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『死にたがりの君に贈る物語』もう一つのあとがき

発売から一ヵ月が経ちました。三週間で三度の重版がかかるという、作家人生で初めての出来事を経験して。具体的な数字を見ているわけじゃないから状況はよく分からないけれど、沢山の人に手に取って頂けているのではと、幸せな気持ちでいます。(発売から二週間で、重版の刷り部数が初版を越えるなんて出来事も、十二年で初めてです)

この本が2021年、唯一の書き下ろしになります。(7月にメディアワークス文庫から『セレストブルーの誓約』という本が発売されますが、こちらは2018年に発売した『青の誓約』の文庫化です。単行本には収録されていない短編が二つ加筆されます)


以前、『夜更けのおつまみ』というエッセイ本に寄稿したことがありましたけど、ポプラ社から文芸書を発売するのは初めてです。

私は2009年に新人賞を受賞して、アスキー・メディアワークス(2013年にKADOKAWAに吸収合併)からデビューしました。その後、講談社、角川書店でもお仕事をするようになったので、今回は四つ目の編集部での原稿でした。

会社が違うわけですから、同じ出版業でも、当然、様々な差異が存在します。

例えば、講談社で仕事をした時、著者校で、うちでは「一ヶ月」を「一ヵ月」と書くのが一般的ですと言われ、出版社ごとに変えると混乱しそうなので、以降、どの編集部の原稿でも「ヵ」で統一するようになりました。これは本当に些細な話ですが、ほかにも色々と違いがあって、新しいカルチャーを知る度に、それを楽しんでいます。齢一桁の頃から小説家になりたかった人間なので、本を作っていく過程も、また。

ポプラ社でも、上梓して驚いたことが幾つかあります。奥付に担当編集者の名前が載っていることも、その一つです。ポプラ社から発売された単行本は、当然、うちにも沢山あったのですが、意識してチェックしたことがなかったので、そっかー、そういうカルチャーかーと驚きました。

ネットで公開されている人気小説が、そのまま本になるケースが増えて。「編集者不要論」みたいな言説も聞くようになりました。ただ、個人的には「そんなことあるか。例えそのままで面白くても、有能な編集者の手が入ったら、100%さらに面白くなるわ」と思っています。

もちろん、「有能」であることが大前提なので、ごく稀に、編集者の手が入ったことで面白さが削り取られるケースもあるのでしょうが、自分の場合は信頼出来ると思った方としか仕事をしないので、あり得ません。今回の本も、担当さんの素敵なアイデアで、より良い本になっています。(初稿から一番変わったのは第五話だと思います)

奥付に担当編集者の名前がクレジットされるって、良いことだと思うんです。他社の本にも当然、発行者の名前は入っていますけど、そちらは話したこともない偉い役員の方ですしね。

『死にたがりの君に贈る物語』の奥付には一人の名前しか書かれていませんが、実は4月からもう一人、担当さんがついて下さったので、今はお二人の編集者さんにお世話になっています。一期一会です。


そろそろ物語の話も。

この本を書くことになった経緯については、これから掲載されるインタビューがあるので、そちらに譲るとして。もう少しパーソナルな話を。

(6/16にダ・ヴィンチに掲載されたので、リンクを貼っておきます)



2019年に一年近くかけて『盤上に君はもういない』を書いて。発売後に何度か言ったんですが、本当に、今までで一番面白い小説を書けたと思ったんです。これまでに発売してきた本を、すべて、心から面白いと思っているけど、超える話を書けたというか。多分、子どもの頃から、自分は、こんな物語を書ける小説家になりたかったんだよなって。それこそ、これが遺作で良いやと思ったくらいでした。

(公式サイトで、第二部の終わりまで試し読みが出来ます)


『盤上に君はもういない』を書き終えてから、『レッドスワン』を二冊書いて(詳細は前回のnote)。10周年イヤーに発売する本を入稿し終えたのは、緊急事態宣言が発令された去年の四月でした。

それから、この本を書き始めました。

10年間で39冊も書かせてもらえたわけだから、自分はとても恵まれていると思います。

<小説家になる>という、叶わないなら死んだ方がマシだと思っていた夢が28歳で叶って。作家になれるなら、それだけで十分だと思っていたのに、専業で生活まで出来ていて。読者さんにも、各社の社員さんたちにも、とてもよくして頂いていて。これ以上を望んだらいけないと思うほどに幸せなはずなのに。でも、やっぱり、つらいこと、苦しいことというのは、あって。

『死にたがりの君に贈る物語』には、山際さんという女性が登場します。彼女は物語の中盤で、ある病気を告白するんですが、それは私が医者に告げられた病名でもありました。

サッカーが好きで、ずっと、自分でもプレーしています。30代になっても身体能力が落ちなくて、このまま自分は老けないんじゃないかと勘違いしていた時期もあったんですが、当然そんなことはなく。三十代も半ばを過ぎた頃から、骨折は減ったのに病気が増え、視力が落ち、体力もアジリティも衰え、倒れて入院し、最近は「あれ、白髪の数も……」なんて。

身体と心って同期しているんですかね。

自分が悩むような状況にあるとは思わないんだけど。とても幸せなはずなんだけど。何だか、ずっと、心が落ち着かなくて。でも、そんな今だからこそ、形に出来るんじゃないかと思ったのが、長く暖めていたアイデア、『死にたがりの君に贈る物語』でした。

いつも、その時、一番書きたい物語を書いているんです。

でも、誰(編集者)と仕事をするか、どの編集部で原稿を書くかで、選んだ物語の方向性が修正されていく部分も確かにあって。

例えば、講談社の第三出版部なら、(十代の頃から憧れていたこともあり)ミステリだろ。正面からミステリしかないだろ。と、思いますし。

児童書を沢山読んできたポプラ社なら、優しい物語。暖かい物語。自分にとっても、誰かにとっても、救いになるような物語が良いなと思って。それまでの数年間で関係性を築けていた編集者さんにプロットを読んで頂き、ここで、この物語を始めることになりました。


<未完に終わった小説の結末を探るために、廃校で生活する物語>

原型のプロットを作ったのは、『命の後で咲いた花』と同時期なので、もう10年近く前のことになります。それから、ゆっくりと細部を詰めていき、登場人物たちの性別なんかも相応しい形を探りながら、大切に積み上げてきた物語でした。

半年くらい書いていたんですが、後半にさしかかった頃、やっぱり、この小説の装画はorieさんにお願いしたいなと、強く思って。

少女を魅力的に、繊細に、描いて下さる方なので。

「どうしても、お願いして欲しいです」と担当さんに伝えて。引き受けて頂けることになって。

作中でテディベアが重要な役割を果たしますが、これはもう完全に、orieさんに依頼して欲しくて、小道具に採用したものでした。彼女はテディベア作家でもあるので。イラストにもテディベアを描いて欲しいなと思い。

デビューする前に初代担当編集に言われた「頼むのはタダだから何でも言って良いよ」という言葉が、ずっと、記憶に残っていて。

「ワカマツカオリさんにユニフォームをデザインしてもらいたいんだ!」という強い願いを抱いて企画を始めた『レッドスワン』もそうですが。希望が叶うとは限りませんし、いつもビジュアルイメージが見えているわけでもないんだけど(というか、はっきり希望がある方が珍しい)、時々、こういった進行がありますね。

デザインも素敵ですよね。手に取って下さった方は分かると思いますが、扉も、カバーを外した造りも、物語を強く意識したデザインになっています。


担当さんと物語を完成させて。

orieさんが素敵な装画を描いて下さって。

営業部や宣伝部の皆様が情熱的に売り出してくれたことで、沢山の書店員さんに早くから認知して頂いて。緊急事態宣言ど真ん中の発売になりましたが、無事に船出を迎えることが出来ました。

幸せな10周年を終えて。でも、これから、もっと面白い小説を書いていきたいから、その前に、書き残して置かなければならなかった一冊。それが、『死にたがりの君に贈る物語』です。

ここ数年、お礼状を出せていないのだけれど。頂いてきた数え切れないファンレターへのお返事。そんなつもりで書いた小説でもあります。だから、自分のことを好きで、noteの長文を読んでくれるような皆様には、ぜひとも手に取って欲しいです。


最後に幾つか、メディア関連の話を。

漫画家・西崎りいちがTwitterでPRマンガを描いて下さいました。

本当に素敵な紹介になっているので(主要登場人物7人のイラストも……!)、ぜひ、ご覧下さい。


ポプラ社の施策で最も驚いたのは、TikTok関連でしょうか。自社でもアカウントを作っていましたし。

@kengo_book

多くの人に読まれるべき作品。素晴らしすぎます。 #本の紹介 #おすすめの本 #小説 #小説紹介

♬ 花に亡霊 - ヨルシカ

これはTikTokerけんごさんの紹介で、70万回以上再生されていました。二度目、三度目の重版は、この動画の影響が大きいと理解しています。

書店でTikTok帯をよく見かけるようになりましたが、ここまで影響力があるとはと、本当に驚きました。ある程度、流行も抑えてきたつもりだったけど、ユニコーンじゃないんだけど、「いつの間にか僕らも 若いつもりが年をとった」のでしょう。

ポプラ社のTikTokアカウントでも紹介して頂いています。

音源の著作権、どうなっているんだろうと思ったら。

TikTokはJASRACとコンテンツに関するパートナーシップを締結しているから、ユーザーは利用許諾手続きを行なわなくても、JASRAC管理楽曲を利用した動画をアップロード可能。ということなんですね。なるほどなぁ。


紹介記事も幾つか。

ダ・ヴィンチニュースでも紹介して頂きました。(インタビューも受けたので、今月号に掲載されると思います)


リアルサウンド ブックさんでも。

こちらはプレスリリース。

取り上げて頂けるのは、いつも、とても幸せなことなので。備忘録的にリンクを貼らせて頂きました。


もう読んだよという皆様、ありがとうございます!

気になっているよという皆様、そろそろ重版分が書店に並び始める頃合いなので、良かったら手に取ってみて下さいね。

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