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「マックイーン モードの反逆児」

原題:McQueen
監督:イアン・ボノート
製作国:イギリス
製作年・上映時間:2018年 111min
キャスト:アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォード

 ハイブランドファッションに興味が無い人にも印象が残っているとすると、それはキャサリン妃のウエディングドレス或いはレディガガやボウイといったミュージシャンへの衣装提供だろう。
 1969年ロンドン労働者階級に生まれ、27歳ジバンシィのデザイナーに大抜擢される。イギリスとフランスは未だに仲良く手を握ることに積極的姿勢を見せないことが多いが、互いを高め合う為にやむを得ない場では目を瞑ることもある。だが、映像にもあるよう「イギリスの若造如きが」の空気の中で行う仕事(ファッションショー)は想像以上の過酷さであったことは十分に伝わる。

 紳士服専門店仕立てからスタートし、ロンドン芸術大学のカレッジ「セントラル・セント・マーチンズ(修士コース)」で学んでいる。天才を裏打ちする技術等も手に入れた上でのデザイン。自身の中に描く「抽象」をぶれずに「具象化」できる才能を得ている姿を単に「天才」という言葉一つに収めたくない。

 ファッションショーを観ているのではないことに映画途中から気付く。

 「布を彫刻する」、大理石とは対照的な柔らかく二次元材質で彼は立体を構築し、映画を撮るようにデザインした服を構成し自己表現舞台を制作していく。一枚の絵画の代わりが服一枚。彫刻一体の代わりが服一枚。
 ミケランジェロが神業よろしく大理石に血を通わすように、マックイーンも描いた線を生み出すにあたり補助線、下書きも不要で布にハサミを入れていく。

 ショーの終わりにモデルに手を引かれ照れ隠しにおどける彼の姿が好きだ。ふっくらとしている姿から生まれるエッジが効いた世界のギャップ。

 人生80年から100年と言われ始めたこの時代からみると、彼が40歳で閉じた人生は短く映る。けれども、おそらく、この映画を観た多くの人、彼の生き様を知っている人は「短い人生」とは言わないかもしれない。少なくとも、私は疾走し結晶前に昇華するようなマックイーンの40年は「彼の(生命の)長さ」と、悲しいけれども受け止める。
 大好きな作家の死を知り新作が読めない悲しさと同様の喪失感は消しようがない。
 ただ、ただ、切ない映画だった。
 ★★★★

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