十月七日・八日・九日@ウィーン

日が経ってしまったが十月の頭にJapannual 2020という日本の映画祭があって、その中で『人間失格』を見た。

太宰治の作品はまともに読んだのは『走れメロス』ぐらいしかないし、私生活がダメ男ということは知っていたけどどうダメかは知らなかった。私はこの映画を小説『人間失格』を実写化したものかと勘違いしていたが、太宰の後年の作品と女関係の話に焦点を当てたものだった。

ラボの先輩が見たいと言っていたので一緒に行った。蜷川実花の色彩表現と時代的にも「ザ・日本」という感じがして、まぁヨーロッパ人受けが良さそうだなと思った(グラフィック面において。話はクズすぎてヨーロッパ人にどう受け取られるのかわからないが)。

もちろん実話に基づいているとは言えフィクションなのだが、それでも自分の人生について改めて考えさせられたというか、なんだか自分が縮こまりすぎている気もして、もっと自由に振る舞っても良いんじゃないかと思ったり、かと言って他人に迷惑はかけたくないので、期待通りの行動をしたいと思ったり、とても複雑な気持ちになった。

実際太宰がどのように恋愛していたかは何も読んだことがないので知らないが(これを機に興味を持ったのでちょっと読み始めたい)、まぁあれだけ恋愛にどっぷりハマる気持ちがあるのは素晴らしいなと思った。もちろんこれはフィクションであるわけだが、しかし私は誰とも恋愛したことないんじゃないかなと真面目に思う(彼氏がいたとかセックスしたとかそういう話ではない)。なんとなく小学生あたりから異性を意識して、並に思春期を送って、ただ世の中が期待したことをこなしただけで、私の内側か湧き出る何かがそうさせたとはとても思えない。まぁ、そんなものは幻想にすぎないかもしれないが(本人が感じてることと端から見える様子は大体異なってるだろう)。

十月七日

月曜日からドイツ語の授業に参加している。夕方の六時十五分に始まり、九時十五分に終わる。当初、どうせウィーンでやることもないしな(研究以外)、と思い大学が提供しているゆるゆるドイツ語講座ではなくて、語学学校のガチなコースをとることにした。月から木まで毎日ドイツ語をするのでどれだけ苦痛かと思っていたが、一番下のレベルのコースであるのと、意外と毎日する方が記憶の定着も早いような気がして思ったよりしんどくない。

しんどくないが、家のネット環境がちょっと不安だったのでここずっと大学にきて夜遅くまで残っているのがしんどいと思い、明日以降は家で試してみることにする。

ラボミーティングはラボのTwitterの話と、先輩の実験アイデアの発表。特に意見することなくボーッとする(普段からそうだが、Zoomだとさらに酷くてやっぱり実際に会ってラボミーティングしたいと思うが、できないのでしょうがない)。

ドイツ語の授業を受けて家に帰ると大体十時。お腹が空くのでちょっと食べるが、寝る前に食べるのはよくない。

十月八日

今日は家でドイツ語を受けることにし、特にネット環境が万全でないといけないイベントもないので、家にいることにする。

先週買ったばっかりの自転車の後輪が早くもパンクしているようで、よくわからないが近くの自転車屋さんで見てもらうことにする。しかし予約してなかったので時間がないと言われ、空気だけ入れてもらい、もしすぐ抜けるんだったら買ったところに持って行って相談した方が良いと教えてもらう(そして後にわかるがやはりパンクのようだ)。

家の下のオーガニック屋さんや近くのスーパーで買い物をする。アジアンマーケットが家の近くにもあって、中身をチェックするが日本のものはあまりないよう。野菜コーナーにゴーヤと山芋らしきものが売っていたが、じゃがいもの十倍ほどの値段でバカらしくて買えない。

夕方ご飯を先に済ませてドイツ語の授業。大家さんがルーターの場所を移してくれたので多少マシになったが、やはり心配なので接続デバイスを最小にしてスマホだけで繋ぐと、一回途切れただけであとは問題なくできた。とりあえず家でも授業が受けれそうでよかった(もしかしたら接続台数の問題だったのかもしれないがよくわからない)。

十月九日

今日は何もない日なので家にいることにする。ビザの書類のことで大学の人と話したり、書類の再確認をしたりして、ただそれだけで疲れる。収入の証明があるから多分大丈夫なのだが、オーストリアは「〜EURの月収がある」だけではいけなくて、「〜EURの月収があり、そのうち〜EURを賃貸料として払い、さらに残りの〜EURが××EUR以上を上回っていないとダメ」というとてもめんどくさい証明をしなくては行けなくて、これにイチャモンをつけられたりしないか心配するが、心配してもしょうがないのでとりあえず月曜日に移民局に行く。

今私の学部がオープンランク(職位問わずということだと認識している)のポジションを二つ募集していて、今日から最終選考で残った人々のジョブトークが始まる。日本でこのような会に参加したことがないので行われているのかわからないが、大学の(多分任期なしの)ポジションの公募などでは、選考過程にジョブトークが入っていることが多く、私の学部ではPhDの学生から教授陣までが参加して、候補者がこれまでの研究とこれからの展望を語り、数分ディスカッションをするというものである(他の学部でもジョブトークの招待がよくあるので行われているようだが、形式が同じなのかはわからない)。

トークは一時間と長いので、全員を一日にするのではなくて、大体一週間に二人ずつで八人ぐらいを見ることになりそうだ。このご時世なのと、うちはキャンパスが二つ(ウィーン・ブダペスト)に分かれているので、全てZoomでのやりとりである(Zoomの場合とそうでない場合で候補者の印象が違う→選考に影響があったりして、など考えたりしたが、そんなこと言い出したら人生の決定なんかいろんな影響があるわけだから、何も特別なことでもないのだが)。

今日はドイツ語の授業がなく、先輩が公園でピクニックを企画している日なので、そこに行く。途中、大家さんに教えてもらったJoseph Brotというところのパンが良いよと聞いていたので、寄って買っておく。ライ麦、小麦、ラベンダー、はちみつのパンを買った。多分BIO WALDVIERTLER ROGGEN HONIG LAVENDEL KRUSTENBROTというパンだろう。

これが味も高貴な感じがして美味しいのだが(多分ラベンダーのせい)、なんだか食感も上品でまた食べたいと思う(違うのも試したい)。家の下のオーガニック店もなかなか良いパンを置いているのだが、ここの方が好きかもしれない(というか今までに食べたことがない感じで新しい)。