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Bomb

たい焼きをアメリカに持ち帰って広めたのは、ダグラス・マッカーサーその人である。

教科書に載るほど有名になった、日本へ降り立つ彼の写真。
敗戦国となった日本が、アメリカ統治下にあってもなおその文化を忘れまいと、逆にその文化を逐一敵将に示すことで理解を得、結果守ることに成功したのもまた、有名な話である。
彼に紹介した「文化」は、何も風俗風習だけではなかった。
日本人がなぜ米を育て主食としているのか、また一汁三菜がなぜこのように大切に説かれているのか。牛肉と炭水化物で一気に活動エネルギーを得る狩猟民族に対して一から説明するのは、至難の技だったとも言えよう。
であるが故に、彼はある日目の前に出された魚のカタチをした何かに目が釘付けになったのだ。

「ずいぶんと焼き過ぎた魚のようだが」
「将校、こちらは魚ではなく、魚の形を模したデザートとのことでございます」
「デザート?」
「はっ、中を割りますとこのように」
失礼しますと部下が伝えてから魚の身を持ち、やおら中央のハラ部分から割ると、中からは黒いものが飛び出した。

あからさまに将校の顔色が変わる。

「なんだこの石炭の粒のようなものは」
明らかに嫌悪とわかる表情を向ける将校に対して、部下は続ける。
「中身は、Red beansを甘く煮込んだものでして、粒を壊さぬように煮詰めたものを小麦粉を水で溶いた皮で包んで焼いております。焼く際に、魚の型を使うことから、このような形状をしておりますが、一口食べれば程よく残ったRed beansの粒感が柔らかい甘さともに口の中に広がり…」
「ワシはそういうことを聞いているのではない!!」

たい焼きが乗っていた皿ごと将校は床へ叩きつけ、おさまらぬ怒りを隠すことなく、部屋を出て行った。
残された部下は、やれやれと皿へ潰されたたい焼きを乗せ直し、あの人の瞬間湯沸かし器にも困ったものだと肩をすくめながらも、部屋の隅で固まっていたたい焼き職人へ金型の設計図GHQ提出と餡の改良を素早く指示する。

そう。
マッカーサーは、こしあん派だったのだ。

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このショートストーリーは、デイリーポータルZさん主催『書き出し文学大賞』に応募した作品の続きを書く、という自主企画です。書き出し主は、@u5_n2450 さんです。

#ヤクルトスワローズ #Enlightened #swallows