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NHK 実践!英語でしゃべらナイト グローバルイングリッシュ12の心得-9「考え抜け! Think it out!」

考え抜く力を鍛えるための心得

今回はクイズから始めましょう。

次の3つに共通する英単語を1つ選ぶと?
◦ソクラテス
◦パスカル
◦IBM

 2人の人名と1つの社名。国籍も時代も違いますが、共通する英単語があります。
 ソクラテスは言うまでもなくギリシャ哲学の始祖。本誌9月号《心得6・Logicを研ぎ澄ませ!》で触れたアリストテレスの師に当たります。「パスカルの原理」で有名なパスカルについては、彼の著作『パンセ』の一節、「人間は考える葦(あし)である」という名文句を聞いたことがあるでしょう。そしてIBMといえば、創業時代からのモットーが「Think」。パソコン事業を中国のレノボに売却したものの、同社のパソコンは「ThinkPad」のブランドで普及しています。
 ここまで来ると明らかでしょう。クイズの答えは「think」。そしてこれが今回のテーマです。


What do you think? にためらうな!

 私は20年前からコンサルタントとして、さまざまな企業の会議やプロジェクトに参加してきました。外資系企業が大半ですが、欧米との合弁や、諸外国との業務提携をおこなっている日本企業にも多く足を運んでいます。こうした企業の会議やプロジェクトチームの作業の中で、常々問題と感じていることがあります。それは、外国人からWhat do you think?と質問されたときの日本人の反応です。
 同席している日本人の顔を見ながら様子をうかがう人、書類に視線を落として調べているような「ふり」をしつつ、ほかの日本人が答えるのを待っている人、虚をつかれたようにポカーンとしている人(参考までに、この表情は英語ではblank faceと言います)などなど、すぐに自分の見解を話すことができる日本人があまりにも少ないのです。
 こうした反応に対して、外国人の多くはフラストレーションを感じています。もちろん、私も日本で教育を受け、日本企業に就職した人間ですので、日本人の言い分は嫌というほど分かります。
 「責任者でもないのに、『あなたはどう思う?』と言われても困るんですよ」
 「会議をしていたのに、いきなりブレーンストーミングみたいな感じになって、ついていけません」
 「相手が何を期待しているのか分からないので、うかつに答えられないのです」
 「周りが黙っているのに、私だけ変なことを言うわけにもいかないので……」
 こうした言い訳の声が後を絶ちません。

「自分の考え」を阻む原因

 では、なぜ日本人はこのように、「自分の考え」を述べることに戸惑ってしまうのでしょうか。私は、次の3つの原因があると見ています。
 まず、組織・制度的な問題です。日本の企業社会では、集団合議制を長い間重視してきました。例えば、稟議(りんぎ)書を回して意思決定の周知徹底をおこなうことには、何よりも関係者の参画意識と理解を促すというメリットがあります。ただし、デメリットは時間がかかってしまうこと。そして下手をすると、考えることを人任せにしてしまう依存心が進み、責任者不在ともいえる状態を作ってしまいます。その結果、What do you think?という質問に対して、先のような言い訳を生み出してしまうのです。これはグローバルビジネスにおける大きな課題の1つです。
 2番目は、教育の問題です。これには2つあります。1つは6月号の《心得3・まずは自分を語れ!》で紹介したように、日本人は「自分を語る」ことを大事にしてこなかった点。もう1つは、知識(knowing)を重視するあまり、思考(thinking)を軽視してきたことです。日本の教育では、歴史の年号を暗記することには熱心ですが、意味合いを多面的に考える訓練はあまりしてこなかったのです。
 3番目の問題は、われわれ自身が持つ「思考することを阻むブロック」です。日本人は、「こういうことを言ったら恥ずかしい」と遠慮したり、「相手は何を聞きたいのだろうか」と必要以上に慮(おもんぱか)ったりしがちです。
 このような問題が関連し合って、自分の考えを述べることを困難にしているのです。
 私は以前、『考えるプロが明かす「思考の生活習慣病」克服法』(講談社、2004年)という本で、思考停止が起こる原因には、自ら考えることをやめてしまう「思考放棄症」と、権威や集団任せにしてしまう「思考依存症」があると書きました。こうした症候群から抜け出し、思考を活性化する第一歩として、自分の思考習慣を点検してみることが大切です。

knowledge societyには“Think it out!”が必要

 今から40年前に、ピーター・ドラッカー*はknowledge societyを予見しています(「知識社会」と訳されていますが、ここで言う「知識」とは先に述べたknowingではなく、もっと広義の「知的付加価値」のことです)。「情報化社会」と言われたのは、1世代前。ITがこれだけ発達した現代では、何かを調べようと思えばいろいろな情報を集めることができます。むしろ情報の洪水の中では、しっかりした思考力を持たなければ流されてしまいます。次ページから、考え抜く力を鍛える具体的な対策を見ていきましょう。


*Peter Ferdinand Drucker(1909–2005年)オーストリア生まれの経営学者。現代経営学あるいはマネジメント(management) の発明者と呼ばれる。


考え抜く力を鍛えるためのグローバルイングリッシュの秘訣33 Out–of–the–Box Thinkingのすすめ

 再び、考えるクイズです。

1)図のような幅30メートルの川があります。A地点からC地点まで歩く距離を最小にするためには、橋をどのように架ければいいでしょうか? ただし、橋は斜めに架けることはできないものとします。
2)庭に植木を4本植えたいのですが、木と木の間を等間隔にするには、どうしたらいいでしょうか?

 考える力を鍛えるためには、「考える」仕組みを知ることが大切です。どちらのクイズも答えを知ると、「なーんだ」と言いたくなるでしょう。2つに共通しているのは、「思考の枠」です。「橋」「庭」ということばの持つイメージが頭の中に枠を作ってしまい、その枠の中で考えている限り、解が出せなくなるのです。
 英語では、Think outside of the box!、Step out of the box! (思考の枠を超えて考えろ!)などと言われることがあります。このout–of–the–box thinking (枠を超えた思考)は、創造的に考えながらいろいろなアイデアを出し合うことが求められる今日のビジネスでは、よく使われることばです。


creativityを発揮するには

 out–of–the–box thinkingはcreative thinkingと言い換えられます。「クリエイティブ」と聞くと、コピーライターや芸術家など特定の職種に必要な能力と思う人がいるかもしれませんが、知的付加価値が重要な現代では、誰もがcreative thinkingをすることを求められます。
 まずは、自分自身の「思考の枠」を自覚することから始めましょう。そして、「いい・悪い」「できる・できない」「好き・嫌い」といった判断(judgment)を一度棚上げすることが大切です。われわれの頭は常にこの判断をしたがるのですが、それをいったん止めておくと、アイデアがどんどん出てきます。
 そして、ブレーンストーミングをおこなう際のコツは、
It doesn’t work. (それは機能しない)、It is not realistic. (それは現実的ではない)といった、judgementになる発言をしないことです。あなたがファシリテーターを務める場合は、次のように宣言するといいでしょう。
Let’s start brainstorming!
(ブレーンストーミングを始めましょう)
Please hold off on any judgments or evaluations for now. (判断や評価はひとまず置いておきましょう)
Forget about any constraints.
(すべての束縛を忘れましょう)
 一例を挙げましょう。IDEA社*には、1時間で100のアイデアを出す「brain writing」という手法があります。チームメンバーが大きなホワイトボードにどんどんアイデアを書いていくのですが、このとき彼らが大事にしているのも、
Don’t criticize anyone else’s idea. (他者のアイデアを批評するな)ということです。
 Think outside the box!で思考を活性化しましょう。


【クイズの答え】
1)幅が40メートルの橋を架ければよい。
2)三角垂を作ればよい(三次元で考える)。


*シリコンバレーにあるデザインコンサルティング会社。航空会社からスーパーマーケットまで、さまざまな企業を顧客にしている。


グローバルイングリッシュの秘訣34 critical thinkingを身に付ける習慣とは

criticalは「分ける」から始まる

 創造的に考えるcreative thinkingは重要なのですが、現実社会に生きるわれわれは、それだけではうまくいきません。特にビジネスでは、生み出したアイデアを検証することも必要です。それがcritical thinkingです。
 9月号の《心得6》でも簡単に触れましたが、ここでもう一度critical thinkingについて整理しておきましょう。
 criticalの語源はギリシャ語で、「分ける」という意味があります。大事な「分け目」、分水嶺(れい)を指し、critical point (クリティカル・ポイント)、critical factor (クリティカル・ファクター)、critical mass (クリティカル・マス)ということばが生まれ、これらはビジネスではカタカナ語として広く使われています。
 「分ける」がしっかりできると「分かる」になります。
 critical thinkingは「批判思考」と訳されることがありますが、これには注意が必要です。批判というと、相手を否定するイメージが先行しがちですが、本来、批判とは、論理的妥当性や心理的バイアスを踏まえ、内容の吟味をしたうえでなすべきことだからです。
 ここで言うcritical thinkingは、論理思考を内包しているだけでなく、われわれが情報を取り入れて理解するプロセスの中で陥りやすい落とし穴も考慮しながら、物事の本質を捉える考え方を指します。


思考をゆがめるバイアスを自覚する

 critical thinkingを鍛えるためには、《心得6》で紹介した論理の基礎を踏まえるとともに、自分の思考を俯瞰(ふかん)することが必要です。
 stereotype (ステレオタイプ)、generalization (行きすぎた一般化)、preconceived notion (先入観)、prejudice (偏見)は、biased point of view (ゆがんだ見方)をつくってしまいます。やっかいなことに、これらはすべて、われわれの思考プロセスにあらかじめ組み込まれています。だからこそ、自分自身がこうしたbiased point of viewを持っていると「自覚すること」が重要なのです。
 会議の中では下記のように宣言して、参加者に自覚を促すことが効果的です。
We all see the world through our own filter.
We should therefore be very careful about over generalizing. (われわれは物事の見方のフィルターを持っています。だから、行きすぎた一般化をしないように、注意すべきです)
 私自身の体験ですが、According to a survey ... (ある調査によると……)と言いながら説明したところ、すかさず
Which survey? (どの調査?)と出所を聞かれました。説明すると、今度は
Don’t you think that survey may be affected by sampling bias? (その調査にはバイアスがかかっていると思いませんか?)
How can you tell the survey is reliable?
(どうしてその調査に信頼性があると言えるのですか?)
などと質問されました。
 ここには有益なヒントがあります。プレゼン資料を作ったり話したりするときには、上記のような質問をあらかじめ自分に投げかける習慣をつけましょう。そうすれば、critical thinkingは大いに鍛えられます。


グローバルイングリッシュの秘訣35 両面思考 Seeing both sides of the coin

多面的に考える第一歩

 先にも触れたパスカルは、『パンセ』(フランス語で「思考」を意味します)の中で、次のように述べています。
“There are truths on this side of the Pyrenees which are falsehoods on the other.”
(ピレネー山脈のこちら側では「真」であっても、向こう側から見たら「偽」である)
 実はこれは、私のビジネススクールの恩師、Dr. Robert Moranの最初の授業で教えられた内容です。モラン教授は、グローバルビジネスを進めるうえで異文化理解が重要なテーマであることを取り上げた草分け的な存在で、著書、Managing Cultural Differencesはビジネススクールの教科書の定番として今も使われています。
 文化が異なれば、いいと思っていることが反対の解釈をされることがあります。10月号の《心得7・Dialogueを実践せよ!》でも紹介しましたが、ドイツでは職場で個室がある場合、伝統的にドアを閉めておきます。開けっ放しはだらしがない、ということです。一方アメリカでは、「オープン・ドア・ポリシー」といって、邪魔をされたくないとき以外は開けておく習慣があります。これは「誰でもいつでも入って来ていいよ」という意思表示です。
 モラン教授が引用したパスカルの話は、まさにこの例に当たります。「ドアを開けておく」のをよしとする文化もあれば、そうでない文化もあるので、一面的なものの見方をしないことが重要なのです。


両面思考のことばに慣れよう

 英語では、両面思考を促す表現が数多くあります。
pros & cons (良い点&悪い点)
merits & demerits (メリット&デメリット)
pluses & minuses (プラス&マイナス)
 ほかにも、risk & return (リスク&リターン)は、計画を進めるうえで意思決定の際に必ず出てくることばですし、
strengths & weaknesses (強み&弱み)と、opportunities & threats (機会&脅威)を組み合わせれば、有名な「SWOT分析」(図参照)になります(SWOT分析とはビジネス戦略を立案したり組織の課題を抽出したりする際に用いる手法で、外部の要因と内部の要因、それぞれのプラスの要素とマイナスの要素を分析する、まさに両面思考を組み合わせたものです)。

SWOT分析

 環境変化が激しい時代には、多面的にさまざまな要素を考えることが重要なのです。
Let’s see both sides of the coin!
(コインの両面を見よう!)


グローバルイングリッシュの秘訣36 思考を揺さぶれ! Be provocative!

 provocativeということばを聞いたことがありますか? 同義語にprovokingもあります。英和辞書で調べてみると、provocativeは「挑発する」「物議を醸す」、provokingは「腹立たしい」と、何やらネガティブなニュアンスで書かれていますが、これには驚きました。
 というのは、provocativeは、実際にはポジティブに使われることが圧倒的に多いことばだからです。
 例えばビジネスでは、下記のように使われます。
What we need right now are thought–provoking ideas. So, provocative opinions are more than welcome!
(われわれが今必要なのは、思考を揺さぶるアイデアです。よって、〈通り一遍の意見ではなく〉頭を刺激するような意見は大歓迎です!)
 Be provocative!となら「〈“定説”を信じることなく〉チャレンジせよ!」という前向きな意味になります。
 もしかすると、日本の辞書の訳には、「言挙(ことあ)げ」したり、物議を醸したりするのをよしとしない日本のカルチャーが影響しているのかもしれません。しかし、グローバルビジネスにおいては、逆に、ピレネー山脈の反対側から物議を醸すのは大いに結構なのです。
 私は日本とアメリカのビジネススクールの講師を経験していますが、このBe provocative!という姿勢は、日本人がグローバルなビジネス社会の中で最も身に付けなければならないものの1つと考えています。


What if?のすすめ

 もちろん、それはいたずらに議論をふっかけてみる、ということではありません。大事なのは、多面的に物事を観察し、クリエイティブにもクリティカルにも考える中で「思考を揺さぶれ!」ということです。
 具体的には、What if?に慣れるといいでしょう。これは、学校では教えてくれない英語表現ですが、ビジネスでは使用頻度の高い仮説設定型の質問で、次のように使われます。
I know it is not going to happen. But, what if it does? (起きないことは分かっています。でも、もし起きたらどうするの?)
 もうお分かりでしょう。これは、東日本大震災と福島第一原発事故のあとで繰り返された、「想定外」を考える質問です。
 ほかにも、以下のように使われます。
What if a dollar becomes worth 50 yen? Can we handle that?
(もし、1ドルが50円になったら、われわれは対処できますか?)
What if some foreign company tries to start a TOB? Are we ready for that?
(もし、どこかの海外企業がTOB〈takeover bid: 敵対的買収〉を仕掛けてきたら、準備は大丈夫ですか?)
 このように、What if?を問うことはリスクマネジメントにもなりますし、多面的に物事を考える基本となるのです。
 これからも英語を学びながら、英語でのビジネス(=グローバルビジネス)に必要な「考える力」を鍛えていきましょう。

グローバルイングリッシュの秘訣シリーズ全12回(元記事)


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