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フランスから、食関連ニュース 2020.01.14

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

1. 今週の一言

先週にパリに戻ってきました。滞在前は12月5日から続いているストはすでに収束していることを期待していたのですが、続行中。政府からの妥協案も示される中、本日のパリの交通事情は少し穏やかになり、移動も以前と比べて苦ではなくなりそうですが、しかし妥協案が引き金となる可能性もあり、予断を許さぬ状況。レストラン業界としては、たとえ交通網が正常化したとしても、夜にゆっくり食事を楽しみに行くという運気が以前のように戻るのは、先のことになるかも知れないと、腰を据えている料理人さんや経営者たちも多いようです。

日本ではパリに戻る直前に前橋の割烹へ足を運ぶという僥倖を得ました。「たけ花」という店で、ご主人の竹内さんが数年前にオーナーとなり、生産者と懇意にして仕入れる新鮮な素材を、大胆に調理し椀に盛る(皿というより椀が表現として相応しい)という、めったに手に入らない旬の素材をいただく隠れ家として、これほど贅沢な店はないとも思えるほどです。「たけ花」の名前には割鮮を冠しており、鮮度の高い素材を切り割ることをイメージさせるその枕詞が、しみじみとふさわしいお店です。「たけ花」となる以前は亡き中曽根康弘氏が通う料亭としても知られていた由緒ある場所だったようで、落ち着いた設えの個室や常連が集うカウンターなどの諸処から、歴史とともにある趣が感じられます。竹内さんは、もともとヨーロッパでも挑戦されていた時期もあり、枠にとらわれず、美味しいものを食べてもらいたいという、まっすぐな心意気を感じさせられました。

のっけから、生きた越前ガニの雌であるセイコガニを立派な美濃焼の大皿に乗せて、竹内さん自らが紹介してくださるというパフォーマンスから始まりました。大皿からはみ出るほどのセイコガニ。ほっそりとした爪と足は薄い紅色をした上品な色合いで、時折目をキョロキョロとさせています。ほどなく、茹でた蟹の爪肉とパチパチとした食感が見事な外子を合わせた一皿が出てきましたが、その素材の持つ味わいと食感と香りの繊細さ、皿盛りのダイナミックさに圧倒させられてしまいました。セイコガニの漁期は、産卵が2月あたりから始まるため、11月6日から翌年の1月10日で、まさに漁が閉まる直前の仕入れでした。まさに珍味といってよいのですが、同時に人間の飽くなき食への貪欲さというものも、考えさせる一皿でもありました。セイコガニといえば、それを愛した文豪の開高健がペロリと平らげたことで知られる「開高丼」が思い出されます。福井県の地元産コシヒカリ2合に、セイコガニを8杯も使った、これでもかというくらい贅沢な丼もの。食通と知られる彼の存在も、バブル時代に突入した高度経済成長期と、あるいは戦後思想に対する日本の立場との行方などが浮かび上がります。しかし、彼の名言「悠々として急げ」が似合わなくはない食べ物。「芸術は永く、人生は短い。しかしこの一杯を飲んでいる時間くらいはある。黄昏に乾杯を!」と語った彼の言葉から、食が、人生にもたらしてくれる活力や生き方について、もう一度考えさせられます。特に戦争で一度死にかけた人が語る、嵩のある言葉としては。食べるということは、一瞬一瞬を蘇らせてくれる行為。たった一つのおにぎりであれ、はたまたこうした贅沢なセイコガニであれ、人の血の通った料理をいただきたいと常々思いますし、いただいていること、あるいは作ることができることは、人生の宝ものだと感じています。

2. 今週のトピックス【A】アレクサンダー・ペイン監督が「バベットの晩餐会」をリメイクすると発表。【B】第3回パリ産アルチザンコンクールで受賞したパリ産ウォッシュチーズ。3.日本@フランス 【A】パリ日本文化会館にて真葛焼を中心とした茶懐石開催。【B】弊社DOMA社はショールームに。生産者と料理人に寄り添う包丁研ぎも。

2. 今週のトピックス

【A】アレクサンダー・ペイン監督が「バベットの晩餐会」をリメイクすると発表。

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