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「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」

原題:Anthropoid 
監督:ショーン・エリス
制作国:チェコ・イギリス・フランス
製作年・上映時間:2016年 120min
キャスト:キリアン・マーフィー、ジェイミー・ドーナン、アンナ・ガイスレロバー、マリー・ゴバルニコバー、トビー・ジョーンズ

 重厚な映画が邦題の陳腐さで2時間ドラマのような暗殺ものと誤解されそうだ。(*日本用ポスターも同様に酷い。)この暗殺はこれまでも何度か映画化がされている。邦題は『コードネーム「エンスラポイド(類人猿)作戦」』で十分ではなかったか。

 第2次世界大戦下、ナチスの実力者ラインハルト・ハイドリヒはヒトラー、ヒムラーに次ぐナンバー3と呼ばれ、その冷酷、残忍さから「金髪の野獣」とも呼ばれていた。別名は多く「プラハの屠殺人」、トーマス・マンには「ヒトラーの絞首人」と名指しされた。上層部で暗殺が成功したのは彼だけだ。
 「エンスラポイド作戦」は、当時ナチス・ドイツの保護領だったベーメン・メーレン(現在チェコ共和国)を統治するハイドリヒの暗殺作戦をいう。
 上記写真の経路でプラハ郊外の住居から車で執務室(プラハ城)に通うハイドリヒをガプチークとクビシュが朝10時半頃、通りで待ち伏せし暗殺。

 計画ではピストル射殺の筈が不発に終わり暗殺は未遂になりかけるところだったが別に用意された爆弾によりハイドリヒは負傷。この時の傷が原因で運ばれた病院で死亡しているが身内にも敵が多かった為、この傷が致命傷だったのかは疑問が残されている。

 映画はこの1942年5月27日暗殺までへの過程と同じ比重で想像を遥かに凌駕するナチの血の報復を後半に描く。この報復の中には何も関係がない一般市民1万3千人の殺害も含まれる。有名な事件としてリディツェ(Lidice)とレジャーキ(Ležáky)の村の完全な破壊がある。

 当時、ベーメン地方はドイツ軍戦車の1/3、軽機関銃40%を生産する重要な軍需産業地だった。ハイドリヒにベーメン・メーレン保護領統治を成功され軍需生産を活性化されることは、大英帝国はじめ連合国にとって極めて危険なことであった為、ハイドリヒの暗殺が計画される。

 大英帝国政府とチェコスロバキア亡命政府は特殊作戦執行部で訓練し選抜した7人のチェコ人部隊をパラシュートでチェコ内に降下させた(1941年12月28日)。日本の特攻隊と同じで生還の可能性が極めて低い為に7人は独身者から択ばれている。

 暗殺実行者はレジスタンスの二つの家庭で匿われる。匿った家庭のその後の悲劇はこれが映画という作り物であっても観ていることが辛かった。
 ナチの報復が始まってからは裏切り者カレル・チェルダから密告される。彼らは最終隠れていた教会を700人のナチに囲まれ僅か7人で数時間持ち堪えるが最後は地下に放水され退路を絶たれ自決を択ぶ。

 映画終盤でキリアン・マーフィーがこの窓を見上げるシーンがある。故国の為に戦い、希望を何処に見出し最後に窓から射す光を見たのか。彼の瞳と共に印象に残る。

 この写真ではあの臨場感はカケラも伝わらない。階上御堂で戦っていた仲間三人を心配するも銃撃の音が途絶えたことで結果は解る。追い詰められても、それでも絶望の中祖国の未来を願っていたのだろう。

 ヨーロッパから遠い日本の私達が知らない第二次世界大戦ヨーロッパ諸国の事実が多く有る。現在もこうして放水されたあの場所に花が手向けられ風化はしていない。
 映画は匿ったモラヴェック家をはじめ事実に基づいて描かれている。若干恋愛が入っていると云えばそうだがスプーン一杯程度か。ハイドリヒの暗殺と報復がテーマで重い映画であることは確かであるが、アウシュビッツだけではなく戦争で犠牲になった人々の事を知って欲しい。
 *密告者カレル・チェルダはドイツの偽名とドイツ人妻を得たが1947年ナチス協力の罪で処刑されている
★★★★☆

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