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「さわってもいいですか?」

 今日も今日とて、ビビリな我が家の犬は、子どもの一声にあられもなく逃げ惑う。

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 うちの犬はなんとも言えない顔立ちである。

 角度次第ではなかなかイケメンだったり、天使のようだったりするが、口がでかい。狼さながらである。

 そして、ビビリな彼は、常に「ケッケッケッケッ」と大口開けてせわしない呼吸をしながら歩く。

 これがけっこうな迫力なのだった。チワワなぞ向こうから歩いてこようものなら、相手のほうからビビって避けてくる。いや、ビビってるのはこっちなんです。


 が、世の中には恐れを知らぬ生き物がいる。

 ヒト科ヒト目ホモ・サピエンスの幼体、すなわち、ガキんちょである。


 ああいった生き物たちは、それこそチワワだとかトイプーだとかダックスだとかを好んでいそうなものだが、案外、うちの犬は彼らにモテる。

 今日も今日とて恐るべき子どもたち、逃げ場のない狭い一本道で、「どてててててててて」と3〜4人の群れでこちらに迫り、「えへへへへへへへ」と声溢れんばかりの満面の笑み、

 そして、

「さわってもいいですか?」

 これである。

 飼い主として、悪い気はしない。うちの子かわいいでしょふふん、と低い鼻も高くなるが、心配なのはうちの子の口元である。うっかり子どもに泣かれたら全面的にこっちが不利なので、引きつった笑顔でわたしはこう言うのだ。

「噛んだりしないけど、怖がりだからね、お顔はやめ」

「かーわーいーいー!」

「あの」

「お口おおきいー!」

「あ」

 ケッケッケッケッケ。

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 しかし、彼ら――イマドキの子どもたちは大したものだと思うのだ。

 だって、わたしは子どものころ、あんなふうに「さわってもいいですか?」なんて聞けなかった。

 犬が好きだった。途方もなく好きであった。

 そのくせ、犬を連れている飼い主になんと言って近寄ればいいのかわからず、遠くからじっと眺め、眺め続け、しまいに犬から吠えられて這々の体で逃げ去るのがオチだった。

 ケッケッケッケッ。

 息荒く立ちすくむ我が子を見下ろす。尾を足の間に挟み込んで、次なる脅威はいずこかと目を見開いている。

 飼い主とよく似ていると思う。


▼うちの犬が我が家にやってきた経緯についてはコチラ▼

『脱糞王子』と呼ばれていた元・保護犬が、我が家の一員になるまでの話。

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