「骨壷に、きれいな歯を入れたよ」と報告をもらう。人工物がいのちを感じるようになる瞬間。
ここ数ヶ月ご夫婦を診察していたお家がある。
もうお看取りも近いと聞いていた中、先日、夫さんが亡くなられた。
奥さんの治療で伺った時、最近どうしていますか、ご飯食べてます?と色んな世間話をしたあと、
仏壇に手を合わせさせていただいた。
正直、歯科の訪問診療で、ご夫婦を同時に見る機会はあまりなかった。なので亡くなった場合、その後にお家に伺う機会はないので、手を合わせられる機会は殆どなかった。
すると、最後に、部屋を出ていく前に話してくれた言葉がある。
「変な話なんですけれどねぇ。亡くなったあとに、歯(=上下の総入れ歯)をもらったんですよ。(病院に)持っていくのを忘れてて。なので骨壷にね、一緒に最後に入れたんですよ。」
「あぁ、最後にきれいな歯が入ってよかったなぁって思ってねぇ。先生、きれいにしてもらって。ありがとうございました。」
こちらこそ、最後まで診させていただいてありがとうございました。また来ますね、と伝えてそのお家をあとにした。
ちょっと泣きながら帰ってしまった。
こんな話をゆっくりできるのが、訪問診療の一番好きな瞬間だ。
命はなくなったのだけれど、たしかに夫さんが生きている瞬間でもあるから。
そしてもう一つ、私の好きな瞬間がある。
義歯や歯牙を、人工物を最初に作っているときは、全然その人の一部分じゃないのだけれど、
少し口の中に入れたあと、
少しずつその人の身体の一部になっていく感覚、を感じる瞬間が好きだ。
(逆に抜歯したあとも、数分間はその人の命の一部をもぎとってしまった気分になる。数分後にはその気配が無くなるのだけれど。)
命は生まれて、いつか無くなるのだけれど、その一部になっていく瞬間。
食べ物とか着ているもの、触っているものも含め、
色んな人の命をもらって生きているなぁ、わたし、とおもう瞬間。
身体に触れることが好き。
好きで好きでずっと続けたい仕事の一つ。
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