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愛おしさの発酵

実績のないまま駆け出したばかり故に、4月以降は少し生き急いでしまうような瞬間が自分の中に度々訪れる。

一朝一夕では出来上がらない、文章力や表現力、描写力、語彙力の足りなさに、わずかな悲観と焦りを抱えながら、結果を出すことにばかり拘ろうとする反面、それは心地よいものではないからと自己嫌悪に陥った。

そんな中、ぬか漬けや梅仕事などの漬け仕事が転機となった。

それぞれの漬け仕事は、時間がかかる。

完成した糠床を購入している、1番早くできるはずの糠漬けですら一晩。果実酢は1週間、梅シロップは1ヶ月、梅干しは1ヶ月以上漬けた後に晴れた日を選んで干すのにも3日。

今年始めたこの4つの仕事は全て、「待つ」という時間が必須なものだった。

効率の良さを重視し、できるだけ早く覚えて、早く情報を処理して、早くできるようになって、、、、。いつからか、そのようにスピードを重視して、その中身を育てることを忘れてしまっていた。

個人的に質をじっくり育てていく方法の方が性に合うからなのか、中身を育てずに何よりも早く得ようとしたものは、今振り返ってみれば、煌びやかで宝箱のような見た目をした空箱のようだった。

しかし塩漬けした梅をひとつひとつ干し網に並べていると、すごくその梅たちが愛らしくて愛らしくてたまらなくなる。どんな味になるのかも、まだ想像がつかない。それでもそんな梅たちを待ち続けた時間は私に、梅に対する愛情を育ててくれた。

待つという時間はとっても愛おしい。

スピード感が大切な場面もたくさんあるから、必要ないわけではない。しかしそれでもスピードだけが大切なわけでもない。待ち続けて、熟成して、育てていく過程は、そのものだけでなく愛情をも育て上げているのかもしれないから。

数多の情報が早く流れて過ぎ去ってしまう時代だからこそ、その中にある僅かなゆったり流れる時間の流れを丁寧に汲み取って、愛おしい気持ちを発酵させていきたい。

ベランダで揺れる梅たちが愛おしい

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かみつれ

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