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勢いだけでオンライン授業の可能性検証をやってみた話。

新型コロナウィルス感染症対策による一斉休校。
一斉にEdTech事業者がオンラインサービスの導入を進める中、
私たちキャリア教育コーディネーターって、
ちょっと「見てるだけ〜」になりがちでしたので、
じゃー、オンライン学習、やってみようぜってことで
いきあたりばったりでやってみました。
で、どうだったの?というのを、
論文”風”に、書いてみたいと思います。
明確な仮説を持っての検証ではなかったので、
あくまで”風”でしかないのですが・・・(笑)

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「一斉休校でオンライン授業はどう設計すべきか?」
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●問題意識

2020年2月27日夜、「3/2から春休みまでの一斉休校」が発表された。
学校の先生たちにとっては、本当に唐突であり、突然の長い春休みに、
子どもたちの学習をどう担保するか、短い時間で苦慮されたことと思う。
一方で、EdTech事業者が、一斉に「春休み中の無償利用」を始め、
WEB上の子ども向けの学習コンテンツも氾濫し始めた。
教育関係の仕事をしている私も、つい「自宅で子どもにどう勉強をさせるか」
という視点でものを考えてしまいがちだったが、ハタと気づく。
もしも、いまの自分が中学生くらいの「子ども」だったとしたら、
この長い春休みをどう過ごしていただろうか?と。
生活は毎日ダラダラとしたものになるはずであるが、比較的マジメな私は、
学校から出される宿題(課題)には、まっとうに取り組むであろう。
しかし、宿題に取り組むことは、受動的でやらされているものにすぎず、
いま提唱されているような主体的な学びには程遠いものになる。
仮にここに「オンライン」の手段があったとしたら、
仮想の「中学生の私」の生活は変化するのであろうか・・・?
そんな疑問を持っていたところ、
京都府の先生方が作った「課題学習の窓」サイトに出会う。


●背景となる情報

オンラインを活用した授業実践について、
静岡聖光学院の取り組みがマスメディアで話題になっていた時期でもあった。

具体的な授業実施の手法としては、
「最初の5~10分間で事前に教師が収録した解説動画を配信。続けて、
 その内容に即した課題を配信して、残りの30~40分程度で生徒が解く」
とされている。(記事より抜粋)
(1)知識の伝達の「レクチャー」部分は解説動画の配信
  (おそらくここに教科書という文字情報もあるはず)
   +
(2)課題を解く
という構成になっている。
環境整備に早くから着手していたというアドバンテージもあるが、
綿密に授業を設計し、試行しながら進めてきたであろうことがわかる。
    *こうした授業設計の教科書的な書籍としては、
     「ブデンディッド・ラーニングの衝撃」がある。

●課題設定

 今回の研究課題は、以下のように設定した。
  *課題設定に関しては、実際は「行き当たりばったり」だったので(笑)
   後からふりかえったときに「たぶん、こう」という程度のものである。

 (1)オンライン授業にあたっての適切な手法の組み合わせとは?
   大まかに分類すると、学習手法としては以下のようなものがある。

    ・映像
    ・テキスト(教科書)
    ・レクチャー
    ・ディスカション

   これらを「個人学習」「協働学習」でどのように組み合わせるべきか。

 (2)オンラインに向くテーマ・向かないテーマはあるか?
   学校で行われている授業にも様々な教科や活動があるが、
   おこまでオンラインに転換できる可能性があるのか?


●検証方法

「課題学習の窓」の課題を活用し、数人でのオンライン授業を行う。
参加者はFacebookイベントを立て募集する。
参加者は事前に課題を確認し取り組んでおき、
オンラインディスカッションを通して疑問解消とふりかえりの意見交換を行う。
使用環境としては、オンラインツールはZOOMを使用。
事前課題の配信および共同編集用にはグーグルスライドを使用。
(参加者の使用環境はパソコン・スマホなど様々であった。)


●検証1「中学・社会」

【実施概要】
・開催日:3月13日(金)21:00ー
・参加人数:5人(+教員1名)
・単元:「中世の日本」
・課題:「鎌倉幕府と室町幕府の組織を見比べて、
     足利尊氏が鎌倉幕府の組織の問題点はどこにあると感じていて、
     どのような工夫をしたのでしょうか?」
・事前学習:教科書等を読み、鎌倉幕府と室町幕府それぞれの特徴を整理し、
      グーグルスライドに各自が書き込む。
・オンラインディスカッション:
 (1)事前学習の内容を共有する
 (2)尊氏の視点で「問題点」「工夫したこと」をディスカッション
 (3)出題者の先生からのレクチャー
 (4)ふりかえりの意見交換
 オンラインディスカションは、グーグルスライドを画面共有で提示し、
 ディスカッションメモを全員に見える状態で進行した。

※グーグルスライドは以下。

【参加者からの声(ふりかえり・抜粋)】
・事前に事実ベースの知識はある程度統一してから話を進める必要がある。
・事前学習は共同よりもいったんはそれぞれの方がいいかもしれない。
・先生の解説があるとすごく広がる。
・ファシリテーターがいないとしんどいかも。
・ディスカッションは純粋に楽しい。学力が低い子、歴史に興味のない子にも。
・歴史がわからん子は、出題をみても「?」 解説を聞いて「へー!」 
・落ちこぼれの子の気持ちがよくわかった。
・授業の場だと、クラスの中で役割をふったりして世界にひきこめる。
・書き込む作業は教室の中で意見を言うのと同じ。
 だが、匿名性が保たれる。意見が言いやすくなるかも。


●検証2「中学・数学」

【実施概要】
・開催日:3月23日(月)21:00ー
・参加人数:5人(+教員2名)
・単元:図形
・課題:「底面の半径がr、母線の長さがl、高さがhの円錐の
     ・側面積
     ・展開図をかいたときの側面のおうぎ形の中心角の大きさ
    をr、l、hから必要なものを使って表してみよう。」
・事前学習:問題を解き、決められた時間内にグーグルスライドに書き込む。
      前回の実施状況を踏まえ、
      解答に必要な知識を学習できるサイトのリンクも
      グーグルスライドに提示。
      また、図形のPCでの作画が難しいため、
      手書きのメモ写真を掲載することも。
・オンラインディスカッション:
 (1)わからなかったことを共有する
    実際はわからない事項がほとんどでなかったので、
    この項目は割愛した。
 (2)各自の解答を共有(プレゼンテーション)
    各自が自分の解答を画面共有で提示しながら解説した。
 (3)出題者の先生からのレクチャー
 (4)ふりかえりの意見交換

※グーグルスライドは以下。

【参加者からの声(ふりかえり・抜粋)】
・人に説明するのがむずかしいい。問題解ければOKだなーと思ってた。
・図形=指差ししながらだから、オンラインだとむずかしさはある。
・イコールの位置をそろえる、とかのテクニック的なところ。
 パソコンの文字でやることのむずかしさがある。
 何を見せて何を考えさせるか・・・
・数式や図形を打つのができない。オンラインで数学のハードルになる!!


●考察〜可能性と課題〜

2回のオンライン検証をやってみてわかってきたことを
可能性と課題という2つの視点からまとめてみる。


【可能性】

・オンライン上での共同作業
今回、グーグルスライドを活用してみたが、
発言をしなくても書き込むことができるので、
あまり発言したくないタイプの子でも参加できる可能性がある。
(ふりかえりの参加者コメントでは「匿名性が高い」というキーワードも)


・自宅での学習モチベーションへの効果
当初の問題意識にあった「私がいまの中学生だったら」という視点では、
オンラインの場で自分以外の解答や考え方を知ることを通して、
自分に足りなかった視点に気づくことができたことは大きかった。
自分ひとりで課題に取り組むよりも、学べることが多かったように思える。
ダラダラ生活の中学生には、オンラインがあった方が良いのではないだろうか。
チャット機能なども有効だと考えられる。


・プレゼンテーション能力の養成の可能性
特に数学の課題では、図形を示しながら相手にわかるように解説する
という点にむずかしさを感じた参加者が多かった。
しかし、同時に相手にわかるように伝えるトレーニングになるという
可能性もあるのではないかと考えられる。


【課題】

・機材やインフラのこと
特にレクチャーにおいては、スマホやタブレットだけでは
図形などの解説がしずらい部分が出てくる。
先生側に書画カメラなどの機材も必要になると考えられる。
さらに言うなら、実際に授業を全てオンラインに切り替えた場合、
生徒側の通信環境の問題も大きいのではないだろうか。


・数学での数式や図形が書けない
キーボードでは数式が入力できないため、
参加者は事前課題の取り組みで苦労していた。
手書きツールや写真の活用、また、上記の機材の整備も課題となる。


・ディスカッションのベースとなる知識の獲得
特に社会(中世の日本)では、
事前課題に取り組むにあたって教科書を活用したが、
充分ではなかったという声もあった。
知識の獲得には、解説動画などの活用も必要だと考える。
また、その場合、動画作成スキルが求められるという点も、
今後の課題になるのではないだろうか。


・ファシリテーターのスキル
課題のねらいにあわせて意見を引き出す、疑問を解消するという機能が
ファシリテーターに求められることになる。
教科の授業であれば、教員がこの役割を担うことになると考えられる。
オンラインであるということは、カメラがあるとはいえ、
リアルな相手の反応や気配が感じられない側面がある。
そのため、発言する側のタイミングのむずかしさが出てくる。
ファシリテーターがいかに議論を促すかというのも課題である。
  *今回は5人という少ない人数だったので、
   比較的発言しやすかったという側面もある。


●結論

2つの研究課題についての結論は、以下のようなものである。
(すでにいろいろな研究結果が出ているので、目新しいものでもないが)


(1)オンライン授業にあたっての適切な手法の組み合わせとは?
教科の内容によって変動はあると考えられるが、
以下のようなフレームを基本に設計できるのではないだろうか。

・解説(レクチャー)
学習者が課題に取り組むために必要な知識を獲得する部分。
教科書などの紙媒体のほか、動画などを用意しておく、または、
オンラインでリアルタイム配信することも考えられる。
  ↓ ↓
・課題に取り組む
なんらかの「課題」(ドリルなどの宿題ではなく思考を伴うもの)を提示する。
学習者は解説(レクチャー)も活用しながら課題に取り組む。
  ↓ ↓
・共有(プレゼンなど)
オンラインでのプレゼンまたは、事前の課題提出など、
方法には検討の余地があるが、相互の回答や考えが共有できる仕掛けは
学習効果としても有効なのではないかと考えられる。
 *私が過去に授業したことのある講座では、
  オンライン上で課題提出・受講者の相互評価の仕組みがあり、
  こうしたシステムがあればなお有効であろうと考えられる。
  ↓ ↓
・ディスカッション&レクチャー
ディスカッションなのかレクチャーなのかは
提示される課題の内容にあわせて選択する。


(2)オンラインに向くテーマ・向かないテーマはあるか?

オンラインの時間が「ディスカッション」という前提であれば、
やはり「答えがないもの」を取り上げる方が、効果的であろうと考えられる。
これは、オンラインに限らず対面授業でも同様である。
一方で、教科を扱う場合は、
上記(1)のような、レクチャー・課題・共有・ディスカッションなど
いろいろな手法を組み合わせる方が効果的だと考える。


●最後に ーやっぱり学校の先生はすごかった!ー

個人的な感想だが、
事前に課題で取り組み、自分なりの解答を持っている状態で、
出題者(先生)から、ねらいや考え方のポイントの解説があることで、
課題に対しての理解度は格段にあがったように感じた。
さらに、もしもこれがリアルな教室での授業であれば、
もっとおもしろいはずだということも容易に想像ができ、
学校の先生たちのすごさをあらためて実感することとなった。

ほんの思いつきの企画に協力してくださった菊井先生・中村先生、
本当にありがとうございました。


松倉由紀
キャリア教育コーディネーター・教育研修プランナー。1975年長野県上田市生まれ。静岡大学人文学部社会学科卒業。地元での就職に失敗(4か月めで退職届!)ののち、大手通信教育会社、人材派遣会社、コンサルティングファームを経て現職。キャリア教育の領域で教育プログラム開発と「しくみ作り」をする「企画屋」であり「風呂敷たたみ屋」。2016年4月個人事業主から法人成り(株)ax-factory(https://ax-factory.wixsite.com/corporate)を設立。
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