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ある写真家@Place Saint Sulpice Paris フランスの食関連ニュース 2021.10.06

今週のトピックス

パリに30年住んでいらした写真家の宮本敏明さんが、ご夫婦揃って、この冬帰国することになりました。仕事でご一緒いただいた機会も何度か。絵作りに非常に熱心で、こだわりは一通りでなく、しかし、宮本さんご自身そのままの繊細なあり方が、写真の優しさとして滲み出ていて、お仕事をご一緒させていただいて嬉しいカメラマンさんの一人でした。伊集院静さんからポートレート撮影の指名を受けるほどの腕とお人柄。

最近は作家活動に取り組んでいらして、その作品に私も魅せられています。近年はじめていらっしゃる今のテーマが、今後の彼のスタイルの軸の一つとなるはずですが、言われてみなければ、どこの場所とはわからぬ、パリの光を閉じ込めた作品。移ろう時と光とともに、彷徨う心が交差するような、幻想的な作品です。

写真はご自身で和紙(22g/m2)に印刷。表ではなく裏を作品の表にして、裏打ちをして仕上げ、一点物の作品にできあがります。和紙の柔らかさが、光も時も心も吸い込んで、幽玄の時を表現してくれるよう。佐藤絵子さんがオーナーの、20区のギャラリーEko Satoで2回展示をする機会を持たれましたが、夏に開催された2回目の展示に訪れて、美しさに脱帽。そしてこの10月佐藤絵子さんがサンジェルマン・デプレ界隈のサン・シュルピス教会前広場で開催される展示会に参加をするというので、パリでは帰国前の最後の展示になると思い足を運んできました。

会場にたまたま足を運ばれたフランス人の目利きのような方が、作品にきちんと目を通されて「ブラボー、あなたの作品は素晴らしい」と声を掛けていたのには、私も嬉しく思いました。

興味深いエピソードを宮本さんから伺いました。それは、ある作品を購入していただいた方に、作品を撮った場所や時間、その背景を詳しく説明したら大層ご立腹だったということ。この作品を見たら、どうしてもその作品を撮影したというモンマルトルの風景と重なってしまうじゃないか、想像が固定されてしまい残念だ、ということなのです。自分の手を離れたとともに、自由に旅立ち、それに対峙する人々によって異なる、自由闊達な新しい価値が付加されるというのが、アートかもしれません。そして、人生の道々で、執着を切り離すという英断、についても考えさせられました。

反省したのは宮本さんが佐藤絵子さんのギャラリーで1回目に展示したときに、案内状をいただいただけで、足を運ばなかったこと。案内状だけではその魅力がどうしても伝わってこなかったので、強いて時間を作ろうとはしませんでした。しかし2回目は、どんな作風なのか、テキストで説明されていて、興味を覚えたことが作品に触れ合うきっかけでした。

語るべきこと語らないで良いこと。世界観の伝え方。インスタレーションの仕方。わずかなことが、対峙する人に共鳴するという振動を与えてくれて、心を動かしてくれるのですが、いずれにしても、受け手の側も実物を見ないと始まらない。

宮本さんは、特大のプリントをしたい、和紙についてもリサーチを続ける、など、今後の意欲を語ってくれました。ご自身の世界を発展させて、日本での新しい人生に、たくさんの出会いと世界が開けていく予感がします。


今週のトピックスは今週のひとことのあとに掲載しています。ご訪問いただけましたら幸いです!【A】フランスコーヒー選手権3部門すべてに、女性が優勝。【B】「海から生まれるハイテック素材」スタートアップ企業の野心的な使命。【C】レンタル食器・調理器具会社「OPTIONS」が、ゼロパッケージを目指す「OPTIONS SOLUTIONS」を創立。【D】初のバーチャルシェフGiovanniによるレストランが登場。【E】1時間に100食こなせる大型の調理ロボット誕生。

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