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メロウを引き出して?-Last-白昼夢


ツカサ。社交的な彼女とは小学校からの長い付き合い、転校生だった。
あっという間に新しいクラスに馴染み、大賀くん率いる〈目立つグループ〉のメンバーになるかと思いきや地味な私を気に入り、なんだかんだで15年が過ぎる。
こちらにとっては唯一の親友であり、数々の悩みを相談してきた。今や誰もが知る会社に勤めてSNSを覗けばプライベートも充実、島旅行の土産を渡される。
「会いたかった。ミケ、痩せたね。」
絶えず自信に溢れたオーラを放ち、笑顔が眩しい。ユーモアに富んだ近況報告と贅沢なランチを楽しみ、食後のデザートまで私は相槌を打つだけ、怖くて切り出せなかった。


「で、そっちはどう。彼氏、結婚匂わせたまま?」
「あっ、まあ。向こうが、なかなか忙しいみたいだし。」
「要は縛り付けたいんでしょ。あたしならさっさとしろよって言っちゃうけど。」
実にカッコいい発言に痺れて、頬が緩むも、猫のような瞳に見つめられ、テーブルの下にて拳を握り、大賀くんとの浮気、二股を告白する。
明らかなことではあるが、彼女は開いた口が塞がらない、といった様子で沈黙が続き、飲み物の氷が溶け、このレストランのBGMはやけに耳障り、と感じた頃に喋り始めた。


「いや、それ、夢の中での話!ミケが天然なの分かってても今回のはちょっと。てかタイガと実際に会ったり色々した訳じゃなく、えーっと、倉持さんだっけ?裏切ってもないから。ほら、よく芸能人とか出て来る、ネットで調べると占いが、」
「好きになったの。どうしよう、別れた方がいいよね。だって大賀くんのこと考えながら、私、もちおくんと、最低。」
眉を顰めたツカサには恐らく本日限りで縁を切られるだろう。ここのところ、より一層、夢と現実の区別が付かず、彼にも不審がられている。
2人との恋愛をこなせる程、器用というか狡い女ではないらしい。


〈その証拠に〉ボロが出た。
寝言で大賀くん、と呼んでしまい、青筋を立てた倉持に何時間も執拗に責められる。
「ねえ、なんで?ミケちゃんは俺しか知らない筈の、すっっっごく大切で、特別な女の子。世界でたった1人、こんな愛してるのに。ああ、絶対奪われると思った、早く約束しなきゃ。やっと見つけた、一生守れば100点になれる。でもまだ間に合うよ。婚姻届貰ってたんだ。すぐ書いて、お願い。」
理解の範疇を超えており、ごめんなさいと泣き叫びつつ断った。嘘が吐けなくて正直に話し、狂気の沙汰だと言われる。お互い様だ。


悲惨な結末を迎えたが、元凶の大賀くんは腹を抱える。
「彼氏ヤバいやつ。化けの皮剥がれて良かったわ、三池さん監禁されてたかも。」
「うるさい、もう。…あんなに血眼で、繋ぎ止めたいんだな、って、なんか。」
「絆されちゃった?俺とは終わり?」
心なしか寂しく触れられて唇を重ね、普段通りの午前6時が私達を引き裂いた。規則正しい生活。

結婚を迫る倉持から逃げる為、実家に帰ってばつが悪い、大型連休、憂鬱な曇り空、化粧を済ませ、
「行って来ます。」
玄関で呟き、昨夜ツカサが寄越したメッセージの、真偽を確かめるべく県内某所へ出掛ける。
彼女はかつての仲間を頼り、或る情報を集めた。


『あたしらの歳でいつか王子様が、はイタい。現実、受け入れておいで』
そこはあからさまに二世帯住宅、まず庭先で子供がはしゃぎ回っており、胸を抉られ、次にボールを持つ大賀くんと、何か呼び掛ける妻らしき若い女性が視界に飛び込み、腸が煮えくり返って詰め寄る。
有り得ない、私は不倫相手?あの人は父親でなく彼氏、全部失って人生が狂わされても、
どこのどいつだよ、気持ち悪りぃ。
吐き捨てられて暴れた挙句、気付けば警察に通報されていた。


しかも、実物に突き放されてから〈会えなくなる〉。


……
………
…………夢であれ。
「お帰り。考えてみたらさ、俺の大好きなミケちゃんは汚れてなかった、真っ白。離れたくない、許す?ううん、代わりに死ぬまでずっと一緒に居よう。さあ、笑って。
最終的には再び彼に捕らわれた、されど今度はSOSを発信しない、重くて歪んだ愛が愚かな私には〈心地好い〉と、思い始める。


★『メロウ』が複数の意味を持つ、この小説はTop/Middle/Lastで全3話です。
(時間が経つにつれて変わる香りのように)


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