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『天使の翼』第10章(35)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ちなみに、わたしなどは、厭な事、心にかかることがある時は、とことんその事を考え、分析・整理してしまう……放置せずに、執拗に考える事によって、不安や不快に思う気持ちが、馴れて小さくなるように思われるのだ……
 桟橋の手前でエアカーを降り、副官の先導で長官の後についていったわたしとシャルルは、その桟橋には傾斜が付いていて、このままその斜度が続けば、桟橋は徐々に湖の中に潜っていく、という事に気付いた。妙な桟橋ではある。しかも、なお不思議なことに、この桟橋には一切の照明設備がない……
 うっ?わたしは、月明かりの中に、一つ、二つ、三つ……五つ、丸っこい大きな塊が、桟橋の上にうずくまっているかのように見えるのに気付いた。
 湖の方から、さざ波と伴に風が吹き寄せてくる……その風には、麝香のような、動物性の香りが乗っている……
 先を行く副官が、肩ほどの高さもある大きな塊を、ポンポンとたたいていく。
 「ゴロゴロ、ゴロゴロ」
 と、わたしには聞こえたような気がした。
 その塊から五、六歩の所まで行ったわたしは、ようやく、夜目にも、その塊の表面が、濃い緑色のようなぬめりを帯びていることが分かった……そして……月明かりの反射の加減か……何か赤く光るこぶしほどの丸い――
 「ギャッ!」
 わたしは、思わず赤面したくなるような野太い悲鳴、全くの不意打ちの野生的な(?)悲鳴をあげ、シャルルにガバとばかりしがみついた。

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