見出し画像

【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】不妊症と鍼灸(診断と治療)

千葉市内、千葉駅すぐ、女性と子ども専門鍼灸院『鍼灸 あやかざり』です。
いつも【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】の記事をお読みいただき、ありがとうございます。

以前、『【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】不妊症と鍼灸https://note.com/ayajazari/n/n8ac900a1b5ba) 』の記事の中では、
 1.不妊症とは
 2.東洋医学における不妊症
 3.鍼灸治療によるアプローチ
という不妊症に関しての基礎知識とあわせて、不妊症に対する鍼灸によるアプローチをひとつ取り上げました。
まだ、読んでいないという方は、ぜひ一度お読みください!

今回は、不妊症における鍼灸治療とは、具体的にどのような考え方にもとづいて行っているのか、その診断と治療のポイントについて、より専門的に細かくみていくことにしましょう。

なお、文中で経穴=ツボの反応についてもご紹介をしていきますが、素人判断でツボを押したり、刺激することは、逆効果を招くことにもなりますのでおすすめできません!

本編の最後には、不妊症に対する鍼灸でのアプローチ(その1とは別の症例)についてもご紹介をしていきます。


1.東洋医学的な診断

鍼灸治療を行う際は、まず、問診および、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたよりなど)から、不妊の原因がどこにあるか、東洋医学的に診断を行っていきます。
今回は、以前の記事でご紹介した原因の一つ一つについて、より詳しく専門的に説明をしていきます。
なお、原因はひとつに限定できるとは限らず、複数の原因の混合型である場合、他の臓腑との関連性でおこっていることもありえます。

以前、原因の中でご紹介をした『腎虚』とは、腎の臓が虚している状態のことですが、細かくは、
・腎気虚
・腎陽虚
・腎陰虚
を含みます。

1-1.腎気虚

腎は精を蔵し、腎精が化した気を腎気と呼びます。
先天的な腎精不足、あるいは後天的な要因による腎気の損傷により、腎気が不足をすることで、衝脈・任脈が虚して精を固摂できないことから不妊となります。
身体特徴 : 目眩、耳鳴、健忘、腰膝のだるい痛み、疲労感、性欲減退
月経周期 : 月経不順、月経停止
経血 : 量が多かったり少なかったりする
二便 : 小便清長
舌 : 質淡、苔白
脈 : 沈細、両尺脈弱

1-2.腎陽虚

もともと陽虚体質だったり、寒湿の邪気が腎を痛めたりすることで腎陽虚となるほか、腎気虚から発展して腎陽虚になることもあります。
腎陽の温煦と蒸騰気化の作用が失調して、衝脈・任脈が温煦できず、血海が充実しないことから不妊となります。
身体特徴 : 目眩、耳鳴、腰膝のだるい痛み、疲労感、下腹の冷えと痛み
月経周期 : 月経後期、月経停止
経血 : 量少ない、色は淡暗
帯下 : 多い、水っぽい
二便 : 小便透明で量、回数が多い、大便形にならない
舌 : 質淡暗、苔白
脈 : 沈細または沈遅、両尺脈弱
※腎陽虚による腎虚水氾では、尿量減少と浮腫が顕著となる

1-3.腎陰虚

もともと陰虚体質だったり、房事過多・多産・慢性病・出血過多などで真陰を消耗して天葵の源や衝脈・任脈・血海が空虚となり、腎陰虚となります。
あるいは陰虚から内熱が生まれ熱が衝脈・任脈・血海にこもるため、精を固摂できないことから不妊となります。
身体特徴 : 身体が痩せる、目眩、耳鳴、腰膝のだるい痛み、動悸と不安感、眼のかすみ、不眠、多夢、五心煩熱、午後の微熱、皮膚、陰部の乾燥
月経周期 : 月経先期、量少ない、月経後期、崩漏、月経停止
経血 : 量が少な目、色は鮮紅
二便 : 大便細い
舌 : 質赤で乾燥、苔少な目
脈 : 細数

1-4.肝気欝結

憂鬱な性格だったり、七情不和があったり、不妊期間が長いことから情緒がふさいでしまったりすると、気機が不暢になる。
肝気が鬱結して、気機が不暢になると疏泄、条達作用が失調し、他の臓腑に影響を及ぼし、衝脈・任脈・血海が満たされなくなり、不妊となります。
身体特徴 : 月経前の煩躁、イライラしやすい、胸脇部、乳房の脹り、精神的抑うつ、ため息、喉の異物感、月経中の腹痛
月経周期 : 不安定
経血 : 量が多いか少ない
舌 : 暗紅、舌辺瘀斑
脈 : 弦細

1ー5.瘀滞胞宮

瘀血とは、血が停滞した病理産物です。
瘀血が衝脈・任脈・胞宮を阻滞するため血行が不暢となり、精を活性化できず不妊となります。
月経後や産後に余血をだしきれなかったりすることでも、瘀血は形成されます。
身体特徴 : 月経時の腹痛(刺痛)
月経周期 : 月経後期
経血 : 量が多いか少ない、色が濃い、血塊を含む
舌 : 紫暗、舌辺瘀斑、舌下静脈の怒張
脈 : 弦、細渋

1-6.痰湿内阻

痰湿とは、津液が停滞した病理産物です。
脾腎陽虚の体質で温煦作用が低下する、または、過労・思慮過度・飲食不節で脾を痛める、肝気が脾を犯すなどが原因で脾の運化作用が失調して水湿が停滞することで、痰湿が体内に形成されます。
その痰湿が子宮に流れ、衝脈・任脈の気血が不調となることで不妊となります。
身体特徴 : 肥満体型、胸の痞え感と悪心、目眩、動悸
月経周期 : 月経後期、閉経
経血 : 量が多いか少ない、色が濃い、血塊
帯下 : 多い、粘稠性
舌 : 淡、胖大、白膩苔
脈 : 滑

2.経穴による診断

まず、問診および、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたよりなど)から、東洋医学的な診断が済んだあとは、身体全体の経穴(ツボ)の状態をみていきます。
ここでは『1.東洋医学的な診断』の分類ごとに、身体のどういったツボに反応がよく出るのか、ご紹介をしていきます。

2-1.腎気虚

以下ような経穴に反応がみられやすいです。
・太渓(足)
・腎兪(背部)

2-2.腎陽虚

以下ような経穴に反応がみられやすいです。
・腎兪(背部)
・気海兪(背部)
・大巨(腹部)
・太渓(足)
・復溜(足)

2-3.腎陰虚

以下の経穴に反応がみられやすいです。
・腎兪(背部)
・気海兪(背部)
・大巨(腹部)
・太渓(足)
・照海(足)

2-4.肝気欝結

以下の経穴、体の部位に反応がみられやすいです。
・太衝(足)
・合谷(手)
・肝兪(背部)
・胆兪(背部)
・後渓(手)
・内関(手)
※以下は経穴ではない。
・腹部 臍周の冷えと緊張、脇腹(肝相火)の邪
・背部 督脈上の圧痛

2ー5.瘀滞胞宮

以下の経穴、体の部位に反応がみられやすいです。
・三陰交(足)
・膈兪(背部)
・血海(足)
・足臨泣(足)
※以下は経穴ではない。
・腹部 小腹硬満、少腹急結

2-6.痰湿内阻

痰湿邪がどこに存在するかにより反応の出る部位は異なりますが、以下の経穴に反応がみられやすいです。
・肺兪(背部)
・尺沢(手)
・中脘(腹部)
・梁門(腹部)
・脾兪(背部)
・胃兪(腹部)
・膈兪(背部)
・豊隆(腹部)

3.治療方針の決定

東洋医学的な診断と経穴の反応による診断から、総合的にみた原因の特定と治療のためにもっともふさわしい経穴を選び、鍼または灸による施術を行っていきます。
ここでは、総合的な診断に対して、どういった治療方針で鍼灸治療を行っていくのか、ご紹介をしていきます。
経穴の反応は、治療を重ねていくことで変化していきます。
そのため、症状や原因が同じでも、その時々で使用する経穴を変えることが必要となる場合があります。

3-1.腎気虚

・補腎益精 腎を補い、腎精を補充する
・補腎益気 腎を補い、気を補充する
という方針で治療を行います。
以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・太渓
・腎兪
・志室
・京門
・膀胱兪
など

3-2.腎陽虚

・温補腎陽 からだを温めるとともに腎陽を補う
・温陽利水 脾腎を温めて陽気を助け、利尿作用により水気を除去する
という方針で治療を行います。
実際の治療には、以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・復溜
・腎兪
・気海兪
・膀胱兪
・胞肓
・気海
・大巨
・命門
・湧泉
など

3-3.腎陰虚

・滋陰補腎 潤い、冷やす力、陰を補充することで、陰虚を解消する
という方針で治療を行います。
実際の治療には、以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・照海
・腎兪
・気海兪
など

3-4.肝気欝結

・疏肝理気 肝の機能を高めて気の流れを良くする
・解鬱 鬱結を解消する
という方針で治療を行います。
実際の治療には、以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・太衝
・百会
・肝兪
・胆兪
・後渓
・内関
・天枢
など

3ー5.瘀滞胞宮

・活血化瘀 血流を良くして、流れの悪くなった状態を改善する
という方針で治療を行います。
実際の治療には、以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・三陰交
・足臨泣
・血塊
・膈兪
・公孫

3-6.痰湿内阻

痰湿邪がどこに存在するかにより、
・化痰 体内の痰を取り除く
・化湿 湿邪を動かして排出しやすくする
・利湿 湿邪を汗や尿などで排除する
という方針で治療を行います。
実際の治療には、以下ような経穴が使用経穴の候補となりやすいです。
・脾兪
・中脘
・豊隆
・陰陵泉
・照海
・中極
・膀胱兪
など

4.鍼灸治療の効果

不妊症の患者さんにとっては、鍼灸治療の効果を直後に実感することが難しく、鍼灸が不妊症に対して効いているかどうかわかりずらいと不安に感じられる人もいるかもしれませんが、大丈夫です!

なぜなら、原因特定のための問診をした際に、自覚症状として感じている身体の不調こそが不妊の原因の一部であり、それらを改善させていくように鍼灸治療をしていくことで、身体全体を良くするとともに妊娠しやすい身体づくりにつなげていくことができるのです。

例えば、診断の結果、腎気虚による不妊と診断された患者さんで、患者さん自身が疲労感が強く腰痛を強く感じていた場合には、その疲労と腰痛が和らぐように治療を重ねていくことで、自分の身体がよくなり妊娠しやすくなっている、と感じてもらうことができます。

5.鍼灸治療で妊娠に成功した症例

次に、鍼灸治療で不妊症が改善し、妊娠に成功した症例をご紹介したいと思います。
一度の施術で使うツボは1~2つで、施術時間は休憩含めて約1時間程度です。
 また、不妊治療に際して気を付けなければいけないことの一つに、妊娠の可能性がある場合には過度な刺激はさける、ということがあります。
そのためには、常にどのような段階にあるのかをしっかりと問診した上で身体全体を診て、使用するツボと刺激量には最新の注意をはらいます。
また、状態によっては、刺さない鍼を用いたりお灸を使用するなど、やさしい刺激による治療を行うこともあります。

【患者】30代後半女性、自宅で仕事、身長15Xcm、体重4Xkg。
【初診】202X年10月XX日
【主訴】不妊症
【問診】
生後、保育器に入っていた時期がある。成長の問題はなし。
体型は小柄。食欲は普通。
性格的には几帳面、心配性な一面がある。
幼少期、学童時期~大学生までの発育は順調、大病はなし。
就職後、夜勤もあるハードな仕事につき、体力的な疲れが出やすくなる。
精神面もマイナス思考が目立つようになる。
この頃より月経不順、遅れがち、月経痛が強く、血塊が出るようになった。
結婚後は、夜勤のない仕事に転職する。
1人目の妊活時よりなかなか恵まれないことから体外受精に踏み切る。
鍼灸治療を併用して、妊娠に成功して、帝王切開により出産する。
数年後、2人目を出産しようと妊活をするがやはり恵まれず、体外受精に踏み切る。
その後も、発育停止、心拍確認できない、着床しない、と妊娠成功に至らない。
第2子出産をあきらめきれず、鍼灸治療を併用して、もう一度採卵、体外受精をしたいと来院をした。

第1子出産後、経血量が減少し、腰痛(右の腰の鈍痛)も出るようになっている。
その他、時々、寝つきが悪く、両臀部に冷えと硬さ、手足が冷えやすい。
大便は、もともと便秘傾向で日数があきがちだったが、食生活を気を付けたり健康によいものをとるようになってから、毎日普通の便が出ている。
【診断と治療方針】
肝鬱気滞、肝血虚、腎虚が原因とと診断。
身体の過緊張をとりながら、身体のエネルギーの不足と血の不足を補うように処置をしていく。
治療を重ねることで、月経が良い状態に変化し、初診時の身体の不調の変化、特に腰痛と冷えの改善するようにしていく。
【日常生活での注意点】
・身体の緊張をとり循環をよくするように、軽い散歩をする。
・妊娠について過度の心配したり、焦らないようにする。
・黒豆を食生活にとりいれる。
【経過】
初診 腰のだるさを改善することを中心として処置を行う。
2診~ 初診同様の処置を繰り返すことで、腰のだるさがとれてくる。月経のタイミングでは、月経の質、量、痛みなどを観察してもらい、よりよい月経状態になるようにする。 
3か月後 採卵。採卵前に風邪におより体調を崩していたことが影響したか(?)、卵子のグレードはよくない上に、個数も少ない。
採卵後 受精卵を戻す時の子宮の状態をよくするために、再度、しばらく鍼灸治療を重ねていきたい、と患者さんから申し出がある。
5か月後 2か月間、鍼灸治療を重ねた後に、受精卵を戻す。その後は、一旦、来院ができなくなる。
※直後から悪阻がはじまり来院できなかった。

妊娠8か月 妊娠後期に入り、お腹の張り、身体のだるさ、不眠、動悸の症状で往診にて治療を行う。
その後、無事に帝王切開にて出産に至り、母子ともに健康。

6.まとめ

今回は不妊症について、その原因、および診断と治療方法について、より専門的に解説をしました。
東洋医学においても、不妊症に対する治療が可能なことはご理解いただけたでしょうか。
今回はここまでとなります。最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。

それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!

鍼灸 あやかざり
千葉駅5分 完全予約制 女性と子ども専門の鍼灸治療院
千葉県 千葉市中央区新町1−6 ラポール千葉新町202
TEL:070-8525-6132

画像の出典:https://www.photo-ac.com/


この記事が参加している募集

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?