見出し画像

とつなん日記 前編

「とつなん」、突発性難聴。
文字通り、何の予兆もないまま突然、聴力が落ちる病気。大概は片耳だけで、最初は軽い閉塞感から始まり、聴力低下のほか、耳鳴りやめまいといった症状が出てくる。原因はストレスやウィルスの感染と言われているけれど、はっきりしたことは分からない。すぐに治療を始めれば回復する確率も高いが、遅れるとそれらの症状が定着してしまうことが多い。

私も20代後半、その突発性難聴になった。
その時の話を、前編後編ぐらいで書いてみる。

その日は確か、5月の連休にバリに行って戻った後、久しぶりに派遣先の会社に出社した日だった。着いて最初に会った隣の営業部の部長さんに挨拶をしたら、あれ?音がなんか変。左耳が詰まっているような感じがする。その日は1日そのままその感覚が続き、なんだろうなぁ、と思いながら帰宅。
母に伝えると、飛行機の気圧で詰まったままのかも、耳鼻科行けばポンッて簡単に抜いてくれるよ、という。その程度のことなら放っておいても治るかな、でもなんか気になるなー、ということで、早速次の日の朝、出社前に耳鼻科に寄ることにする。

行ったのは、小学校の健康診断でもお世話になっていた近所の耳鼻科。私が小学生の頃にすでに「おじいさん」先生、それもその頃から無愛想でちょっと怖く、積極的に行きたいところでもないが、近いのでとりあえず。
先生に症状を伝えると、耳の中を覗くものの「簡単にポンッ」とはならず、聴力検査に回される。そして結果を見た先生が、特に何の処置もしないまま言うことには
「突発性難聴ですね」

初めて聞く病名ながら、「難聴」という言葉がショックで一気に汗が出た。
見せられた聴力検査の結果では、確かに左耳の低音がガクンと落ちている。
私の表情が変わったのが分かったのか、先生がすぐに言う。
「大丈夫、治りますよ。専門の先生がいる大きな病院を紹介するから、今すぐここから直接行きなさい」

この「大丈夫」のなんと心強いこと。
無愛想な先生のイメージが180度変わったのは言うまでもない。

そしてとにかく言われた通り、駅へ向かう途中の公衆電話から家と会社に電話で事情を話し、そのまま紹介された病院へ。後になって分かるのだが、とつなんの治療は時間勝負だったのだ。この日は薄手のサマーニットにパンツスーツで(なぜかこの日の服装はよく覚えている)、5月の陽気とショックでかいた汗がニットに気持ち悪かったのを思い出す。

大きな病院に着く頃にはだいぶ気持ちも落ち着いて、担当の若い男の先生の名字に「花」が付いてて楽しいなぁ、幸先いいなぁ、なんて思っていた。が、一通りの診察の後の「花」の付く先生の話は
「いますぐ入院して治療」
「入院中は絶対安静で、本も読んではいけません」

全然ピンとこない。なんといっても、この時点ではまだ耳が詰まってるぐらいにしか自覚症状がないのである。
なので、代替案の「出勤しながら通院治療」コースで、その日から5日間毎日、会社へ行く前に病院に寄って点滴で投薬をすることにした。
これも、この病気の予後の大変さも経験した後であれば、入院も全然大袈裟なんかじゃないと分かるのだけれど、まぁ仕方がない。

続く2日目以降の話は後編で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?