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NHK 実践!英語でしゃべらナイト グローバルイングリッシュ12の心得-8「相槌(あいづち)の達人を目指せ!」

相槌は会話の潤滑油

 以前、NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話」の講師をしていたときのことです(2003年4~9月放送)。同番組の最終回で視聴者代表10人をスタジオに招き、「ビジネスで英語を使うために、ここが知りたい」というアンケートをおこないました。そのときに多く寄せられたのが、「上手な相槌の打ち方を知りたい」という要望でした。
 代表的な声をいくつか紹介しましょう。
(1)I see.とかUh–huh.と相槌を打っていたら、相手はどんどん話し続けてしまって、途中で分からなくなってしまった。
(2)Uh–huh.だけではワンパターンで、相槌の効果がなくなってしまう感じがした。
(3)以前、外国人と話したときにUh–huh.という相槌を打ったところ、相手はきょとんとして、怪訝(けげん)な表情をしていた。正しい相槌の打ち方とは?
(4)交渉事の席で相槌を打っていたら、相手の条件をすべてのんで合意したように思われてしまった。

 皆さんも、思い当たるところがあるのではないでしょうか。
 「相槌を打つ」行為は、相手の発言を受け止めたことを示します。相槌によって話し手は聞き手の反応を確認することができるわけですから、相槌はまさに会話の潤滑油です。ただし、潤滑油も使い方が肝心なのです。


相槌はアクセルにもブレーキにもなる

 まず、相槌はアクセルにもブレーキにもなる、と覚えておきましょう。
 例えば、上記の(1)のように、I see.とかUh–huh.という相槌を打てば、聞き手は理解しているというサインを話し手に送っていることになりますから、相手はどんどん話を続けます。特に相手が英語のネイティブスピーカーの場合は、相槌が彼らの話すスピードのアクセルを踏むことになって、日本人はついていけなくなってしまうことがあります。
 相手の話にブレーキをかけたいときは、Just a second./Wait a minute. (少し待ってください)などと言って、いったん相手の話を止めましょう。5月号の《心得2・Active Listening!》も参照してください。
 あるいは、Uh–huh.と相槌を打つ代わりに、何かを言いたげな表情で、相手の目を見ながらUmm ....と言うだけでも相手は話すのを止めてくれます。相手の話をいったん止めたら、次のように確認や質問をするとよいでしょう。
 So, you are saying .... (つまり、あなたが言いたいのは……)


相槌のバリエーションを増やせ!

 先に紹介した相槌に関する悩みの(2)~(4)は、日本人が陥りやすいある共通の課題を示していました。それは、「ワンパターンの相槌になりやすい」ことです。
 ワンパターンの相槌では、効果は逓減してしまいます。また、(3)のように状況に即した相槌が打てないと、相手はあなたが本当に理解しているのかどうか分からず、不安になるでしょう。
 あるネイティブスピーカーが、ドキッとするような、核心をついた意見を言っていましたので紹介します。
 「適当に相槌を打っている日本人には、時々質問をしてみるとその人の理解レベルが分かる。こちらがyes/noで質問しているのにUh–huh.と相槌を打つのは、理解していない証拠!」
 そして、(4)のような事態に陥らないように、どこまで合意
しているのかについて誤解のないようにするためには、「必ずしも合意をしない場合の相槌」あるいは「合意を保留するときの相槌」を知っておくことが必要です。
 いずれにしても、ワンパターンにならないためにはバリエーションを増やせばいいのですが、闇雲に覚えても効果はありません。そこでまず、相槌の機能を2つに分けて考えてみましょう。

共感系の相槌/同意系の相槌

 次のページから、それぞれの相槌のバリエーションと実践の秘訣を紹介します。その前に、もう一点、相槌を使いこなすうえで重要なポイントを挙げておきます。


非言語に要注意!

 「メラビアンの法則」という指標を聞いたことがありますか。発言内容とボディーランゲージなどの非言語(ノンバーバル)で表す内容との間に齟齬(そ ご)があったときに、相手はどの要素を判断基準にするか、という調査をしたところ、結果は言語が7%、声のトーンが38%、ボディーランゲージが55%。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンによって1971年に紹介された研究成果です。
 これは、コミュニケーションをとる際には、ことばそのものだけではなく、声のトーン、表情などの非言語の要素が極めて重要であることを示しています。特に相槌は短いことばですから、余計にこうした非言語の要素が果たす役割が大きくなります。
 例えば、相手の話を聞くときに腕組みをしていると、「クローズド・ポジション」となり、相手を受け入れていないと思われてしまいます。姿勢は声のトーンにも影響します。腕組みした状態ではリラックスした声は出せません。そんな姿勢では、共感を醸成することは難しいでしょう。
 相槌を打つときはことばだけでなく、非言語の要素を含めた、体も使いながらの方法をマスターしましょう。


グローバルイングリッシュの秘訣29 ポジティブな共感とマイナス情報への共感のメリハリ

 まず、相槌の効果で最も重要な「共感づくり」の秘訣を紹介しましょう。共感づくりは、マネジメントの分野では「ラポール・ビルディング(rapport building)*」ということばでも表現されるように、円滑なコミュニケーションには欠かせないものです。
 共感づくりの秘訣は、ポジティブな共感を示すのか、それともマイナス(ネガティブ)な情報への共感を示すのか、メリハリをつけた感情表現をすることです。

 例えば、相手が以下のように言ったとします。
Guess what?! My son received an award at school!
(聞いて?! 息子が学校で表彰された!)
I became a grandfather! My daughter had a baby girl this weekend!
(おじいちゃんになったんだ! 週末、娘に女の子が生まれてね!)

 このようなポジティブな情報ならば、Congratulations! (おめでとう!)と祝福するのは当然ですが、相槌を打つならば、以下のようなポジティブなものが使えます。これらは、元気で明るい声のトーンを伴うことがコツです。
Wow! (おおっ!)
Good! (よかった!)
Great! (すごい!)
Super! (最高!)
Terrific! (すばらしい!)

 一方、次のようなマイナス情報の場合はどうでしょう。
My mom is really sick. (母の具合がとても悪くて)
I have a bad headache. (頭痛がかなりひどくて)

 こんなときは、次のような相槌で共感を示すことが求められます。相手の気持ちに注意を払って、おのずと静かな声のトーンにするべきでしょう。
Oh, no. (おやまあ)
That’s too bad. (お気の毒に)
I’m sorry to hear that. (それは心配ですね)

 これらは日本語でも、人と人のコミュニケーションの基本として当たり前のことですが、なぜか英語になるとその基本ができなくなってしまうことがあるようです。

 以前、アメリカに進出した日本企業でインタビューをおこなったところ、「日本人の上司は無愛想だ」という発言がアメリカ人社員の間で聞かれました。話を聞いてみると、先に紹介したようなgood newsを日本人の上司に話したときに、無表情でUh–huh.と言われたとのことでした。これでは無愛想と言われてもしかたがないでしょう。同様の話は他社でも何度か聞きました。
 こうしたことが起こるのは、英語を意識し過ぎるあまり、単語を返すことだけに意識が偏ってしまっていて、コミュニケーションになっていないからです。共感とは文字どおり、「感情を共にする」ものですから、相手の感情を理解したうえで、こちらもその気持ちを表すことが求められます。

 まずは、ポジティブな共感なのか、マイナス情報への共感なのか、メリハリをつけた相槌を練習してみましょう。


*ラポール(rapport)はフランス語で「橋をかける」の意。


グローバルイングリッシュの秘訣30 ニュートラルな相槌を使いこなす

 ポジティブな情報なのか、マイナス情報なのかが分からないときには、ニュートラルな相槌を打ちます。
 I see.やUh–huh.以外にも、次のようなものがあります。

Really? (本当?)
Is that right? (そうなんだ?)

 また、ポジティブな相槌として使われることが多い次の表現も、声のトーンをやや弱くすることによって、ニュートラルな相槌として使うことができます。

All right. (了解)
Right. (そうだね)
O.K. (オーケー)

 ニュートラルな相槌は使う頻度も高く、またその応用範囲も広くなります。そこで、これらを使いこなすためには、声のトーンに加えて、「ペーシング」が重要なコツです。
 ペーシングとは、話すスピードを相手に合わせるという意味で、カウンセラーやコーチのテクニックとしても知られています。例えば、プロのコーチは「なるほど」という相槌を20通りは使い分けられる、という話を聞いたことがあります。まあ、20は無理でも、早口で「なるほどっ」とテンポよく打つ相槌と、ゆっくり「な・る・ほ・ど」としっかり打つ相槌を使い分ければ、誰でも違うニュアンスを出すことができるでしょう。
 英語の相槌でも同様です。相手の会話のテンポに応じて、軽妙にIs that right?と言えば会話が弾みますし、一語一語かみしめるようにIs that right?と言えば、慎重に確認をとっていることが相手に伝わります。
 このように、声のトーンとペーシングによって、相槌のバリエーションをさらに増やすことができるのです。

 ニュートラルな相槌を打ったあとで、自分の見方を調整することも応用の1つとして知っておくと便利です。例えば相手が、次のように言ったとします。

The new CEO only lasted four weeks at that company!
(新しいCEOはあの会社に4週間しかいなかったんだ!)

 この発言に対し、まずはReally?と受けておいて、
That’s amazing. (びっくりだね)と驚きを示すこともできます。
 あるいは、同じくReally?と言ったあとに、次のように別の見方を示すこともできます。

Well, actually, four weeks is not that short by today’s standards.
(まあ、今の基準では4週間は短すぎることはないからね)

 コミュニケーションはキャッチボールです。そして相槌は、相手のボールをしっかり受け取るための動作です。
 効果的な相槌によって相手のボールをしっかり受け取れば、その分、ボールを投げ返すまでの間に、こちらに余裕が生まれ、さらに次のコミュニケーションにつなげることもできるのです。


グローバルイングリッシュの秘訣31 同意のレベルに応じて使い分ける

 先に述べたように、相槌には、共感づくりのほかに同意の意思を伝える役割があります。

 例えば、ビジネスの場面では、
Would you like to join us for lunch?
(お昼、われわれと一緒に行きませんか?)
という誘いから、

Do you agree with us on these terms and conditions?
(この条件についてわれわれに同意していただけますか?)
という契約を巡る話まで、相手からさまざまに同意を求められる場面があります。

 相手に全面的に同意する場合は、次のような表現を使います。
Yes. (はい)
Sure. (もちろんです)
Of course. (もちろんです)
Certainly. (もちろんです)

 さらにこちらから強く同意を示すには次のように言います。
Exactly. (そのとおりです)
Absolutely. (もちろんです)

 また、Would you like to join us for lunch?という誘いの場合は、《秘訣1》の「ポジティブな共感」で紹介したGood!/Great!/Terrific!などを使うこともできます。
 いずれにしても、全面的な同意なので、使う場合は積極的な声のトーンで元気よく言うのが基本です。

 一方、全面的な同意とは言えないまでも、基本的には同意し、そのうえで内容について確認が必要な場合は、次のように言って、確認をしましょう。
Sounds good, but just let me clarify what you said.
(いいですね、おっしゃったことを確認させてください)
Looks good, but I would just like to clarify
a few of the points.
(いいですね、いくつか確認したい点があるのですが)

 もう少し慎重に内容を検討してから同意するか否かを伝えたい場合は、次のように言えばよいでしょう。
All right. Before finalizing our agreement,
let me clarify the contents.
(いいでしょう。同意の前に、内容について確認させてください)

 この場合のAll right.は、あとに続く文章から明らかなように、同意したという意味ではありません。ただし、All right.とだけ述べて、あとを続けなければ、同意したことになります。英語も脈絡によって、ことばの意味やニュアンスの強弱が異なるのです。

 相槌の表現は、個別に覚えるのではなく、会話の流れをどうつくっていくのかを考え、前後の言い回しも一緒に覚えておくといいでしょう。


グローバルイングリッシュの秘訣32 不同意を伝えるには段階を踏んで

 ビジネスでは、相手に同意し、合意を形成することが重要であることは言うまでもありません。これは他者と仕事を成し遂げるうえでの基本です。しかし、いつも同意する必要はありませんし、見解が異なることのほうがビジネスでは日常的なのではないでしょうか。
 そこで、同意しない場合の相槌のコツを3つ紹介します。
 1つ目は、全面否定をしない、という原則です。
No way! (ありえない!)
Wrong! (間違い!)
Absolutely not! (絶対だめ!)
That’s ridiculous! (そんなばかな!)
 これらは、おそらく皆さんも日常会話で聞いたことがあるでしょう。実際、インフォーマルな関係ではこうした表現がよく使われます。ただし、日本語でも考えてみてください。ビジネスにおいて、「マジッ?」「ありえない!」といった表現を使える状況は、ほとんどないのは明らかですね。
 10月号の《心得7・Dialogueを実践せよ!》で述べたように、こちら側がまだ知らない情報や未確認の事柄がある場合は、いきなり全面的な否定をしないのが作法です。
 2つ目は、相手の発言をまずは受け止めることです。例えば以下のような表現がよく使われます。
That could be true. (ありえますね)
I can see your point. (おっしゃる点は分かります)
That is one way to look at the issue.
(その問題に対する1つの見方ですね)
 これらのフレーズの前に、《秘訣2》で紹介したニュートラルな相槌や間投詞を使ってもいいでしょう。
Uh–huh, that could be true. (なるほど、ありえますね)
Well, that is one way to look at the issue.
(そうですね、その問題に対する1つの見方ですね)
 そして最後に「同意しない」ということを伝えるわけですが、そのときのポイントが3つ目のコツ、「表現の強弱」の加減です。交渉をする際には、明確に、
We can’t agree with you. (われわれはあなた方と同意できません)
と言うことも選択肢の1つですが、いきなりこう切り出すと対立関係を強化します。
 そこで、もう少しソフトに同意しないことを切り出す言い方にも慣れておきましょう。
 例えば、「相手を受け止める表現」に続けて、以下のように見解の相違を示すのもよいでしょう。
But I have a different viewpoint. (しかし私は別の見解です)
 また、相手を理解しようという意図を伝えながらも同意には至らない、次のような言い回しも有効です。
Wait a second. I’m having a hard time understanding what you are saying.
(少し待ってください。あなたのおっしゃる意味を理解するのに手間取っています)
 そして、同意できない場合はその理由も明確に伝えることが重要です。9月号の《心得6・Logicを研ぎ澄ませ!》で紹介したように、論拠をはっきり示す必要があるのです。
 ぜひ、さまざまな場面で相槌を使いこなし、円滑なコミュニケーションを実践してください。


グローバルイングリッシュの秘訣シリーズ全12回(元記事)



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