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「エターナルメモリー」

原題:La memoria infinita
監督:マイテ・アルベルディ
製作国:チリ
製作年・上映時間:2023年 85min
キャスト:アウグスト・ゴンゴラ、パウリナ・ウルティア

 「著名なジャーナリストである夫、アウグスト・ゴンゴラと、国民的女優でありチリで最初の文化大臣となった妻、パウリナ・ウルティア。20年以上に渡って深い愛情で結ばれたふたりは、自然に囲まれた古い家をリフォームして暮らし、読書や散歩を楽しみ、日々を丁寧に生きている。そんな中アウグストがアルツハイマーを患い、少しずつ記憶を失い、最愛の妻パウリナとの思い出さえも消えはじめる。本作は、アルツハイマーを患った夫アウグストと、困難に直面しながらも彼との生活を慈しみ彼を支える妻パウリナの、ささやかな幸せにあふれる丁寧な暮らしと、ふたりの愛と癒しに満ちた日々を記録した感動のドキュメンタリーであり、真実のラブストーリーだ。
『83歳のやさしいスパイ』(2020)でチリの女性として初めてアカデミー賞にノミネートされたマイテ・アルベルディが監督を手がけ、本作で自身二度目となるノミネートをはたす快挙を成し遂げた。」*公式ホームページより

主役のおふたり

 最近の上映作品としては85分と若干時間は短いのだが、観終わってみると時間を超えておふたりの世界に入っていたことに気が付くほど上映時間と作品内容が良い意味で合っていない。
 そもそもドキュメンタリー作品として席についた筈。しかし、スクリーンで展開する世界はアルツハイマーを扱う非常に重い作品ながら、静かな上質の愛のドラマを観ているようだった。

 ジャーナリストとして政治と戦っているアーカイブを作中挟み、また、自宅にて自身の著作に囲まれている姿がアルツハイマーという病が無情にもそれらを消していく対比として有効で説明調ではない作品を保っている。
 彼が自身の罹患した病名を知った時、全ての光を失ったように奈落に落ちていく非情さは社会と勇敢に戦っても病との戦いには成す術がなさそうに映るのは観ていても辛い。
 でも、不思議とおふたりはこの病に果敢に望み、陳腐な表現ではあるけれども愛が彼らを支え、少なくとも病と並走しているようだった。敗走者には見えなかった。

病の進行

 脳変性は回復に向かう病ではない。リハビリ等によって少しは効果が見えても確実に進行していく日々は、当然85分間に入り切れる世界ではない。
 あなたは今日朝からずっと私を分からなかったの、とパウリナが言う。やっと、やっと夕暮れも近くなってアウグストが認識してくれた時、彼女の愛ある忍耐が報われ、同時に彼へ温かな愛が再び注がれふたりの単位に戻る様子は印象深い。私には真似出来そうにない深い愛と絆。
 この病によって記憶が少しずつ遠いのいく日々であってもふたりの関係が揺るがないことに少なくとも私は救われた。

 無限の記憶。
 記憶が消えていくことに怯えなくてはいけないのでしょうか。
 言葉としては伝えられなくなっても心の深い所に全ては収まっているように私は考えてしまう。記憶は消えない、ただ、語ることが出来なくなっただけ、と。
 それでも、例えば記憶を一本のリボンと見立てた時、互いにリボンの端を持って歩いていた筈なのにある日を境にリボンのもう片方が相手の手から離れることが多くなっても、それは記憶が相手から消えた訳ではない。
 もう片方の手を離さない限り、記憶は存在し続けると私は信じたい。

 もう一度観たい作品。
★★★★☆


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