風の音。「田舎には何もない」そう思って離れた町は、30歳を過ぎた自分には、少し昔と違うように見えた。


あれ、田舎には何もないと思って上京したのに、ここには都会にないものがたくさんある

そう気づいたときには、横瀬へのUターンを決心していた。


実際のところ、インターネットの光回線はどこでも引けるし、アマゾンは翌日に届く。話題の映画やドラマはNetflixで見られ、著名人のイベントはZoomで参加できる。僕のいた頃の田舎とはだいぶ別物だ。しいて無いものを挙げるとすれば、朝までやってる居酒屋やきらびやかな夜景くらいなものか。

都会にあって田舎にないものなんてあまり思いつかないし、逆に都会にはないものが田舎にはたくさんあるんじゃないか

そんなことに気づいたとき、なぜ都会での暮らしでは「いまよりいい家に住みたい」「もっと美味しいものを食べたい」「かっこいい服を着たいと」と、幸せのハードルを“上げる”ことしかしていなかったんだろう。お金がなくても、こんなにも心が豊かになれる場所があるんじゃないか、そうに気づいた。東京は周りの芝生が青すぎるし、そもそも周りに芝が多すぎるんだ。

そうして僕は、4年前に東京の大田区から埼玉県の横瀬町へUターンし、個人事業主として独立をした。



横瀬での生活は順調で、これまでに多くの方からお仕事をいただいた。田舎での仕事は本当に楽しい。何が楽しいかというと、お客さんとの距離が圧倒的に近く、成果も目にみえ、笑顔を直接見ることができたり、アウトプットしたものが町に広がったりすることだ。

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都内で働いていた時はひたすら目の前の仕事をこなすだけで、この仕事が社会にどんな影響を与えて、誰を幸せにして、何につながるのかなんてほとんど考えられなかった。ただあったのは「競争」。あそこには負けない、もっと売り上げを上げる。そんなことばかり追い続けていた。

しかし、田舎での仕事はまるで違う。都会にはゴロゴロいたはずの競合がほとんどおらず、Webやデザインの価値を提供できるのは自分しかいないのだ。だから、僕に様々な相談がくる。そして、自分のアウトプットに対する反応が非常に大きい。お客さんが直接喜んでいる姿が見られるもちろん、作ったポスターが街に貼られたり、公開したホームページが人伝にどんどんと広がっていったり。

規模は小さくなったけど、人との距離は近くなった。この距離が近いことに、自分の仕事のやりがいを強く感じる。



僕はそんな都内での生き方と田舎での生き方、両方を経験してわかってきたことがある。それは、自分の限られたリソース(時間やお金)をどこに投下するかは非常に重要なポイントであるということ。都会にいる時は自分のリソース割いても、砂漠に水を撒くように徒労に終わることばかりだった(すべてがそうではないが)。

でも、同じリソースを田舎に注ぐとどうだろう。おもしろいように次から次へと芽が出て形になる。砂漠のような広さはないけど、小さな畑が充実していく感じだ。

絵本作家で芸人の西野亮廣さんが「1,000万円では渋谷の課題は解決しづらいけど、カンボジアなら同じお金で学校を作れる。そっちの方がおもしろい」という話をしていたのを覚えている。まさにそうで、僕たちの限られた時間やお金を競争で削りあってる都会に投下するより、自分の価値が思いっきり発揮される田舎に投下した方が、より目に見える成果を得やすいと思うのだ。

今では県立高校や自治体、地元の病院など、様々なクライアントのお仕事をやらせてもらえるようになったが、これは僕のリソースを都会という大きな砂漠ではなく、横瀬町という小さな畑に全力投下しているからこそ、芽生えたものだと思う。

もちろん、広大な砂漠を開拓していくというチャレンジは素晴らしいと思う。でも、全員がそのチャレンジをしなくてもいいのではないか。グローバルではなくローカル。自分の畑を大切に育てる、そんな生き方も幸せを考える上では大切だと思う

東京には魅力的なお店や人、情報に溢れているし、センスも圧倒的に良い。だからそのきらびやかさに人は惹かれていくと思うにだが、そのきらびやかさに身を置くのは同時に自分自身の心をすり減らすことにもなる。


僕が都会で感じた絶望は、田舎では希望になる。そう思う日々だ。

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