天才は如何にして凡才に殺されたのか 第一話 (全3話)
薄暗い路地が湾曲する。
カビ臭い湿気が体の表面を撫で回し、明滅する電灯が小さな猫の死骸を照らす。足元には無数の活字が砕けて散らばり、少し重心をズラすと不愉快な音を立てて崩れた。
路の向こう側では明るく綺羅びやかなネオンが騒がしい音楽と共に煌々と輝き、行き交う人々は同じ方向に顔を向けている。彼らの視線の先には奴がいる。冗談みたいなつけ髭にタキシード、仰々しい仕草で揚々と歌う男。決して上手くはなく、調子のいい言葉を並べた男の歌は、多くの人間の興味を惹き付けている。 届かない。奴