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JALのファーストクラス


生まれて初めてJALの国内線ファーストクラスに乗った時のことを、今でも鮮明に覚えている。



予約をする時、何故ファーストクラスを選んだのか。


それまで別世界のものだと思っていたファーストクラスに、ある日ふと、


乗ってみたい


と、思った。




実家から遠い地で生活している私は、年に何度か帰省のために飛行機を使っていた。

その他、趣味の旅行でも飛行機が好きで、飛行機で行ける土地を訪れている。




あれは、実家に帰省するための飛行機を予約した時のこと。


思い切って、

本当に思い切って、

ファーストクラスを選択してみた。


清水の舞台から飛び降りるとは、まさにこの事なんだと思った。

当時私はしがない平社員で、お給料がさして良いわけでもなく、

それ以上に、自分自身に対して、節約を課すことこそが良いことなんだと、すっかり思い込んでいたから。


それまでの私の常識では、

早割で如何にお得に安く取るか。

だったから。




勇気を出して、

本当に勇気を出して、

胸を高鳴らせながら予約ボタンを押して、

その後決済をするまでの間も、

悩みに悩んで

迷いに迷って

心臓はドキドキするし、

頭の中では私がウロウロとそこら中を徘徊しているような、そんな気分がしていた。




えいっ!!


もう、どうにでもなれっ!



少しヤケクソ気味に決済ボタンを押した瞬間は、

それはもうある意味、生きた心地がしなかった。

これを読んでいるあなたは、大袈裟だと笑うかもしれないけれど、

自分にとっての常識を外れるときの怖さは、そんな感じだったのだ。





でも。





決済をした直後から、

不安と迷いのドキドキは、楽しみで気持ちが昂揚するドキドキに変わっていた。




初めての体験。

憧れの体験。


頬を染めて、胸を高鳴らせる少女のように、

私はその日を待ち望んだ。





指折り数えて搭乗の日を待ち、

前日の夜は荷物をまとめながら、いよいよ明日に迫ったファーストクラス体験に、頬がほころんでいた。



今でも、その時のことはよく覚えている。





待ちに待ったその日。



飛行機には乗り慣れているはずなのに、

ファーストクラスの座席に向かう間、ドキドキと鼓動が高鳴る。

嬉しくて、でも落ち着かない気持ちで着席すると、客室乗務員の方が私の名前を呼んで声を掛けてくださった。



それはもう。


今まで普通席で、名前を呼ばれるなんて

不名誉の呼び出し以外には無いことだったから、

すごく驚いて、これがファーストクラスの世界なんだと理解した。



寒い時期だったため、コートを預かってくださり

座席にはメニューが置いてあり。


何もかもが、それまでと違う体験。



飲み物のメニューには、

シャンパン、純米大吟醸、等など

上品なお酒が並んでいる。


普段レストランでも余り見かけない

シャンパンをお願いした事を覚えている。




食べるのがゆっくりな私には、

フライト時間の殆どが食事の時間となって居たが、


その日、老舗の和食が提供されて、

そのお店の説明書きが添えられた

上質な紙の立派なメニューが置いてあり、


私は嬉しくて、

本当に嬉しくて、

そのメニューと説明書きを、

大切に鞄に入れ持ち帰ったことも、

その嬉しさとともに鮮明に覚えている。






今では、

移動の際にファーストクラスを取ることが

私の中ではすっかり


普通のこと


になっているけれど、




それでも今もなお、

私の心の中には、

初めてファーストクラスに乗ったときの、

あの心躍るような嬉しさが

いつでもありありと鮮やかに息づいているのだ。






この喜びは、何ものにも変え難い、


あの当時の私自身を、

とても大切に扱ってあげられたこと


という、かけがえのない行動の記憶となって息づいているのだ。





嬉しさは、喜びの感情であり、

喜びは、自分自身への想いのバロメーターなのだろう。





私にとって、

JALのファーストクラスには、

そんな想いが詰まっているのだ。