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「天才 勝新太郎」を読んで

「天才 勝新太郎」(春日太一著)を読んで超面白かったので、自分に刺さったエピソードをまとめます。

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鬼畜すぎるぞ、勝新太郎

この本を読めば分かるのですが、終始周囲が勝新太郎に振り回されまくります。その中でも一番鬼畜だなぁと思ったのがこの場面です。

映画「座頭市」の脚本が全然出来上がらず、脚本家の中村さんが苦労に苦労を重ねて脚本がやっとできた場面です。

徹夜で作業が進められ、「とりあえずの完成台本」は約束通りにお盆前に出来上がった。完成を伝えられ、もう真夜中で外は台風にもかかわらず、勝は六本木の事務所に現れた。「ようやった!」勝は中村を目いっぱいに抱きしめた。だが、その翌朝、中村が事務所を訪ねると、勝はその台本を中村の前に放り出した。「よくこんなの書いたな。恥ずかしくないのか?」松竹とスポンサーに脚本を送り終えると、中村は再び脚本直しの作業に入ることになった。
(春日 太一. 天才 勝新太郎 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2676-2681). Kindle 版. )

手のひら返しが半端ない(笑)絶対上司とかにしたくない。

しかも、こんなに脚本作成が遅れたのはもとはといえば、勝新太郎さんがアイデアをたくさん出しまくって脚本家さんをかき乱したからだという(笑)

当人としては溜まったもんじゃないと思いますが、傍から見たら面白すぎます。

公私混同すぎるぞ、勝新太郎

上記エピソードでやっと脚本ができた座頭市ですが、苦難は続きます。

脚本の遅延のせいで、いつも使っていた京都のスタジオが使えず、またスタッフもいつも現場をともにしたスタッフ を集めることができませんでした。

そんな苦しい環境の中、ラストシーンの撮影に入ったときのエピソードです。

ラストシーンは緒形拳さん演じる浪人と勝新太郎さん演じる座頭市との決闘になる予定でした。

「緒形のことが好きになっちゃったんだ。だから、もう斬れない」「そんな……」緒形と芝居を続けているうちに、勝は情が移ってしまった。だから、座頭市は緒形を斬れない。
(春日 太一. 天才 勝新太郎 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2741-2743). Kindle 版. )

不慣れなスタジオ・不慣れなスタッフ・これまでにかけた莫大な予算と時間、そんな逆境の中やっとたどり着いたラストシーンの撮影で、自分がこの役者のことが個人的に好きだから映画の中でも斬れないって公私混同すぎるだろう(笑)

実際のところ、勝新太郎さんは公私混同というレベルを超えて座頭市と完全に一体化していたそうです。

座頭市の扮装をした勝監督が、カメラの後ろから役者たちの芝居をチェックしていた。と、突然、あることに気づいて叫び出す。「おい!座頭市はどこだ!座頭市がいないぞ!」勝の言葉に一同、啞然とする。その様子に、勝は思わずガラスに映った自分を見て、初めて我に返る。「あ……座頭市はオレか」
(春日 太一. 天才 勝新太郎 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1908-1912). Kindle 版.)

ここまで一体化されると、「公私混同だよ」と怒る気持ちもなくなりますね。

(番外編)カツカレーと勝新太郎

「天才 勝新太郎」ではなくて「鬼才 五社英雄の生涯 (春日太一著)」のエピソードなんですが、これも勝新太郎さん関連で面白かったので紹介します。
ちなみに、五社英雄さんは「極道の妻たち」「吉原炎上」などを監督した映画監督です。勝新太郎さん主演の「人斬り」という映画の監督もされています。

勝新太郎さんの名作「座頭市」はもともと五社英雄さんが監督する予定でした、そして、その話し合いが松竹前の東劇ビルのレストラン「エスカルゴ」で行われました。
そこで起きたのがカツカレー事件です。

その時、全員でカレーライスを注文することになった。
オレ『勝』だからカツカレー」そんな勝のジョークに全員が続いたのだ。最初は、そうした和気藹々とした雰囲気だった。カレーが運ばれてきて、五社がカレーをかき混ぜ始めたところで、場の空気が一変する。勝が「食べ方が違う」と言ってきたのだ。この一言に、五社の表情が強張る。五社はスプーンを置いて少し間をおいてから話し始めた。「勝さんね、五社英雄としてこの作品をやらしてもらいたいということで、頭を低くする。座頭市についてはあなたが名取みたいなもんだ。座頭市について頭ごなしに物を言うのは許す。だけどカレーライスの食い方についてガタガタ言うな」勝はこれを、ジョークで受け流した。「とはいえな、カレーライスだったらオレは何も言わないけど、『カツ』カレーはオレが名取だ。だから食い方ってのがあるんだ」これが五社の逆鱗に触れた。五社はテーブルをひっくり返すと「この話、もうやめよう!」と叫び、立ちあがってしまう。「なんだよ、お前、短気だなあ」
(春日太一. 鬼才 五社英雄の生涯 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2394-2404). Kindle 版.)

その背景には、勝新太郎さんが演出面でも力をつけ始め、それを五社英雄さんが脅威に思っていたこととかいろいろ原因はあると思うのだが。
やはり、大の大人がカツカレーの食べ方で喧嘩をしているのを想像すると笑えてきます。
しかし、このカツカレー事件のせいで、五社英雄が座頭市を監督する機会がなくなってしまったと思うともったいない気もします。

以上です。お読みいただきありがとうございます。

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