見出し画像

【読書感想】アルジャーノンに花束を※ネタバレ注意※

読んだきっかけ

 『アルジャーノンに花束を』最近本屋で店頭にたくさん並んでいて気になっていたところ、義母に貸していただき読了しました。大体6~7時間ぐらいかかりました。基本的に1人称で話が進み、分かりやすいことに加え、主人公は今後どうなるのか?とずっと続きが気になる形で一気に読み進めました。特にどんでん返しとかはなく、けっこう読者の想像通りの展開もあったんじゃないかと思います。読みやすかったです。

※以降ネタバレ注意です※

-あらすじまとめ

 知的障害を持った男性が、知能を上げる(?)手術を受け、短期間でどんどん賢くなっていくのですが、最終的には元の状態に戻ってしまいます。大体6歳ぐらいの知能から、目を見張るスピードで知識を吸収して、そんじょそこらの学者では到底及ばないような賢者にまで至るのですが、その過程で、それまでは見えていなかった自分の周りの人間関係や仕事、家族のことを知り、そして自分の変化に伴う周囲の変化(良いことも悪いことも)に戸惑い、葛藤する様子が描かれています。


-主人公チャーリーの変化に対する周囲の恐れ

 本書はチャーリーの一人称で描かれているので、手術前の文章は非常にたどたどしくて読み辛いんですよね。(とはいえ意味は伝わる文章で、語彙も豊富でびっくりしました)手術を受けた後から日を追うごとに漢字や句読点が増えて、「すごい!前と比べてこんなにも読みやすくなった!」と私も変化を如実に感じてワクワクしながら読み進めていました。

 パン屋の仕事も前よりも出来るようになって、同僚に感心されるようなシーンもありますが、チャーリーの知能・知識レベルが更に上昇するにつれ、職場の人々はチャーリーを恐れるようになります。(過去チャーリーにしてきたことに対する復讐への恐れや、チャーリーの急激な変化と知能の高さが得体の知れないものに感じたことによる)
 また、知的障害センターのキニアン先生が、先生に想いを寄せるチャーリーに対し、「あなたは今よりもっと賢くなって、いずれ私とは違う世界の人になり、話が通じなくなる」といったような趣旨の発言をします。

 正直このとき私は、「え?大げさじゃないか?そこまで賢くなるの?」と思っていました。それに、チャーリーが以前より賢くなったのは良いことだし、突き放すような言い方は酷くないか?とも感じました。

 ですが、あるときチャーリーの一人称が突然「ぼく」から「わたし」に変わるのですが(文章はずっとチャーリー視点の独白のような感じ)、その瞬間なんだか背筋がゾッとした気がしました。私自身、読んでいてチャーリーの変化をなんだか怖いなと感じていました。
 たどたどしくて、誤字脱字が多くて、読みづらかった本書が、段々頭に入ってきやすくなり、読み進めやすくていいなぁと思っていたところ、学者との会話のシーンか何かで急に難解な用語が羅列され始め、「ん?何を言っているんだ?」と思いもう一度同じ箇所を読んでみましたが、意味不明でした。理解することを諦めました。そのとき、「あ、チャーリーが私の知能レベルを超えてしまった!」と実感しました。

 知能レベルが一定以上離れると会話が成り立たないのでしょうか?少なくともお互い居心地が悪くなりそうですね。「分からない」ものを怖がったり不安に感じる気持ちは理解できるので、パン屋の同僚の反応も、悲しいけど仕方がないのかな・・・と思いました。


-チャーリーの葛藤

 知識が増え、これまで見えなかった物事の繋がりや意味を理解できるようになるにつれ、チャーリーの悩みは増えていきます。親切だった人々が悪者に見え(事実その通りであった人もいる)、偉大な教授だと思っていた人が矮小な存在に見え始め、道徳的な問題(同僚の犯罪行為にどう対処すべきか?)に頭を悩ませます。手術前は、うまくコミュニケーションが取れなくても、チャーリーの周りには沢山の人がいて、愛されていると感じていたのに、賢くなったことによりコミュニティから追い出され、チャーリー自身も周囲の人々を心から信頼できなくなります。
 
 「知らないほうが幸せだったのかも?」と感じさせられるシーンが多かったですね。同僚からのイジメも、犯罪行為を目撃してしまったことも、お世話になった教授が自分を実験動物としてか見ていないのでは?という考えも。
 特に、他人が自分をどう思っているか?自分は孤独なのではないか?という悩みは、自分が馬鹿で何も考えられなければ、悩む必要がなかったことなのかなぁと思いました。
 
 頭が良くなるって、こんなに視野が広がることなんですね。一時のチャーリーの脳はもはや宇宙人か?(過言かも)というレベルに達していたように思いますが、一瞬で知識を吸収できて、普通の人には見えない物事の繋がりが見えて、どうでもいいような事象をああでもないこうでもないって沢山の言葉を捏ね繰り回して表現しないと気が済まないなんて、チャーリーの変化も凄まじいですが、本当に同じ世界とは思えないぐらい、チャーリー視点から得られる情報量が変わっていました。

 それでも、人の心は分からないんですよね。チャーリーが情緒面で幼いということではなく、やっぱりどれだけ賢くなっても人の気持ちを読むことはできないし、言葉を砕いてもすれ違うことはあるし、その人が経験したことはその人にしか分からない。

 人の心が読めたらいいのにって思うこと、ありますよね。いつか人間も人の心が読めるようになったりするんでしょうか?(もはや人間とは呼べない生き物になっているかも知れませんが)実際には、知られたら困るようなことばかり考えているので、難しいですが・・・
 そういえば、チャーリーも最初は毎日経過報告を書いて提出していたんですが、知能が高くなっていくにつれ、「これは見られたら問題になりかねない内容なので書かないでおこう・・・」という判断をするようになるんですよね。最初は素直に感じたことを書いていたのに、複雑なことを考えられるようになるにつれ、人に知られたら困ることが増えていくなんて不思議ですよね。(内容の変化もそうですが、見た人がどう感じるか?その後何が起こるか?という客観的視点や想像力を持てるようになったことの方が大きいのかも)


-衰退?

 後半にかけて、徐々にチャーリーの知能が低下し始め、思考力や記憶力が衰え、以前の自分が書いた文章も理解できなくなっていきます。それに対して自暴自棄になったような描写だったり、癇癪を起しているようなシーンもあります。当たり前に出来ていたことが段々と出来なくなっていく、人と話が通じなくなったり、理解できないことが増えていくってとても恐ろしいことですよね。

 チャーリーは元の自分に戻るだけかも知れないですが、「できる自分」を知らなかった頃とはもう違います。同じ痴呆でも、今よりも良かった頃の記憶を持った状態なんて、地獄じゃないか?それなら手術を受けなかったほうが幸せだったんじゃないか?もし私だったら、死んだ方がましぐらいに思ってしまうかも知れない・・・と思いました。

 しかも、人間関係は完全に元通りにはいきません。手術前のチャーリーの周囲にいた人々がチャーリーに向ける視線は、もう変わってしまっていて、チャーリーもそのことを嘆くシーンがあります。キニアン先生が言うには、

「手術前のチャーリーは、謙虚で、人から愛される何かがあった。しかし賢くなってからは変わってしまい、傲慢になり、人を見下すようになった。」

だそうですが、これにはちょっと納得しかねると思いました。
なんだかチャーリーが碌でもない人間になったような言い方ですが、難しいことを考えるようになった(思考の量や質が格段に増えた)せいで、周囲から見たチャーリーもそれだけ難しい人間に見えるようになった、のではないかと思いました。
 日本語を話せない人が、片言でなんとか話そうとしている姿を微笑ましいと思いますよね。慣れない言葉だと上手く伝えられず、表現力が乏しいために、発した言葉だけを受け取ると純粋な人に見えがちだと思います。でも実際は、もっと複雑なことや、人には聞かせられないようなことだって考えている筈です。

 チャーリーの場合は、思考のレベル自体が変化しているので少し違いますが、外から見た時の表現力の差という点では、同じだと思います。また、外見(話し方や話す内容)の変化に加えて、チャーリー自身の見方も大きく変化しているので、これまでAに見えていたものがBに見える(自分より偉いと思っていた人が、そうではないと知る)ようになることも、当然だと思います。
 事実として自分が周りの人々よりも知能が高いということを知ってしまったうえで、敬意を持って接するには、どうしたらいいのでしょうか?加えてチャーリーは自分が実験動物として扱われているという認識や、実際に過去に虐げられていたという被害意識も芽生えていたので、どちらかというと信じていた人に裏切られたという部分が大きくてそうなったんじゃないかなと私は感じました。


ひととおり読んで感じたことは、難しいことを考えられるようになると、
勿論良いことが沢山あるけど、一方で単純な事柄とか感情とかを、複雑なものにしてしまう こともあるのかなと思いました。
語彙力が少なかったころのチャーリーの感情は、分かりやすくて理解し易かったけれども、頭脳が発達しすぎたチャーリーは、表現が詩的だったり難しい語彙を使うから分かり辛かったです。でもそれって、言葉を知らなければそこまで考えなくて良かったことじゃないのかな?本当はもっと単純な話なんじゃないの?と思いました。


場面場面で色々な感情が湧き上がってくる作品でした。もう一度読むとまた
別の発見があるかも知れないですね。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?