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原子力の有識者が集まって、原子力の課題と今後の座談会をしたら、いろいろ課題が挙げられました。

昨年11月、原子力学会誌『ATOMOS』の企画で、原子力のこれまでとこれからを語る座談会が開催されました。
私はなんの関係もないですが、内容が面白かったので要約してシェア。
なお要約は私が勝手にやっているものなので、本記事の文責は私です。

きちんと内容を知りたい場合は、以下リンク6ページ目から記事本文を。

原子力の課題

これまでの原子力の何が悪かったのか?
有識者から挙げられた課題をまとめると以下。

① 客観的事実が十分に整理・公開されていないため、何に基づいて考えればよいかが示されていない。特に政治に対してきちんとデータを示すことが重要。
② 原子力業界内で内向きの議論を繰り返しており、開かれた議論がない。
③ 福島第一原発事故について、何が片付いて何が残っているのか整理されていない。
④ 国あるいは社会の明確なビジョンがなく、何を目指すのかわからない。

①~③は主に業界内で、④は国や政治の課題ですね。

①は客観的事実を整備して広く公開するのが不十分、という指摘と思います。もちろん業界内では整備されてますが、外向きになってない。
どれくらい安全なのか、それでも残るリスクには何があるのか。そしてなぜ、そのリスクを受け入れて原子力発電をする意味があるのか。
これをきちんと示してあげて、社会あるいは政治の意思決定を助けてあげる必要がある。

実際、原子力安全は最高峰のものが要求されるので、その知見は一般でも活用されるべきなんですよね。F1カーを作ったら技術をマイナーチェンジして乗用車を作るんじゃ。
私がもっと書いて発信できればいいんですけど、安全設計は経験がないんですよね…。設計規格でも買って勉強しようかしらん。以前にそういう趣旨で記事を書いてますのでぜひ。

②は原子力業界の内向き体質への批判。
原子力業界内では、原子力が必要というのは当然です。必要だと思うからみんな仕事してるわけですし。
しかし議論はもっと広く行われるほうが良いのは間違いなく、特にカーボンニュートラルを目指すと明言した以上、原子力に向き合うことは必須です。
原子力をどうする、という狭いテーマではなく、気候変動に対してどのように対応するか、という広いテーマの中で議論したいですね。
①と合わせてやっていきましょう。

③は福島事故の反省と、そこからの改善が不十分なんじゃないかという指摘。
記事本文では「福島事故調査において原子力学会が果たした/果たすべき役割はなにか」という文脈で指摘されているようです。
福島事故って難しいんです。事故調査報告書がいくつもあって、ちょっとずつ違うこと言ってたりして、評価が受け手に委ねられてしまうところがあります。(全部は読んでないんですけど…)
学会という立場は中立的に客観的事実をまとめるのに良い立場だと思うので、個人的にもしっかりメッセージを打ち出してほしいなーと思います。
学会公式note作りましょうよ。

④は政治/規制への批判。No Vision No Future.
日本では規制庁様の言う通り~!であり、規制庁のパワハラとまで言われています。
これはお互いに良くなくて、事業者は規制庁の言いなりになってしまうし、規制庁はものすごく大きな責任を負うことになってしまいます。
海外だと、事業者と規制者が『原子力を上手く使うためにどうするか?』という課題感で連携している場合があるようです。
たとえば、一時的に規制を緩めてあげて、事業者がさっさと工事を進められるようにしてるようです。なぜかというと、半端に放置されるほうが全体のリスクが大きいから。
安全が確保されるように規制しながら原子力を活用するのか、とにかく可能な限り厳しくする(≒経済的合理性を無くして衰退させる)のか。
政治的にビジョンを示してほしいところ……そしてそのためには①で言ったように客観的事実をきちんと示すことが大事、となるんでしょうね。

原子力が今後やるべきこと

① これまでの知見を整備・公開する。継続的に発信を続け、開かれた議論の場を作る。
② 気候変動対策に原子力がどう貢献できるのかを示す。
③ 安全指標を明確にし、定量的リスク評価を示す。

①は「ちゃんと情報公開しようぜ!」というもの。
一回メッセージを発信して終わりじゃなく、一貫したメッセージを発信し続けることが重要。『伝えた』じゃなく『伝わる』じゃないとダメ、とTwitterで見かけましたが、そのとおりですね。
議論については、賛成/反対の二択になってしまいがちなので、立場が不明瞭なままで語れる場があると良いのかなーと思います。

②は未来に向けて、なぜ原子力が重要なのかを示すこと。
記事でも指摘されていますが、今のような規制をするのであれば、原子力は安い電源ではなくなります。(なくなってます)
それでも、高出力かつ高安定な電源として、脱炭素に重要であることをきちんと伝えていく。
もちろん使わないという選択肢もあるんですが、使わないことを決めるために必要な材料は提示しましょうね、と。

③はちょっと技術的な話なんですが、定量的な安全の基準を決めようよ、というもの。
安全基準がどういうものかというと、死亡確率がいくつ以下ならOKというもの。
過去にもそんな議論があったようですが、「人の死をそのように扱うのはいかがなものか」ということで頓挫してしまったようです。
実際、感覚的に受け入れがたいという人もいるかと思いますが、政治のような大きな視点ではどうしても必要になるものです。
コロナによる死者が何人を超えたから緊急事態宣言とか、病床使用率が何%だからロックダウンとか。
そのような基準を社会全体で共有して、ものさしを共有した状態で議論できるようにならないと、いつまでもふわふわしたまま進んでしまいます。

まとめ

情報公開とオープンな議論!基本はこれ!
原子力に対する批判は、原子力業界の中から出てくるべきで、原子力学会誌にこういう記事が乗ったのは良かったなーと思います。
業界の中の人が詳しいんだから批判までちゃんとやろう!

さて、気候変動のような大きな問題は、私がどう思うか、という視点だと狭くて捉えきれないです。
社会全体としてどうなるべきか……と考えて、そのうえでメリットデメリットを踏まえて方針を決めていく。公人のような考え方が求められます。
大変ですが、これをなんとかやっていきたい。
よろしくどうぞ。

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