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祝宴狂想曲(4)ロマンティックが止まらない(師匠の!)

みなさま、こんにちは。アラフィフにして東京から遠く離れた島に嫁入りしました、じじょうくみこでございます。

5年前に嫁入りした直後のできごとを綴っております「オバサマー」でございますが、シマ島に引っ越した後でわたしの地元で祝宴を開くことになり、諸般の事情で死ぬほどつらいウエディングドレスを着ざるを得なくなった話のつづきです。今度生まれ変わったら、「ウエディングドレスを着るのが夢だったの♡ 結婚式ではウェルカムボードもギフトも手づくりしたいな♡♡」という女子になりたいです。


カモメ


月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり。なんて芭蕉的な洒落たつぶやきをするひまもなく、時はあっちゅう間に過ぎて地元祝宴の日が迫ってまいりました。

仕事の都合で直前に現地入りするザビ男を置いて、わたしはひと足お先にじじょう家に里帰り。とはいえ久しぶりの実家でのんびり…などといった余裕は一切なく、着いたその足で母上と姉きくえを引き連れ、問題のドレスショップへ出向くことになったのでありました。

そのお店はドレスショップというかザ・貸衣装屋といった風情で、人通りの多い観光地の片隅に店舗を構えておりました。ガラス張りの入口からは赤青黄色とド派手な衣装が所狭しと並んでいるのがよくわかり、その迫力に少々気後れしていると、背後からひとりの男子がひょっこり現れて「じじょう様ですかあ~」と声をかけてきました。なるほど、これがあの電話の主か。

「ドレスのお試着していただきますので、お2階へどうぞ~」

サダカメさんという名の担当さんは、ひょろりとした長身のメガネ男子。電話の印象そのままの頼りなさそう感に不安を抱きつつ、階段をのぼると2階には制服姿の女性が3人待ち構えておりました。そのメンバー構成を例えて言うなら


和田勉寄りの内海桂子
渡鬼レベルの泉ピン子
事務員風味の山村紅葉


つまりは圧倒的存在感の熟女陣だったのでありました。

「いらっしゃい、じゃあね、こちらへきて、このドレスを着てくださいよ」

どんなドレスがお好みかとか、サイズは何号かとか、東京のドレスショップで聞かれたようなヒアリングは一切されないまま、内海桂子師匠はわたしを一瞥したあと1着のウエディングドレスを出してきました。それは、なんというかわたしの口から言うのもおこがましいほどの



全身ふりっふり、ブリッブリの超ド甘ロマンチックドレス

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※写真はイメージです


実物はこの写真よりもっと、なんていうんでしょう、コスプレ感きつめな感じ? 全体に魚のひれのようなフリルがふわふわびっしりついていて、トレーンもかなり長め。てかデザインが完全にギャル向け。


あまりの衝撃に思わず「こ、これを着るんですか……?」と聞いてしまったのですが、内海桂子師匠は何を言ってるのかしらといった表情で「まずはサイズを見ないといけないから」と有無を言わせない圧力感。

ショックで硬直している間にピン子と紅葉に「さささこちらへ」と奥の試着室へ連行されたのですが、試着室っていうかそこは軽く間仕切りしてあるだけのだだっ広いスペースで、うっすら仕切り開いてるし、桂子もピン子も紅葉もそばでウロウロしてるしってところで「じゃあぜんぶ脱いでくださいねー」

あ、ハイわかりましたー

って言えますかっての!

生命の危険を感じたのですぐさま隅っこに移動して「あの! ドレス用の矯正下着を持ってきたので! 着けていいですか!」と叫ぶと「いいですよー」とピン子。

落ち着けくみこ、一瞬だけ我慢すればいいのだ、すべては母上のため…と自分に言い聞かせながら下着を装着し、震える手でドレスに袖を通したのですが、そもそもこんなドレスを着こなせるカラダでないことは誰が見ても明白なのに

ピン子「あらあー、ちょっときついわねえ…」
紅葉「ここもうちょっと上げればいけるんじゃない?」
桂子「これは下着を着けないほうが入るんじゃないの、脱いでもらおうか」

と熟女たちは口々に話しながら、ドレスの背中をぐいぐい締め上げてくるのです。そうしてどうにか装着できたところで「じゃあこちらへお願いしまーす」

って促されてもこの状態! このドレスの端という端からミートがオンしてオープンエアしているこの状態で! みんなの前に出ろと! そうおっしゃるのですか桂子師匠!

そんなわたしの焦りなどおかまいなしに間仕切りは開かれ、わたしのボンレスドレス姿が白日の下にさらされたのでありました。

「あーーーーーーー……」

あーーってね、言うよね一同言っちゃうよねーと泣きそうな気持ちになっていたのですが、そこにすかさず母上が

「わーーきれいきれい(・ω・)」

ってヤダやめて? 他の人はともかくあなたは? あなたのために決死の覚悟でこれ着てる娘に対して大人の対応するのやめて?

「すいませんが、このドレスはムリです…( ; ; )」
「そうですかあ~? そうですねえ~」
「もっとシンプルなドレスを希望しているんですけど…( ; ; )」
「でもねえ、お客様に合うサイズのドレスは、このドレス含めて3着しかないんですよー」

3ちゃくうーーーーー!!!

この部屋いっぱいに並んだドレスの中で、わたしに与えられた選択肢はわずか3着。いま着ているのは完全アウツなので、正しくは2着。ああ、とてもじゃないけど着こなせる気がしない。今すぐ島に帰りたい気分でいっぱいになりましたが「ささ、次のドレスを!」とピン子と紅葉に両サイドから羽交い締め状態で再び試着室に連行。

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         ※くり返しますが写真はイメージです


ええ確かにね、「シンプルがいい」とは言いました、ええ言いましたけども


シンプル=布が少ない❤︎


ってことじゃないんですーーー!!!(号泣)

わたしがこれまで避けつづけた肩&腕丸出しのチューブトップ、おまけにスカート部分は前のドレスよりもレーシイなデザインで、常軌を逸したフェアリー感です。ショッキングすぎてなんなら意識を失って別の人格出してきましょうかってレベルになってきたところで、

「肩を出されるのは、ちょっとご不安ですか?」

そうだよ紅葉! よく言ってくれた! ブンブンブンと音がしそうなくらい激しくうなずくと、

「そういうときはベールをつけると隠れますよー」


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いやいやいやいや
目隠しになってませんから…………(むしろフェアリー感倍増)

放心状態で立ちすくんでいるうちに「最後のはちょっと昭和感があって古臭く感じるかもしれませんが、さささ」とピン子&紅葉にまたもや連行。非現実感もここまでくるとアレですね、人って何も感じなくなるんですね。もはや人形のように機械的に袖を通し、最後のドレスを装着。


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プリンセス感ハンパない……

全面オーガンジーに花柄の刺繍が入った、恐ろしく乙女チックなデザイン。救いは肩も背中もしっかり隠れて安心ってことと、全体が軽くてトレーンも短いので自分でさばけるってところでしたが、何より

「うんうん、いいよ、これがいいね♪ これなら食事会に着ていっても大丈夫だね」

という母上のひとことで、このドレスでお披露目することに決定したのでありました。


左4c

なんだろう、しにたい


どうにか肩出しは避けられたものの、これ着てみんなの前に立つのかと考えるだけで、ため息と一緒に体内から何か邪悪なものを吐き出してしまいそうです。どんよりしながら「せめてスカートはできるだけコンパクトに…はい、パニエはなくてもいいです……それで撮影するスタジオはどこなんですか……」と確認すると、桂子師匠とサダカメくんが今まで見たことのない満面の笑みで

「撮影は外ですよー。みなさん、ここから歩いて表へ出て、海岸沿いで撮影されるんです。素敵なお写真撮れますよー♪」



え、ちょ、え


えええええーーーー!?((((;゚Д゚)))))))


外って言いました、ネエいま外って言いました? 外の海岸ってそれ…
人でいっぱいのド観光地なんですけど!!!


ああ神様、どうかどうか師匠のロマンチックを全力で止めてください………。

(失神寸前でつづく…)


Illustrated by カピバラ舎

*この記事はウェブマガジン「どうする?over40」で2015年に掲載した連載の内容を一部アレンジして再掲載したものです。

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