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222の軌跡

「おじさまって、普段はちゃんとしてらっしゃるのに、意外な面もあるんですね」


デスク周りの書類や資料の束を慣れた手つきで整えていく娘の横顔を見つめ、南部は微笑んだ。
「この前も大事な本を行方不明にしたばかりだ。邸内にあるのは確かなんだが......他の者にも見かけたら、と頼んではあるが、いまだに出て来ん」
「本といえば書庫でしょう? あとで探してみます」
「そうそう、君が必要だといっていた文献、あれは出しておいたぞ。いつも君が本を開いてた、あの窓辺そばの棚に置いてあるから。確認してくれたまえ」
「.........いつもあそこにいるって、よくご存知ですね......」
その娘...... 廖化は大きく瞳を見開いて、くすっと笑った。


「はじめてみかけた時は、時間が遡ったかと思ったからな」
「........あのかたのことですか? おじさまの、あの写真の」
南部はいたずらを見つけられた子供のような表情になる。
「いや......まさか、君に.......あれを見つけられるなんて......思ってもみなかったし.......うむ.......」
しどろもどろに慌てて眼鏡を直す彼に、廖化は片付けの手を止めていった。
「だいじなお写真を、処分する本の中にお忘れになるなんて」
彼女の顔は少し寂しげにみえた。
「.......何年も前に、忘れようとしまいこんでそのままだった......ひとのものになる女性を、そういつまでも思っているわけにはいかないのだからな」
「......それで、ふんぎりがつきましたの......?」
「少なくとも努力するきっかけにはなったかな。遠い昔の思い出だよ」
南部は目を細めて、窓の彼方の空をみつめた。
その彼方に、彼女の面影を探すかのように。


「君はまだ若い。好きな相手と過ごせる時間はたくさんあるのだから、後悔しない生き方を選びたまえ」
南部の愛した女性は若くして亡くなったのだときいている。今まで、誰とも結婚せずに暮らしてきたのも、あるいは.......。
しかし、廖化はそのことにはふれず、静かに微笑んだまま再び書斎を片付けはじめた。

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