見出し画像

「プライベート・ウォー」

原題:A Private War
監督:ジョン・ハーツフェルド
製作国:イギリス・アメリカ
製作年・上映時間:2019年公開 110min 
キャスト:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ

 これまでニュースで上がってきた激しい内戦、戦地へ赴き取材を敢行していた実在女性記者メリー・コルビンを描いた作品。

画像1

 「press」の言葉を身に付けたところでそれが然程効力など無くお守り程度だと認識の上でPTSDになった後も尚危険な地域で彼女は取材を続けた。
 世界的な流れで喫煙は減少方向、その影響を受け最近映画の中でも昔ほどは喫煙シーンは撮られることが少なくなっているが、この作品ではタバコと強いアルコールは常にカンフル剤或いは精神安定剤代わりに記者らの手に登場する。尋常ではない世界で、死が間近にある世界で平常心を保つ為にそれらが必要なことは否定できない。

画像2

 軍に守られた所では、目的の取材は不可能と、彼女は単独行動を択ぶ。

画像3

 時には賭けのような嘘で検問を抜けようとする時、死は検問のこちら側にも向こう側にも同等にあることを知っているからこそ検問突破をチャレンジしたのか、と勝手に想像する。

画像4

 通訳とカメラマン、そして、これまでの取材活動で出会った人々だけが彼女を守る全て。彼らは彼女が見ている風景の共有者でもある。

画像5

 壁一枚でその身が守られているのではないことは承知であっても誰一人記者はそのことに触れることはない。報道線が守られるも切られるも「運」だけしか頼るものが無い世界が、作品の9割程度描かれていく。
 イランやイラクの位置を正確に示すことが出来る人も少ない中、中東の争いは特に民族抗争も絡み、興味がない人らにはこの地での紛争問題を理解することは難しいだろう。
 作品では年ごとの区切りを入れることでその混乱が起きないよう配慮がされていた。
 2001年、スリランカ:ジャーナリスト入国禁止を無視しバンニ地域に乗り込んだ彼女はシンハラ軍とタミル・イーラムとの銃撃戦に巻き込まれて被弾。その際、左目の視力を失う。
 2003年、イラク:その2年前にサダム・フセイン政権によって殺害された多くの一般クウェート人の遺体捜索に立ち会う。
 2011年、リビア:「アラブの春」の中、カダフィ大佐の単独インタビューに成功。
 2012年、シリア:過酷な状況で包囲されている28,000人の市民の現状を伝えるため、カメラマンポールと共に、ホムス地区に乗り込む。

画像6

 基本的に彼女はスクープに走るのではなく、戦争に巻き込まれた市井の声を一つでも多く拾い発信することにジャーナリストとしての命を懸けていた。政治家の采配一つで起こる戦争の犠牲者らの悲しみ、苦しみを平和の地で他人事のように日常を送っている人々へ伝えることがつまるところは平和に繋がると信じていたのだろうと推察する。

画像7

 *メリー・コルビン記者

 信念というよりも、志に忠実だった方。命あって報道後に帰還することが本望であると承知でも、戦争犠牲者の代弁者であり続けた方。

 「ゴーン・ガール」の印象が強すぎて中々予告の尺ではロザムンド・パイクがある意味骨太記者のメリー・コルビン女史に結びつかなかった。
 全編化粧とは無縁の世界を半端ない役者魂で演技する。
 ジェイミー・ドーナン、最初は全く気が付くことが出来なかった。蓄えた髭だけで醸す雰囲気が随分違っていたのだ。
 作品全体は、CGや音響、音楽で煽ることなく実にリアルで忠実な絵だった。観るべきところへ視線がいくように計算されてのことだろう。制作スタッフにシャーリーズ・セロンが入っていることを観終えてから知る。

画像8

 この写真をあげることを悩んだ。しかし、おそらく彼女の許可は得て写真公開されていたからこそ作品中でも再現されたと考えられる。ご自身の傷ついた躰を晒すことも又記者魂だったのか。
★★★★

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?