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店飲み復活の日

2ヶ月半ぶりの「店のビール」はめちゃくちゃ美味しかった。 

6月某日、そろそろいいよねと飲みに出かけてみた。 友人を誘って居酒屋へ、というのはまだハードルが高く思えて、ひとりでオープンエアな場所を目指してみることに。 

向かったのは、大好きな川沿いの茶屋。 京都有数の観光地にあるためいつも込み合っていて、それはそれでよかったのだけれど、今回はまだ観光客が戻ってきていないタイミングを狙う。 

嬉しいことに、茶屋は貸切状態だった。屋根のある席と迷い、より開放的な床几の簡易席へ。 

目の前には山々の緑を映した川。空は少し曇っているけれどスコーンと抜けて、ときどきサーッと風が吹く。 

「瓶ビール、アサヒと、肉うどんのうどん抜きってできますか?」 「え、うどんいらんの? お肉だけ?」 「おだしも欲しいですー」 「あー、わかった。はいはいちょっと待っててな」 

お店のおばちゃんが、とっても「ふつう」で嬉しかった。 勝手な話だけれど、悲壮な顔つきだったり、観光客来ぃひんし商売あがったりや的なことを言われたらどうしよう……と思っていたのだ。 ほいほい、という感じで腰軽くビールの栓を抜いてコップと一緒に持ってきてくれる。 

うわ〜、よう冷えてるっ。 

うちの旧式冷蔵庫では叶わぬキンキン具合に「店だ。店のビールだ」と実感。 

久しぶりに持った大瓶は、持ち重りするほど大きく感じられた。 軽く緊張しながら、泡がきめ細かくなるよう慎重に注ぐ。 2ヶ月半も我慢した店のビール、あだやおろそかにはできませんからね。 

よしよし、泡こんもりでうまいことできました。

 ひと息ついて、グラスの半分ほどをグイッと飲むと、全身がさわっと粟立った。 

えっ、めちゃくちゃ美味しい……。 ちょっと泣きそうなくらい美味しい……。 

ファンタジックな言い方をすれば、きらきらとしてとても素敵ななにかが口から食道を通って身体の中に入ったような感覚があった。 長年、酒を飲んできて初めてのことだ。

 こんなことってあるんだなー。 それがふた口目からは「普通によく冷えた美味しいビール」に変わったのもおもしろかった。 

追加で頼んでいたにしんの棒煮(にしんそばの具)をつついていたら、肉うどんのうどん抜きもできあがってきた。 でっかい丼になみなみのおだしと肉。みずみずしい青ネギ。 ここのおだしこんなに茶色かったっけ。 あー、このしっかり甘辛い味付け、自分ではできないやつー。うまーい。 熱いおだしとビールを交互にやるの、たまらんな。 

あっという間に瓶が空いたのでもう1本頼むと、 「ゆっくりしてって」のひと言を添えてくれるおばちゃん。 最高。 


家飲みが好きだからずっとこのままでも平気かもなんて思っていたけれど、店で飲む酒は別ものだった。 

そこだけの空間と空気感があって、そして人がいる。 それがこれほど意味のあることだとは、恥ずかしながら気づいていなかったのかも。 「失って初めてその価値を知る」みたいな言葉、へーと思っていた私が今回の禍でそれに気づけたのは不幸中の幸い。 

この感覚を忘れたくなくて、初noteに記してみました。 来年の今頃には「あー、そんなこともあったよね。コロナ(笑)」なんて感じで、心おきなく飲み歩きできていることを願いつつ。 


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泡☆盛子(ライター)
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