66.京都での暮らし②「お嬢編」
先日書いた、京都での暮らし続編です。
「お嬢に会いに行かへん?」
一緒に住んでいた友達から急に言われました。
バイトしてたコンビニが盗撮により潰れて、暇を持て余していたので、見かねた友達が誘ってくれたんです。
お嬢というのは、古くからの付き合いがある友達みたいで、銀閣寺に繋がる哲学の道を1本奥に入ったところに住んでいるそうです。
「会うとびっくりすんで」
びっくり?暇だったし、興味惹かれるまま友達に連れて行ってもらいました。
そもそもわたしは「哲学の道」という名所があることを知りませんでした。さらさら流れる水路沿いの緑がきれいで「京都っぽい京都っぽい!」とバカのようにはしゃいでました。
しかも「哲学の道」なんて、そのネーミングにますます興奮します。
『人は人、吾はわれ也、とにかくに吾いく道を吾は行くなり』
そういえば、京都に引っ越してきてから、初めて行った観光名所がここでしたね。
しばらく歩くと、開きっぱなしの大きな門構えの家に着きました。
中を覗いてみると二階建てで、見るからに木造で、一番びっくりしたのが、吹き抜けのようになっている中庭に、とても大きな松の木が立っていたことです。
「もしかして、この家?」
「そやで。ここの2階」
あっけにとられたわたしを置いて、友達はさっさと中に入っていくので、慌てて後を追いました。
板張りの廊下を少し歩いた先に階段があり、一段上がる度にギシッと音がなります。なぜだか緊張してしまい、一歩一歩慎重に上がると、目の前にいたのは着物を着た綺麗なお姉さんでした。
「この人がお嬢」
もしかして江戸時代からタイムスリップしてきたのか、それともわたしがタイムスリップしたのか、不思議な感覚に囚われます。あの門をくぐった時に、次元をすっ飛ばしたんでしょうか。
二階の突き当たりがお嬢の部屋でした。
この大きい家は、アパートになっているみたいで、トイレ風呂キッチン全て共同。今でいうシェアハウス的な感じですね。とはいっても、シェアハウスというよりも下宿というイメージです。
お嬢の部屋に入ると、ますます驚かされます。
8畳くらいの和室に、昭和歌謡のレコードがぎっしり。CDではなく、レコードですよ。そしてインテリアも昭和レトロをとことん詰めこんだような部屋でした。
「赤ワイン、一緒に飲む?」
わたしはまだ19歳。お嬢と友達は赤ワインを飲み、わたしはリンゴジュースです。1人だけ小さな子供みたい・・・。
「なんかBGMでも」
お嬢はそう言って、適当にレコードを選び針を乗せます。その仕草もわたしには新鮮で、少し見惚れちゃいました。そして流れる昭和歌謡。
お嬢は大学の合間に、着物の着付けのバイトをしていました。
そして大学に行く時も、友達と遊びに行く時も、常に着物で過ごしているらしく、それでいつからか「お嬢」と呼ばれるようになったそうです。
「でもわたし横浜出身」
・・・は?横浜ってあの横浜ですか?神奈川県横浜市ですか??
またもあっけにとられ、ポカーンと口を開けているわたしに、お嬢が京都にきた理由を教えてくれました。
小さい頃から、日本の古いものが大好きで、ずっと京都に憧れを持っていたそうです。絶対に京都に住む!と思いながら高校時代を過ごし、無事に京都の大学に進学。しかも京大でした。す、すごいよお嬢!!
大学卒業したらどうすんの?という友達の問いにお嬢は、もう夢叶ったからどうしよっかなーって言ってました。
「YOUはなにしに日本へ?」の国内バージョンですよね。日本が好きだから来た、というのと同じで、京都が好きだから来た。その価値観がわたしにはなかったので、夢って職業だけじゃないんだなって思ったし、そんなお嬢が大好きになりました。
昭和歌謡を聴きながら、着物で赤ワインを飲み、ちょっと顔を赤くしながら話すお嬢の姿がとても印象的で、今でも鮮明に目に焼き付いています。
京都には他にどんな人がいるんだろう。エロ漫画家、盗撮オーナー、お嬢。個性的な人としか出会っていません。
それで、次に選んだバイト先がキャバクラです。いろんな人がいそうで、きっと面白いと思ったから。
次は、キャバ嬢ではないキャバクラの話。