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加藤の話

さっきまで友人が来ていた。

ほんの1時間半ほどの間、一緒に夕飯を食べながらお互いの近況を話し合った。
あたりにはまだ彼女がまとっていた、優しい雰囲気が残っている。

彼女には小学2年生になる娘がおり、もうすぐ始まるプールの授業での着替えを嫌がるので、娘だけ違う教室で着替えられないか、と学校に相談へ行ったとのことだった。

自分の体型を気にしているのだという。

誰かに何か言われたのだろうか。
まだ8歳になる前の小さな心で、そんなことを気に病むだなんて、私の心もキュッと縮んでしまう。

夫が
「プールの授業を見学にするのはどうかな? もちろん本人が望めば」
と提案すると、帰って娘に聞いてみると言っていた。

かわいいかわいい彼女の娘が、どうか自分を嫌いになりませんように。
生まれたままの美しい心が、どうか損なわれませんように。

悶々と考える私に、夫は加藤のことを話し始めたのだった。

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夫と加藤は高校1年生の時、同じクラスだった。
加藤は、特に目立つ生徒ではなく、成績は中の上、ユーモアセンスがなく、カッコいいわけでもない。
よく言えば真面目、悪く言えば堅物とも言える、普通の男子だったそうだ。

けれど加藤は、すごかった。
四六時中勃っていた。
思春期の男子にありがちな、という言葉ではおさまらないほど、朝のホームルームから授業中、全校集会に至るまで、いつ何時も勃っているのだった。
チャイムが鳴ると「キリーツ!」の掛け声とともに椅子が床を擦る音がする。
クラスの全員が立ち上がっても、加藤は座っていた。
「加藤、立てへんの?」
「いやコイツもう勃ってるから」
このくだらないやり取りが何十回と繰り返され、誰も笑わなくなっても加藤の勢いがおさまることはなかった。

ある夏の暑い日。
プールの授業でのことだ。
男子は全員校則で定められた、ブーメラン型水着を着用していた。
その日は、たまたま男女同時に授業を受ける日で、クラスの女子がプールを挟んで向かい合わせに並んでいた。
そんな中、加藤はマックスの状態で勃起していた。
ボクサー型と違ってブーメラン水着には遊びがなく、股間にぴったりとフィットする。
まるで壁掛けフックに、コートを吊り下げた時のように、ブーメランパンツのゴムになんとか引っ掛かっていたものの、その顔はあわや飛び出さんとしていた。

「はみ出るはみ出る!」
「女子にバレるって!」
「ブリンッてなったら終わりやぞ」
「引っ掛けとけよー」

男子たちが口々に野次を飛ばすなか、「ちょ、見んなよ」と言いながら、加藤はX字に足を重ねて隊列に並んだ。

準備体操が始まった。

膝の屈伸、体側伸ばし、上体の前後屈…

加藤の横列に並んでいた男子は首を伸ばし、前方にいた男子は振り返り、誰もが加藤の股間を見ていた。

目が、離せなかった。

この一件以来、さすがに加藤も懲りたのか、プールの授業は見学するようになったそうだ。
夫が何気なく、プールの隅で体操服を着て見学する加藤の前を通ると、やはり勃っていた。

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休めばいい。

学校へ行く/行かない
宿題をする/しない
制服を着る/着ない
授業を受ける/受けない

行動を、価値観を、未熟な心に、小さな体に押し付けないで欲しい。
子どもたちに、選択肢を与えて欲しい。

プールサイドでおっとりと、はにかむように笑うあの娘の笑顔を想った。

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