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ノーヒットノーランの風景 ●DB×S○11回戦

廣岡大志

エラーのついた廣岡大志にかけた言葉は「切り替え」だった。

無死一塁から中井を遊ゴロに打ち取り、併殺打と思われたが送球を受けた広岡が捕り損ねて一、二塁のピンチに。それでも、顔面蒼白(そうはく)の広岡に歩み寄ってグラブで肩をポンとたたき「切り替え」と一声。代打・嶺井を空振り三振、神里を右飛、最後は柴田をフォークで遊ゴロに仕留めた。

大志はたしかに、顔面蒼白だった。でも、大志は元々色白だ。緊急招集され「黒い黒い黒い」と呟かれ続ける、戸田で焼け焦げた田代将太郎とはえらい差だ。笑

それにしても、だ。ノーヒットノーランの記録がかかった終盤8回、ゲッツーでアウトカウントを稼ぐチャンスに取りミス。それは、顔面蒼白にもなる。

マウンドに向かう大志は、帽子を取って頭を下げた。ことの重大さを物語る、めずらしい光景だ。しかしその時、ライアンは二度グラブで大志の肩を叩いた。うなづく大志。何を話しかけたのか。つい「気にすんな」のキャプションをつけたくなる。

「切り替え」か。スポーツ選手がよく使う言葉。だが、真理だ。悔やんでも結果は変わらない。気を削がれて次のプレーに影響を及ぼすのなら、このエラーはその場に置いて、切り替えていけ。それができるようになるのもまた、鍛錬なのだろう。

プロ野球ニュース解説・金村義明が、「廣岡に“喝”です。これ、ノーノー決めてくれて良かったですよ」と言った。そうだ、このエラーがノーノー阻止のきっかけになってしまっていたら、一生切り替えられなかったかもしれない。おっしゃるとおり、ライアンは、大志を救った。


荒木貴裕

9回。ファーストライナーで1アウト。ファーストゴロで2アウト。ファーストに飛んだボールをさばいたのは、代打から守備に入った荒木貴裕だった。
貴裕の調子が上がらない。打率.111。出塁率.195。しかし貴裕は、ずっと一軍帯同し、代打の機会を与えられている。
この成績では、登録抹消も視野に入れる必要があるだろう。しかしこの貴裕を見て、私はやはり貴裕が一軍のベンチにいる意味があるからそこにいるのだと、そう感じた。

荒木貴裕は、ユーティリティープレーヤーだ。内野守備はどこでも守れる。しかもその守備は安定感がある。私は貴裕の正確なスローイングが大好きだ。

山田哲人の守備力は高い。エラーも少ない。力強いスローイングは頼もしい。山田哲人が離脱し、復帰後も1ゲームとおして試合に出られない状態の山田哲人の守備を補完できるのは、荒木貴裕しかいないのだ。

そんな貴裕も、ライナーを捕球した後、ミットを懐にぐっと抱えるしぐさがあった。「落としてはならない」。そんな気迫と気負いが感じられた。
2アウト目のゴロは、間に合う距離ではあったものの、投げミスが出ることを避け、自らベースを踏んだ。

キャリアのある30代がいる内野は、安心感に満ちていた。貴裕がいてくれたから、最後まで守り切ることができた。
あとは、久しく見ていない貴裕の笑顔を見られれば、それでいい。


西田明央

あきおの工夫がよく分かる、内外に振る配球。打たせて取るだけでなく二桁三振も奪うナイスピッチングは、バッテリーの協力がなければ実現できなかった。

ノーヒットノーランを決めたラスト1球をミットに収めたあきおは、両手を大きく上げて、マウンドのライアンに小走りで近づいていく。マスク越しにも笑顔なのが分かる。ライアンを抱きかかえたところで、ベンチから飛び出してきたチームメイトの、ウォーターシャワーの洗礼が始まる。的を絞れていない選手たち。あきおの方がびしょぬれだ。現地にいたかった。ビジター試合は家でおとなしくしていると決めている自分の頑固さを、少しだけ呪いたくなる。

でも、画面を通じてでも、あきおが必死で一球一球考え、ライアンが丁寧に投げ込む姿は十分伝わった。熱量のある、いいバッテリーだった。

あきおはこれほど、ジェスチャーが多かっただろうか。神宮でよく見るようになった、「腕を振れ」。まるで高校球児のようだ。

ピッチャーにとって、これほど勇気の出ることがあるか。あきおはグラウンドを任され、ピッチャーとしっかりコミュニケーションを取り、必死で戦っていた。ライアンにノーヒットノーランを。その一心で、必死だった。

あきおを褒めたい。あきおを褒めてほしい。そう思う私の耳に届いたのは、TBSチャンネル2解説・槙原寛己、DAZN解説・谷繁元信、プロ野球ニュース解説・里崎智也が異口同音に贈るキャッチャー・西田への賛辞だった。あきおの頑張りを見ているのは、ヤクルトファンだけではなかった。ありがとう。うれしい。

ベンチに帰るあきおのほっとした表情が忘れられない。あきお。お疲れ様。


小川泰弘

ライアン。ノーヒットノーラン達成おめでとう。

昨季、なかなか勝てない試合が続いた、ライアン。チーム成績も低迷した。
ライアンが勝てないだけで、チームが沈んだ。やはりライアンは、ヤクルトのエースなんだ。
ライアンと一緒に勝利を分かち合えたこと。大切にしたい日だ。それでも、明日は続く。まだ見ぬ世界を、ともに見よう。ライアン。ありがとう。

R2.8.15 sat. 
DB 0-9 S
横浜スタジアム

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