見出し画像

これまで公的負担してきた船後・木村両議員の介助者費用を、自己負担に切り替えることは公平なのか?

※この記事は、最後まで無料で読めます。

舩後靖彦、木村英子両議員の介助者費用について、SNS上では自己負担を求める声が大きい。

しかし、筆者は、介助者費用を自己負担とすることは、ハンデにハンデを重ねることであって不公平ではないかと考えている。

予め立場を明らかにしておくが、筆者は、山本太郎代表を擁するれいわ新選組を支持していない。今回の参院選も、全国比例区はずっと応援をしてきた自民党出馬の山田太郎氏に票を投じており、れいわ新選組は最初から選択肢に入れてなかった。

しかし、そんな筆者の目から見ても、両議員に対する風当たりの強さは常軌を逸しているように見える。


さいたま市が、重度障害者の在宅勤務を独自に支援するモデル事業を開始

木村議員が提起した議員活動中における介助者費用の公的負担は、仕事中に発生する介助者費用の負担はどうあるべきかという、他の重度障害者も頭を悩ませている問題である。2018年12月にも、一部で話題になっていた話だ

詳しくは後述するが、ALS などの重度障害者を介助する重度訪問介護サービスは、原則1割の自己負担で日常生活の介助を受けることが可能だ。しかし、在宅勤務などで仕事をしている時間は公的負担の対象外となり、当該時間分は全額自己負担を求められる。

こうした現状を問題と捉えた さいたま市は、利用者が仕事をしている時間の介助者費用についても公的負担とするよう国へ規制緩和を求める一方、2019年4月から市の財源で公的負担としていくモデル事業を始めている。

重度障害者に就労支援を さいたま市の取り組み(2019/2/5 NHK)



両議員の介助者費用は、これまでも公的負担してきた。議員当選で追加発生するものではない

まず、SNS上での誤解なのか印象操作なのかは不明だが、両議員の介助者費用は国会議員になったことで追加発生するものではない。

両議員は、その障害の重さから障害福祉サービスの1つである「重度訪問介護」を利用されている。

重度訪問介護とは、次のように日常生活のあらゆる場面で介助者によるサポートを受けられるサービスだ。

・食事        ・排泄        ・衣類の着脱
・入浴        ・起床、就寝     ・床ずれ防止等の体位変換
・爪切りなど身体整容 ・服薬、水分補給   ・洗濯、衣類の整理
・掃除、ゴミ出し   ・調理        ・生活必需品の買い物
・ベッドメイク    ・外出時の付添


家族で介助する時間を取る場合もあるが、3人のヘルパーが8時間ずつの交代制で介助にあたることが多いようだ。

前提として、重度障害を抱えながら生きるにあたって、こうした介助は常時必要となるものである。両議員も議員になる前から、その介助者費用について公的補助を受けてこられた。

では、SNS 上で見られる「両議員を国会に送るために発生する膨大な費用負担」というのは、何の費用を指しているのだろうか?

国会議員の歳費のことなら、他の議員たちと同様で両議員を特にあげつらう必要はない。国会議員になったからといって、介助者の人数が倍に増える訳でもないだろう。

24時間、日常生活へのサポートとして公的に補助されていた介助。そこに経済活動にあたる議員活動の時間が発生すると全額負担をさせる口実を得る訳だが、これを指して膨大な費用負担と言っているのだろうか?

谷垣禎一氏の引退にあたって「もっと何か出来たのではないか?」と思ってきた筆者にとって、舩後、木村両議員の登院に対して「きっと大変だぞ」というイメージによる批判を展開されるのは、正直、迷惑である。



普段のトイレ介助なら1割負担、仕事中のトイレ介助は全額負担

重度訪問介護における食事や排泄など日常生活に対する介助は、原則、サービス利用料の1割が自己負担となる。ただし、生活保護受給世帯では0円、市民税所得割額の合計が 16万円以上なら 37,200円など、月額負担上限額も決められている

しかし、1割負担などで済むのは、あくまで利用者の日常生活に対する介助の話だ。

重度訪問介護費用の概算例
・1時間未満を1回・・・費用 1,830円、自己負担額 183円
・12h 以上16h 未満を1回・・・20,970円(12hまで)に30分ごと+810円、
               自己負担額 2,097円に30分ごと+81円
・20h 以上 24h 未満を1回・・・34,330円(20hまで)に30分ごと+810円、
               自己負担額 3,433円に30分ごと+81円


通勤のための外出や業務中の介助については、利用者の経済活動に対する介助という扱いに変わる。そして、経済活動に対する介助者費用は公的補助の対象外とされ、全額自己負担か雇用主負担を求められるのが現状だ。

具体的には、同じトイレ介助であっても、業務外でトイレに行く場合の介助者費用は1割負担で、業務中にトイレに行く場合の介助者費用は全額負担となる。

そのため仕事をしている重度障害者の中には、得られる収入に対して介助者費用の自己負担が割に合わないことから、業務中は介助者を付けないといった対応をしている方も居る。介助者が居ないと水を飲むのも難しく、トイレに行くことも出来ないにもかかわらずだ。


何度でも言うが、重度障害を抱えている方々は、24時間、生きるための介助を必要としている。

それが日常生活のサポートである限りは、その介助者費用は公的補助を受けられる。しかし、仕事をしている時間は経済活動に当たるため、仕事をしなくても発生する介助まで公的補助を外されて自己負担を求められる。

これだったら、出来る仕事が見つかったとしても、重度身体障害者は仕事など持たない方が生活は楽なのではないか?

少なくとも全額負担ではなく、業務中の介助も認める代わりに月額負担上限額 37,200円の上に幾つかの等級を追加し、収入に応じて最高10万円まで負担して貰うなど、仕事を持つメリットが必要だろう。

木村議員による問題提起は、国会議員の仕事は定時というものが不明瞭であり、急激に増える自己負担額が厳しいという金銭的問題でもあるだろう。しかしその本質は、仕事を持つことで損をする現行制度が障害者の自立を阻害しているという話である。

ALS を発症しながら FC岐阜の社長をされていた恩田聖敬氏のブログ



重度障害を抱える議員の介助者費用を、歳費で賄わせることの不公平

常に介助者を必要とする舩後、木村両議員の議員活動中の介助者費用に関して、「歳費でやりくりすればよろしいのでは?」など自己負担を求める声が大きい。

しかし、そこに公平性はあるのだろうか?

1日12時間を議員活動と考えた場合の重度訪問介護費用の概算例 ※
・日常分の月額上限 37,200円 × 12カ月 = 44万6,400円
 (12時間1回 2,097円 × 30日 = 62,910円)
・議員活動分 20,970円 × 365日 = 765万4,050円
     ※筆者の理解範囲による試算のため誤っている可能性があります
国会議員の歳費(2018年)
・歳費月額・・・・・・ 129.4万円 × 12カ月 = 1,552万8,000円
・6月期期末手当・・・ 296万円
・12月期期末手当・・・ 333万円


ただでさえ、両議員に対しては、身体的にも体力的にも議員として成果を出せるかどうかについて疑問視する声が多い。

にもかかわらず、健常者の議員であれば私設秘書の雇用にも使える歳費を介助者費用に当てて、健常者の議員よりも少ない人数の秘書で議員活動に当たらせることは、ハンデの上にハンデを課すことではないのか?

その様にハンデを重ねるのであれば、仮に両議員の活動成果が他の議員と比べて見劣りしたとしても、「歳費を介助者費用に当てており、他の議員より秘書人数も少なく、仕事を回せていない」と言い訳が出来てしまうだろう。

こうした事態は、議員同士の公平な競争の邪魔になると筆者は考えている。

両議員を、他の重度障害者と比較して優遇するべきではない、という見方も理解はしている。しかしだからと言って、両議員に、他の議員と比較して不利になることを甘受してもらう、というのもおかしな話ではないだろうか?



重度障害を抱える議員の介助者費用を、政党責任とすることの不公平

舩後、木村両議員が れいわ新選組の所属であることから、党が責任を持つべきという意見も多い。両議員を立候補させたのは れいわ新選組であるし、両議員を当選させたのは れいわ新選組支持者であることから、自己責任論としては解りやすい形ではある。

これまでは問題にもなりにくく、所属議員が障害を抱えている場合は、各政党で対応してきたと思われる。

しかし、選挙で選ばれた議員が抱えているハンデの穴埋めを、国会としてではなく各政党に用意させることは公平なのだろうか?

重度障害者の介助者費用に限らず所属議員のハンデの穴埋めを政党責任とした場合、各政党は余分な費用負担を嫌って、ハンデを抱えた議員の擁立を回避するようになる。

国会は有権者の代表者同士が議論をする場所であるため、一見、障害を抱えた当事者が出てこない国会も良いものに見える。

しかし、公職選挙法は、障害を抱えた有権者に対して立候補を制限していない訳で、障害を抱えた候補者が立たないよう利益で誘導することに筆者は違和感を覚える。

仮にそんな回りくどいことをする必要があるなら、堂々と、公職選挙法に障害による立候補制限を設ける話をするべきだ。障害を抱えて生きている方々に空気を読んだ立候補辞退を迫るよりも、その方がずっと健全である。

公職選挙法が障害を抱えた方々の立候補を認めている限り、ハンデの穴埋めを、議員個人や所属政党に負担を課すのは不公平ではないだろうか?



重度障害を抱える議員の介助者費用は、雇用主である国の負担ではないのか?

先に、経済活動に対する介助者費用は、全額自己負担か雇用主負担を求められると述べた。これを雇用主負担で語るのであれば、国会議員の歳費は国が払っている訳で、国会議員の雇用主は国になるのではないか?

比例全国区選出の舩後、木村両議員では起こり難いことではあるが、国会議員が所属政党を変えることはしばしば見られる光景だ。

つまり、政党は各議員の活動を円滑にするための政策グループに過ぎず、雇用関係は国と議員の間にあると見るべきだろう。

であれば、重度障害を抱えた議員の介助者費用は国の負担、公費負担と考えるのが筋だと筆者は考えている。



議員が議事堂の席に着くことは必須なのか? テレワークの可能性

参議院は、70万円をかけて両議員のためのバリアフリー改修を行ったと報道があった。このフットワークの軽さは、国会が船後、木村両議員の登院を前向きに捉えている証拠だろう。

また、参議院は法案の賛成/反対も押しボタン式投票にしているため、IT などとも親和性が高いと筆者は考えている。

法案などの採決に関しては、両議員に代わって介助者がボタンを押すかたちで対応されるようだ。しかし、もし PC をつなげられるのであれば、介助者が代行せずとも、両議員が直接に投票することも可能となるだろう。

更に PC につなげられるのであれば、ネットにもつなげられる訳で、国会議員にもテレワークを導入することを考えて良いのではないか? 日産とルノーも臨時取締役会ではテレビ会議を使っていたし、今どき、PC とネットを使ったテレビ会議など珍しくもない話だ。

テレワークの導入は、船後、木村両議員の件以外でも、在職中に出産して新生児から離れるのが難しくなった議員や、ケガや病気で移動が難しくなった議員にとってもメリットとなるだろう。

もちろん、日本国憲法には「第五十六条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」等の定めがあるため、テレワークによる出席を「出席」と認めるようにするには法改正も必要となるはずだ。

どこまで進めるかからの話にはなるが、議事堂に登って着座することは必須なのか、という議論もあって良いように思う。

ちなみに、船後議員が言及した分身ロボットは、オリィ研究所が開発・普及を進めている「OriHime」だと思われる。

OriHime は、ALS や筋ジストロフィーなどで寝たきり状態にある方々でも遠隔操作できるようにしたロボットだ。既に、ALS患者の方などが遠隔操作する OriHime で接客係を行った分身ロボットカフェや、OriHime を通じた登山体験といった実績がある。

ロボットであれば腕のジェスチャーなども付けられるし、ロボットで議事堂内を移動することも可能となるため、テレビ会議とはまた違ったテレワークを実現できるかもしれない。

ALS患者らが目で操作 「分身ロボット」が接客するカフェ(2018/10/4)



まとめ 人一倍支援が必要な議員活動をどう見るか

SNS上で「山本代表が介助者として国会に出てくる」という発言を見かけたが、仮に山本代表が船後、木村両議員の介助者を務めるようなら れいわ新選組はそこまでの政党になっていくのだろう。

党代表には、今ある支持者の支持固めと更なる支持者の拡大という最重要の仕事がある訳で、両議員の介助者をやっている暇はないはずだ。

おそらく両議員の議員活動を支えるのは、意思疎通などを考えると、それぞれを長くサポートをしてきた方々になるだろう。

当然、一般の身体障害者をサポートするのと国会議員をサポートするのとでは重圧も勝手も異なるはずで、介助者へのサポートも視野に入れなければ、議員も介助者も共に倒れてしまう。素直に考えれば、両議員の私設秘書は、健常者の議員よりも人数が多くないと仕事を消化しきれないように思う。

筆者は、両議員に国会議員として求められる一定水準の働きを求めている。その立場から見ると、介助者費用を議員歳費でやりくりさせるといった意見には疑問を感じるのだ。

当の参議院は、両議員の介助者費用に関して公的に補助することに前向きのようである。本編で述べたように、筆者は、国会議員の雇用主は国で介助者費用は国が負担すべきと考えており、参議院の動きを支持している。

舩後、木村両議員の議員活動を考えることは、両議員をいかに優遇するかという話ではない。今後、在職中にケガや持病の悪化で車椅子生活になる議員も出てくるかもしれない訳で、その備えをきちんとするべきだと筆者は考えている。(了)






↓ ↓ ↓ お代をいただいた方への謝辞です ↓ ↓ ↓ ─────────────────────────────────

ここから先は

38字

¥ 100

つたない文章を読んでいただき、ありがとうございました。サポートいただけると喜びます。