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秩父の伝説 - 『水飲みの龍』 秩父神社

秩父神社の本殿の右側に、左甚五郎作の龍と言われている彫り物があります。鎖でつながれており、地元の人からは " つなぎの龍 " と呼ばれております。

まだ秩父が田畑や草原だった昔、札所十五番の近くに雨池(あまがいけ)という池がありました。不思議なことに毎夜の子の刻(午前0時)になると、その池の水が何者かに掻き乱されるような恐ろしい音をたてるため、近所の人々は眠りから覚まされていたそうです。

そして、翌朝に起きてみると、せっかく農民たちが丹精こめた畑は一夜のうちにまるで暴風にでも見舞われたかのように、作物は倒され荒野と化しているのでした。

度重なるこの有り様に人々も泣いてばかりいることもできず、その正体をさぐるため、数人が組みになって交代で池を見張ることにしました。

番に当たった人々は昼間のうちにぐっすりと眠り、夜になると身支度を整えて雨池のほとりに集まりました。そして、子の刻が迫るのを恐ろしさと怖いもの見たさの複雑な気持ちで待ち構えておりました。

やがて時が迫り、空はにわかにかき曇り、生温かい風が吹きはじめ、雨池はそれにこたえるように、だんだんと波を打ってきました。

とそのとき、水面に黒雲が立ちこめたかと思うと、水をかき乱す騒々しい音が辺りの静けさを破りました。見張りの人々はまばたきもせずこの光景を眺めていましたが、よく見るとその黒雲の切れ間に恐ろしい爪や鱗が現れ、さらに、水面には大きな口を開いて水を飲んでいる龍の頭が見えました。

見張りの人々は今更ながらその恐ろしさに息をのみ、身を震わせていました。

しばらくして、水を飲み終わった龍は作物畑のうえを乱舞し、何処かへ立ち去ろうとしていたので、

見張りの人々はしっかりと手をつなぎ合い、そっとその後をつけて行きました。

秩父神社の近くまで来た時でした、どうしたことか、龍の姿を見失ってしまったのです。「不思議なこともあるものだ?」と人々は右往左往しながら探したものの、とうとうその姿を見つけることができませんでした。

諦めかけたとき、

「あれは神社に納められている甚五郎の龍ではなかろうか?」

とひとりが言い出しました。他の人たちも、「そうに違いない」ということになり、さっそく神社の人に事のあらましを伝え、色々と考えた末に、龍を鎖でしっかりと結えつけることになりました。 

その後、龍が出歩いて作物を荒らすことは無くなり、人々は安心して暮らせるようになったそうです。

めでたし、めでたし

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

*札所十五番はもともと秩父神社の傍にあった蔵福寺でしたが、 明治維新の際に廃寺となったため少林寺に札所が受け継がれました。
*秩父神社にある『つなぎの龍』の伝説になります。この伝説と合わせて秩父観光をお楽しみいただけますと幸いです。

また、僕は『ちちぶホステル』という民泊の管理人をしておりますので、よろしければ秩父観光の際にご利用くださいませ


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