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絵本の授業、絵が描けないわたしが何を作るか。

あわやまり

美術専門学校のとき、映像作品の講評を受け表現方法に迷いが出てきたわたしは(note前の回)、2年生になり「これだ!」という表現方法を出会う。それが「本をつくること」だった。文章を書いて、本にすること。

それは、何年生でも受講出来る授業で「絵本工房」という名前だった。わたしは、絵が描けないにもかかわらず、絵本が好きだったので、ついとってしまった。でもいざ初回の授業前になって、
「どうしよう、絵なんて描けない」
と焦っていた。そう、わたしは美術専門学校に入ったけれど、絵が描けない人だった。

そこへ、軽い足取りで先生が入ってきた。女性のような名前だったので、男性で驚いた。
そして言われた。
「絵が描けない人は、写真でも、文章だけでもいいから、一冊本をつくりましょう!」

その授業は1週間に1回だったのだけれど、今でも鮮明に覚えている。その授業が終わって、どうしてかわくわくして、1週間で短編のお話を6編書いた。物語を書くのは初めてだった。

次の授業で、ダミーの小さな本を作っているときに、先生に声をかけられた。
「もう書いてきたんだ、すごいね〜」
そしてちゃんと読んでくれた。
「すごいね、君、才能あるよ!」
この先生は、みんなを褒めて伸ばす先生だったので、もちろんみんな言われていたことだと思うけれど、それまで、そんな風に言われたことはなかった。この先生からはその後も、本当に色んなことを教わり、貴重な経験をたくさんさせていただいた。

製本は本当に楽しかった。毎回その授業がある時は大事に持っていき、大事に持って帰ってきていた。そして「今は絶対死ねない!この作品を完成させるまで!!」という、それまでに抱いたことのない強い思いもあった。

わたしは、自分で物語を書いて、本にする(手製本)という表現方法が、とても好きになった。

その時作ったのが「石に花咲く」という本。
石に花咲くはことわざで、現実には起こるはずのないことのたとえだ。
先ほども書いたが、6編の短いお話が入っていて、そのうち2編はその後推敲し、絵本にもした(「鯨の伝言」「跡」)。
この本のタイトルは銅板を腐食させて凹ませた。ちりめんという、製本には向かない布で作ったこともいい思い出だ。

その中の、ひとつ「穴」をnoteに載せようと思う。拙い文章で、今はもう書けないような感じだが、書くことをスタートさせたもののひとつ。


「穴」

「穴、掘ったことありますか?」
と、ルイさんは相変わらずおかしな質問をしてきた。

「この間ね、随分懐かしい知り合いに会ったんですよ。昔働いていたお店の」
と、私の答えを待たずに続ける。
ルイさんはなぜかなんとなく友達になった人で、なんで「ルイ」なのかも忘れてしまった。本名は、わりかしふつうだった気がする。こうして季節が変わるころには会って、おしゃべりをする、不思議な男の人だ。
「へえ、お店の人ですか」
「いや、人じゃないんですけどね」
「え?じゃあ何ですか?」
「ねずみ、なんですけど。それが少し変わったやつでして」
「へえ、変わったねずみですか」
「そいつ、店にしょっちゅう出て来て、まあ、それなりに悪さもしてきたんですけどね。でもたまに、お店を閉めた後なんかに、こう、ぶつくさしゃべったりしていたんですよ。他のねずみのことは知らないけれども、そいつはなんだか、いつも悩んでいた。ねずみの世界も、いろいろとあるらしい。それでそいつは、ある時からぷっつり現れなくなった」
「どこ行っちゃったんでしょう」
「そう、僕もそう思っていたんですよ。そしたらこの間、偶然違うお店で会ったんです」
「元気でした?」
「そうですね。それで、どうしていたかって、聞いたんですよ」
「そしたら?」
「そしたらあいつ、穴を掘っていたって」
「穴?ねずみでも穴掘るんですか?もぐらみたい」
「いや、詳しいことは知らないんですけど、そいつは穴を掘る種ではないようで。でも彼は『どうにもこうにも疲れてしまった。他のねずみとの関係や、こんな生活が忌々しくてならない』と思い、すべてのつながりを切るべく、穴を掘って奥へ奥へ進んだ。はじめはよかった。一匹というのは、なんとも楽である。だけれど日が経つにつれて、だんだん淋しくなってきた。そう思ったところで、戻ることはできない。だってあいつは、掘った土を、後ろへ後ろへ積んで進んでいたから。もう、前へ進むしかない。地上に出たくなった。ふつうのねずみに、戻りたくなった。あんなに、ふつうのねずみなどになるものか、と思っていたのに、自分はすでに、ふつうですらないことに気がついた。
さて、いよいよ本気で、地上に出ようかと思ったが、今度は怖くなった。自分には居場所がない。また一からつくらなくてはならない。そう考えると、面倒くさい思いもしたし、さらに時間が経てば経つほど、地上に出るのが怖くなった。何かきっかけでもあれば、と思ったがこんな土の中では何もあるはずがない。自分できっかけをつくるしかない。今まで気にもとめていなかった、土の中の世界の生き物と、自分から交流を持ったりした。すると、地上も土の中も、似ているようなところがあり、たいして変わらないのではないか、と思いはじめた。そして、随分時間はかかったが、あいつはついに地上へ出た。慣れるまでは、案の定たいへんだった。『自分は何をしていたんだ。遠回りをしていただけじゃないか』と後悔するときもあるらしい。でも…」
「でも?」
「『穴なんて掘る必要は、なかったかもしれない。あのまま掘らないで地上にいたら今頃は、と思わなくもない。だけど、いつでも、どっちか選んだ方の道しか経験できない訳だから、どっちが良かったと言えるものではない。今の自分を、穴を掘る前より気に入っており、とりあえずよかったと思っている』だそうです」
「へえ、それはそれは。よかった、んですかね?」
「よかったんだと思いますよ。少なくとも僕は、あいつが前より元気で、よかった」

ルイさんは、自分が穴を掘ったことがあるかどうかは話さないで、次は今飼っている、おかしな犬の話をした。

「石に花咲く」より

「石に花咲く」を作ってまもなく、詩を書くことに出会う。


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