鍵谷陽平の見つめる風景

まったく関係のないチームの試合を見る。そりゃ、頂上決戦の日本シリーズだもの、見るさ。

最高峰の野球を見て、2020年の締めくくりとするこの日本シリーズを見るモチベーション。
……低い。つまらない。讀賣対ソフトバンク。強いチーム同士の戦い。既定路線。ヤクルト黄金期を見ているオールドファンとしては、強いチームに食い込む、弱いチームの晴れ舞台であってほしいのだ。

低いモチベーションながらも見届ける理由のひとつに、解説陣がある。
第1戦 五十嵐亮太(日テレG+)
第2戦 青木宣親(日テレG+) 宮本慎也(NHK BS1)
そりゃあ、見る。

鍵谷陽平との出会いは2018年、北海道日本ハムファイターズのファンになり、とにかく情報収集と勉強をした年だった。

北海道出身の、北海道の球団のピッチャー。出身の北海高校は、若松勉の母校として名前を知っている。中央大学で野球キャリアを積み、2012年ドラフト3位でファイターズに入団した。

おしゃれ。鍵谷プロデュースのルームフレグランスは、北海道に行ったときに全種類購入した。のちに結婚するお相手の女性は、女優さん。どこまでもおしゃれだ。プロ野球選手はこうでなくっちゃ。

同級生の中島卓也とは、マブダチ。マウンドに上がった鍵谷は、投げる前に後ろを振り返り、ショートの中島とサイン交換をしていた。

道産子・鍵谷が投げるファイターズと、札幌ドーム。鍵谷は、北海道の人だった。

そんな鍵谷が、トレードで北海道を離れることになった。嘘のような話だと思った。鍵谷ほど北海道の球団にふさわしい人はいないだろうと、そう決め込んでいたからだ。
北海道の顔である鍵谷を送り出す北海道の人たちの気持ちは、いかばかりか。この決断をした球団の方針とは、なんなのか。

讀賣のユニフォームに袖を通す機会なんてまずない。思いっきり堪能しなよ。鍵谷のような顔立ちは、あのユニフォーム似合うんだこれがまた。神宮で、会えるし。
せめて私は、そんな風に送り出すことで前向きにこのトレードを捉えるしかなかった。

神宮で見る鍵谷は、これまで見てきた鍵谷と同じ、やはり讀賣のビジターユニが似合う。
だが、中島卓也のいない後ろを振り返ることはなかった。

鍵谷が今日被弾した満塁ホームラン。打たれた打球を追い、外野方向へ向いた鍵谷は、帽子のつばに手をやり、うつむいたまま動かない。その、デスパイネへの外角ストレートで、鍵谷はマウンドを降りた。
讀賣ベンチが映る。最前列で手すりに手をかけグラウンドを見つめる、鍵谷。表情はない。
そのまま讀賣2連敗で、今日の試合は幕を閉じた。

鍵谷陽平の目に映る風景は、2019年、突然変わった。伝統の球団から見つめる風景は、眺めもいいことだろう。ただ、その風景を楽しむ時間など、伝統のユニフォームを着ている間は、きっとない。

今日、鍵谷が見た京セラドーム大阪の風景。色も音も感じなかっただろう。
ただ、鍵谷。その風景に色と音を加えるのは、讀賣の選手にしかできないことだ。

またすぐ、投げることになる。肩、作っとけ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?