今思えば、夢のような季節だった。

私はそいつと出会ったのは春だった。

今まで過ぎ去ったことを思い出さないようにと生きていた。
その私がこんな風に誰かを思い出すことなんて絶対にないと思っていた。
人生に絶対にないなんてないんだなと実感させられて、苦い気持ちになった。
しかも、その実感を渡してきたのがあいつってことが更に気持ちを苦くした。

期間限定。

その言葉がぴったりの関係だった。

勿論、その時は永遠に続くものだと思っていた。
私の行きつけのたこ焼き屋さんが私の子供の行きつけのたこ焼き屋さんになると信じて疑わないくらいには永遠だと思っていた。

「なんであのたこ焼き屋さん辞めちゃったんだろう。美味しくて繁盛してたように思えたのに。」

と同じ要領で私たちが離れたときに周りに言われていたなと、また振り返って思い出す。

特別感のない私たちの期間限定は突然訪れたにしては、私の飲み込みは速かった。
本当にあいつを見れていたのかと聞かれたら今は疑問ばかりが残るようなくらい。
その証拠に私はあいつと離れ離れになった翌日に告白してきたクラスメイトとあいつとしなかったことをした。

ただ、でも、やっぱりその春はあいつのことが一生懸命に好きだったと断言できる。
握ってくれた手を離さないように必死に生きたはずだった。

恋人ではなかった。
面白いから一緒にいた。
好きだから一緒にいた。
好かれてたから一緒にいた。
それだけだった。

何かあいつを縛っておくような口約束は無粋なものだとすら感じていた。

私は自由なあいつが好きだった。
あいつの邪魔にはなりたくなかったし、足を引っ張ることもしたくなかった。

今まで思い出したくもない過去をこんなにも鮮明にしまっていたことに自分でも驚く。

記憶力こんなに良かったっけなんて何気なしに1人でつぶやいた瞬間に思い出したのはあいつの背中。

でも、こんなに鮮明にいきなり遠いどこかの国に旅立つあいつの背中だけは思い出したくなかったと、頬に伝う涙を抑えきれなかった。




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