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8月4日(日)柳家さん喬 蔵出しの会 牡丹燈籠〜通し〜(かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール)

 三遊亭圓朝『怪談牡丹燈籠』は「怪談」とは言うものの「怪談」と呼べるのは「お露・新三郎」のみであり、その大半の部分は仇討ちや愛、裏切りなどの物語が描かれている。

【仇討ち】
 若い侍が刀屋で刀を見ていると、何やら外が騒がしい。供の者が酔っ払いに粗相をして絡まれていた。若侍が代わりに詫びるが、酔っ払いは怒り、若侍に唾を吐きかける。この無礼に怒った侍は酔っ払いを斬ってしまう。この酔っ払い、黒川孝蔵には息子がいた。黒川孝助。孝助は父の仇を討つ事を心に決める。若侍の名は飯島平太郎。のちの飯島平左衛門である。後に孝助が仇と知らずに飯島家の奉公人になるのは皮肉である。

【愛】
  お幇間(たいこ)医者・山本志丈の紹介でひと目で恋に落ちた萩原新三郎とお露。今と違って、気軽には逢えないふたり。やがてお露は恋煩いで生命を落とす。幽霊になっても新三郎が恋しいお露は同じように亡くなった女中のお米(よね)に牡丹燈籠を提げさせ、駒下駄をカランコロンいわせながら夜毎彼のもとに通う。

【裏切り】
[お國と宮邊源次郎の場合]
 飯島平左衛門の妾でありながら隣家の宮邊源次郎と通じていたお國は主人を亡き者にし、ふたりで飯島家を乗っ取ろうと画策する。それを察知した黒川孝助が邪魔になり、彼を殺そうとしたり、百両を盗んだ犯人に仕立て上げようとする。

[伴蔵・お峰の場合]
 お札のために新三郎のもとに通えなくなったお露は伴蔵にお札をはがすよう頼む。妻のお峰に唆され、その代償として幽霊に百両を要求する。金をせしめた夫婦は、新三郎に行水させながら身につけていた開運如来の仏像を盗み、お札をはがす。これで新三郎の部屋に入ったふたりの幽霊は彼に「存分にお恨み申し上げる」。 

 新三郎の死後、栗橋へ逃げた伴蔵・お峰。幽霊からせしめた金で荒物屋『関口屋』を開く。皮肉にも店は繁盛する。男はカネができるとオンナもできる。伴蔵は行きつけの料理屋『笹屋』の女中・お國(どこかで聞いた名前!)と懇ろになる。それを知ったお峰は伴蔵を問い詰め、「萩原新三郎の一件をバラす」と脅す。その場はなだめた伴蔵は後日、幸手の土手でお峰を殺す。

 愛、仇討ち、裏切りの協奏曲を柳家さん喬が丁寧に奏でる。通奏低音は「出逢い」だ。意外なところで意外な人が出逢い、物語をダイナミックに推進してゆく。結局出逢わなければ何事も前に進まないのだ。
 この長い物語を柳家さん喬は最後まで客を噺に惹きつけ、物語の高みへと誘った。
 
 

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