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車が臭かった話

車が臭かった話。
あれは3回目の異動の時。真夏の、お盆の直前の時期のことだった。 支店長が家族で沖縄へ皆既日食を見に行っていたその水曜日の夕方。本来辞令は金曜日に発令するものだが、私が翌日から長期休暇で不在の為、前もって副支店長から告げられた。
「異動だ。場所は金曜日発表。8時30分に支店に電話しろ」 地獄から抜け出せる。 経緯はともあれ、その日は妻とちょっといい焼肉を食べに行った。次の日ロングドライブだったが、全く問題なかった。

金曜日、和歌山の宿から支店に電話をかけた。副支店長「千葉の〇〇支店。引き継ぎ日程は休暇明けから先に向こうの店に行ってもらう。電話番号は…」 電話番号を教えられるというのは、言外に支店長・課長に挨拶をしておけ、と示唆されているということだ。副支店長は気が回る。

すぐに挨拶の電話をしたが、あちらの支店も大きな異動だったようで、支店長も課長も繋がらない。女性支店長代理が「電話があったことを伝えておきますね」と言ってくれた。優しい。 昼頃ようやく電話が繋がった。課長「頼むぜ」支店長「期待してるから」。今でも思い出せる。気分が高揚した。

休暇明け、新任の店に出社した。歓迎ムード。地獄とは全く違う。支店が違うだけでここまで、ここまで違うものか。しかも、支店長と過去在籍した店が被っており、同じお客様を担当した経験があるという奇跡。着任時の面談も話が弾み「あの先を担当してたんだから、ここでもやっていけるよ」と言われた。
さらに、融資総括もまた、融資部の審査役として、前任店の審査を担当していた。ここでも「あの先を担当してたなら、あれもこれも分かるよな。よろしくね」という具合だった。 禍福は糾える縄の如し。 俺はやっていける。 そう思って前任者と引き継ぎに向かった。

前任者は一周り上の先輩で、変身できない左江内氏のような人だった。うだるように暑い日、ちょっと離れた駐車場まで歩いていった。『この車です』と左江内氏が乗り込んで助手席の鍵を開ける。 「よろしくお願いします」と私が乗り込んだ。 その時。
「ッッ!?」 え?何だ…? 呼吸を試みる…が、できない。 「暑いですね…」と言って窓を開ける。 顔を出して深呼吸。 1、2の3で車に戻る。 くさい。信じられないほど。学生の頃に嗅いだアンモニア臭というのか、刺激臭。 『クーラー最大でいきますね』左江内氏は笑っている。
…気づかないのか?この臭い……「窓閉めますね」ハンドルを回す。 地獄のような引き継ぎになった。

引き継ぎが終わり、正式に着任した日、私はまずニトリへ向かった。エアコンの送風口につけるファブリーズを2つ。銀イオンの置く用消臭剤を2つ。ニオイの原因はシートだと気づいた。クッションと車降りる時にアホみたいに消臭剤をかけた。
当時は車が担当者の人数分無かったので、担当者の車はありながらも、空いている車を借りて使うのか常だった。着任して間もない時、女性の先輩が微妙な顔で「Sくん、車借りていい?」と言ってきた。分かる。分かるよその気持ち。勿論快諾した。
その日の夕方。 「左江内氏の車を使えるようにしたSはとんでもなくヤバい奴(いい意味で)」 そんな噂が立った。

引き継いだ車が臭かったお陰で絶好のスタートが切れた話(ノ∀`)アチャー

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