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【ネタバレ】囲碁マンガ「いしのおと」レビュー【前編】

先日書いた囲碁マンガ「いしのおと」のネタバレ版レビュー(という名の感想文)の前編です。

この記事は、本作を読んだことがあることを前提に書かれています。未読でネタバレを避けたい方や作品の基本情報を知らないという方は、下の記事のほうをご覧ください。


書いてみたらとても長くなったので、前後編に分けています。本記事は表題の「いしのおと」の2話の掲載です。冗談抜きで長いので(笑)、お時間のない方はエピソードごとに読まれることをオススメします。

1.いしのおと(第1話)

元院生で現在はOLをしている28歳の女性、石野音を主人公としたシリーズ。

本作のストーリーをざっくり書くと、事故死とも自殺ともとれるかたちで亡くなってしまった院生時代の同期の死の真相を、棋譜を通して解き明かそうというお話です。

打つ手に性格やそのときの考え、感情などが出るという心理面での魅力を、囲碁を通して他人を知るという方向で描いている作品ですが、同時に囲碁との向き合い方も考えさせられます。

主人公の音が囲碁をやる目的は、碁を通して人の心を感じ取ることや華やかさを楽しむこと。プロを目指した気持ちは本物だと思いますが、勝ち負けを求めるのはその延長線上にある感じです。

一方、亡くなってしまった友人の貴美子は、音とは反対に勝つことがすべて。「碁打ちがプロを目指さないで、どうやって生きるのよ」と言い切ってしまうくらい、結果を求めていました。

この囲碁に対する価値観の違いで、二人は院生卒業の前に諍いを起こしてしまいます。というよりは貴美子が音の考えを受け入れられなかった感じですが。

個人的には音への嫉妬もありそう。手合いの描写から察するに二人は同じクラスなので、勝利を追求する自分が、そうではない音と一緒なのが我慢ならなかったのかなぁと。棋力の高さなどから高名な棋士に見初められて愛人となった音の祖母を軽蔑するような発言からも、何となく嫉妬心を感じます。

その喧嘩が原因で二人は疎遠となり、亡くなるまで会うことがありませんでした。それが死の真相がわからなかった原因の一つとなり、音の知らない貴美子の10年を棋譜から探ろうということにつながるわけです。

私個人は、どちらの価値観も間違いだとは思いません。しいて言えば、囲碁をゲームとして考えるなら貴美子、コミュニケーションツールとして捉えるなら音といったところでしょうか。自分としては音の楽しみ方に憧れるし、本作をきっかけに着手の裏を考える楽しみが深まりましたが、プレイヤーとしては貴美子の考え方も捨てられないです。

貴美子が最終的に音の考えに納得がいったかどうかはわかりませんが、音が送った棋譜の美しさを極めた「銀河流」を取り入れたあたり、歩み寄りはあったのかもしれません。

貴美子「私はできる限りのことをやったわ。音ちゃんはどうなの?美しさとやらをちゃんと追求してるの?」

上記は「銀河流」吸収後の棋譜を見た後の音の夢に出てきた貴美子のセリフ。音の価値観を認めたような感じがしますね。

音が棋譜から感じ取ったこと、貴美子には教え子がいて、彼を強くすることを新しい夢としていたらしいことから、彼女の死は事故として結論付けられました。そして貴美子の夢は音が受け継ぎ、音自身も「囲碁を通して精神の拡がりを感じてもらいたい」という新たな夢を見つけます。

さらに貴美子の母親も、音のように棋譜から娘を感じ取るために囲碁を始めました。囲碁を始めた順序は逆ですが、貴美子の棋風は母親譲りらしいことが示唆されていて、なんだかクスっときます(笑)

新たなスタートを切ろうとした矢先で死んでしまったという点ではとても悲しいエピソードですが、希望のある終わり方でした。


2.いしのおと(第2話)

こちらは音が働く社内でのエピソードとなります。何年経っても希望の部署へ異動できず、退職しようとする女性社員が、部長命令で始めた囲碁を通して自分を見つめ直していくお話です。

本作は囲碁を通して他人を知るテーマだった前作とは反対に、自分がメイン。事実上の主人公である女性社員の大場美々が、囲碁を始めることでどう変わっていくのかが焦点です。

美々は社員としては有能そうですが、個人主義で気が強く、更に短気な印象。異動の話も、美々が暴走している感すらあります。そんな彼女ですが、囲碁を通して自分の色々な面がみえてくるのです。

自信のあった能力面は自分が思っていたほどではなく、強気なところも対局中は一転してしまいます。更には自身の着手から、孤立気味で暴走しがちなところにも改めて気づかされるのです。

一方、音に教えられたことをノートにまとめるなど、勉強熱心で努力家な一面もみえてきます。そのことを褒めてくれた部長(囲碁を勧めた張本人)に対し、美々は「仕事で褒められたい」と言うのですが――。

部長「いつも同じように褒めてるよ。褒められてる気がしないのは、さてどうしてだろう」

美々が所属しているのは管理部なのですが、彼女は単に言われた仕事をしているのではなく、自身もデータ研究したり、しっかり復習しています。そのことを部長は囲碁と同じように認めて、日頃から伝えてくれているのです。

指摘されて気づく美々。それでは何故、今まで気づかなかったのか。

美々「耳に入ってこないのは……私が望む言葉じゃないから」

更に美々は、囲碁をきっかけに周囲との交流が増えたことで、自分が今まで周りを気にしてこなかったことにも気づき、周囲の言葉に耳を傾けるようになるのです。

ちなみに異動の件は、自分が希望部署に必要な人材でなかったことが最後に判明しました。しかし、自分のダメなところに向き合うことに慣れたことや、周囲から認められた存在であったことから、美々はそれを受け入れることができました。もちろん退職はせず、現在の部署で頑張る意思を見せたところで、本作は終幕しています。

本作は事実上の主人公が囲碁に無縁な人だったこともあって、囲碁を知らない方や初心者の方がより読みやすい作品になっていると思います。もちろん経験者にとっても、前作同様に囲碁の心理面の魅力に改めて気づかされる作品です。ある程度強くなってくると、どうしても勝負に目が行きがちですからね(苦笑)

個人的には美々がわりと自分に近い性格をしているのもあって、感情移入がしやすかったです。それと物語が進むにつれて、美々の表情が柔らかになっていった気がしたのですが、気のせいでしょうか。終盤で「夢(プロ)を早々に諦めて、今さらながら後悔している」と言った音に対して、社内囲碁部の風景を見ながら「これは、あなたの夢じゃないの?」という言葉で救ったシーンからも、角が取れたのを感じます。

一方、音のほうも同年代の同性仲間が少ないことや普及者としての面から、共感したり、参考にしたいと思う部分も多数ありました。浴衣で囲碁、憧れますよね!

2話ともとても素敵なお話でした!

3.「いしのおと」おまけ感想

第1話の時点から思っていたんですけど、音の会社って囲碁率が高いというか……囲碁に優しい世界ですよね!現実にあったら、是非働かせていただきたい(笑)

あと音が綺麗かわいい。プロになっていたらイベントで絶対引っ張りだこになっていそう(笑)。というかアマチュアでも呼んでもらえるレベルですよね?第1話の着物の表紙は、ホントにお気に入りです。


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秋田在住の囲碁インストラクター/綺羅囲碁教室・こども囲碁教室主宰/秋田囲碁普及プロジェクトPIKAGO代表/高校囲碁選抜大会優勝/囲碁以外はポケモン大好き人間(笑)

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