福岡同人イベント視察レポート

スマホの画面をタップしながら、会場のメイン通路を左右に首を振りながら歩く。端から端まで歩くと、大きく表示された数字に目を向け
「これはヤバくないか」
とつぶやく。
その数は76。多少の誤差は有るにせよ、これが正直なところ現時点の同人イベントの限界だと思った。

自身の地元福岡での同人イベントは、2月にコミックシティに行ったのが最後。半年ぶりに、別団体の同人イベント、福岡コミックライブに参戦した。余談だが、福岡の同人イベントはこの2イベントでの2強体制が成立している上、また共に東京発の企業系イベントだ。
3月上旬に予定していた分が6月上旬の分と統合する形で延期した末にキャンセルとなり、今回ようやく復活した。とは云え、感染者が再び増えていることで、土壇場での延期なども有り得るとは思っていた。
行ったフォロワーから話を聞き出したかったが、直前のアンケートでは行かないとの回答が大多数だった。…ニューノーマル下の福岡で再開された初の同人イベント、その視察に行ってみるだけの意味は有ると思った。だから慌てて荷物をまとめ、家を出た。
会場は、プロレスや各種展示会でもお馴染みの福岡国際センター。時間は11時半から15時半までの4時間。同人イベントではコミケの6時間でも長い方だ。
家を出る前にイベントのサイトで本名と電話番号とメールアドレスを入力した。これは入場申請登録と云って、今年始まったもの。会場がクラスタ化した際、濃厚接触者として連絡するためのもので、これは入口にも記入用紙が有ったが、登録完了画面をスクショしておいて提示すれば問題無い。

今回の入場は正午前。以前であれば、この時間帯は会場外にも来場客の待機列は延びていたが、今回は列は既に無い。入場料を払い、入場チケット代わりのパンフレットを受け取り、先述のスクショを見せて入場となったが、この時も順番待ちは無かった。

今回募集していたサークル出展枠は、500スペースだった。単価は1スペースで1サークルにつき2スペースまで確保できるが、ネットで公開されたサークルリストを見る限り160サークルほどで、2スペース確保していても180スペースほどではなかったか。
しかし、実際それでも用意されたサークルスペースの長机には空席が目立ち、疎らだった。そこで、カウンターアプリを起動させて実際に参戦していたサークル数を数えてみようとした。

実際に出展していたサークル数は、80にも満たない。半分以上が登録していながらも参戦を見送っていたが、当初の募集数に対しては2割にも満たないほどの状態は、どれだけ同人イベントが苦戦しているのか判る。
実際、このイベントではごく小規模のオンリー…特定ジャンル限定のこと…が40個ほど組まれていたが、サークル出展が無く成立しなかったのが30も有った。福岡は元々、女子向けの比較的旬な作品で動員数を確保していた部分が強く、一方で男向けの作品では成立しないことが多い。
しかし今回は更に社会情勢を鑑みて参戦を見送ったケースも多く、1サークルもいない島も有った。多くても5サークル程度だ。
唯一、イベント頻度が低いドール系だけは比較的集まっていた。
フォロワーが2人ほどサークルで参戦していたため話を聞いたが、不参戦の場合返金はどうやら有るらしい。ただ、それが面倒だから参戦することにした、と話していた。
来場客までは数えていないが、200人もいなかった感がする。そして福岡のイベントの屋台骨を支えるコスプレイヤーは、サークルの売り子も含めて30人未満と云う惨憺たる有様だった。

イベントとしてはアルコール入りの容器を入口に置き、通用口を開放していた。洗面所ではハンドドライヤーが使えないことを踏まえ、イベント団体が自前で使い捨てペーパータオルを設置していたことは評価する。
サークルは本来、長机1脚につき2スペース配置だが、1スペースのみのサークルに対しては片方を開ける形にしていた。
その一方、サークル間のパーティションは他のイベントのように設定されていなかった。少ないサークル数だから無くてもよいと踏んだのか、そもそもそう云う措置は個々のサークルに委ねているのかは知らないが。

サークルにはフェイスシールドを購入させ、その上で来場者にも全員常時マスク着用を義務付けた。しかし、これで大変だったのはコスプレだ。
コスプレイヤーには今回、撮影時でも常にマスク着用を義務付けていた。マスクを普段から着用するキャラであればよいが、そうでない場合はコミケの時に多用される「表現の工夫」が求められることになった。このワードも薄っぺらいから嫌いなのだが。
中には、こう云う時ならではと衣装と同じ柄のマスクを自作する者もいたが、この常時着用義務が今回感染リスクを懸念した以外の不参戦の理由にもなっていた。

コスプレはキャラが原作と異なる衣装や装飾品…マスクも含める…を着用すると、それが社会情勢に沿った上での「表現の工夫」であれ、「キャラ崩壊」「解釈違い」だと叩かれる。元々、二次元のものを三次元に…言ってしまえば無理矢理…当て嵌めるのだから、多少の「解釈違い」が発生するのは仕方ないが、だからこそ問題視される。
イラストではそこまで問題視されない、コスプレ特有の悪い特徴でもある。だから「捏造注意」などと予防線を張っていることが多いのだ。
ただ、その一方でマスク着用による熱中症リスクも増すため、本来会場外のみ可能となっていた水分補給は今回、会場内でも可能になっていた。

さて、参戦したがサークルも少なく、終始コスプレスペースにいたが、コスプレイヤーに対して撮影者が多いと云う事実。自身は改めて書く予定だが、スマホと今後の撮影で使用することになるスマホサイズLEDライトだけで挑むことにした。
それでイベントを乗り切ったのだが、とにかく来場客も少なく、イベント自体に活気が無い。どうにかイベントは再開にこぎつけた、と云う実績は残せたが、気になるのは今後のことだ。

試算結果によると、仮に現場責任者以外のスタッフは全員無給で交通費も支給されない、不参戦サークルの返金も無いと云う条件でも十万円単位の赤字だった。当然、返金が有ればその幅は更に大きくなる。
近くに、この団体がよく使用する福岡国際会議場が有るが、そこであればサークル返金が無しならば、どうにか黒字は確保できた可能性は有る。
これも所詮は結果論でしかないが、同時にイベント規模が大きくなるほど…つまり会場が大きくなるほど、採算面で不利になることが判る。

福岡の同人イベントは、日本三大都市を除いた地方都市としては、最も集客力が高いと思っている。それでありながら、この動員数だ。
前述の通り、このイベントは企業が営利目的で行っているものだ。当然、黒字が至上命題であり、採算面で問題が有れば撤退も有り得る。
特に地方では、オフ会の延長感覚でコスプレエリアに集まるコスプレイヤーによって、イベントの採算が支えられているのが実態だ。しかし、それも更衣室の密集を避けたい多数のコスプレイヤーが参戦を見送ったことで、黒字化のハードルは上がる。

ニューノーマル下の同人イベントは、苦戦を強いられる。やはり、どれだけ物理的な対策を講じていようが、またアピールしていようが、万が一のリスクを懸念すると見送りたい、と云う心理的な不安を払拭することはできない。
会場奥のコスプレエリアから、入口まで遮るものなく見通せる。人混みに紛れるスタッフのシャツの色が、特に目立つ。出展者が来ないサークルの長机にスタッフが置いた印刷所の広告が目立つ。それが視覚的な感想だった。

当面、こう云う光景が続くのかと問われれば、答えはイエスだ。少なくとも、ニューノーマル下でのイベントでは、サークル出展や来場客の多寡に関わらず、今回見られたような対策は今後も継続しなければならないだろう。イベントとしても、サークルとしても、採算的には厳しい状態が続く。ネット通販も実情として役不足だ。
あくまでも今回の福岡の中規模…そして2番目の認知度を誇る同人イベントを視察した限りだが、同人イベント業界が巻き込まれた台風は、当分通り過ぎそうにない。

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