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「金継ぎ」したうつわを紹介するブランド、「Zen」(繕) に込めた願い。

こんにちは。はじめまして。
金継ぎで直した器を販売する、「Zen」(繕) というブランドを立ち上げました渡辺敦子です。
「Zen」(繕) という名前は“繕い(つくろい)“から取っています。(「金継ぎ(きんつぎ)」を「金繕い」、「漆繕い」ともいいます。)
そもそも金継ぎって何?という方もたくさんいらしゃると思いますが、まず私が何者か、どうしてこのプロジェクトを始めるに至ったのか、はじめにこれまでの経緯をお話したいと思います。

これまでの私。益子〜表参道〜遠野。

現在、鎌倉を拠点に活動していますが、2015年から、出産を機に移った岩手県の遠野市の山奥で、大自然に囲まれて子育て中心の日々を暮らしていました。森の中の暮らしは、人よりも野生動物に会う方が頻度が高く、虫や鳥の声が鳴り響く賑やかな夏と、一面が雪に覆われた静寂の冬と…とにかく人工物が極端にありませんから、土と動植物に触れる毎日を過ごしていました。
そして、その前の約8年間は東京で、表参道を旗艦店とする「かぐれ」というセレクトショップを立ち上げ、ディレクターとして働いていました。
表参道から岩手の森へ?というと突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、「かぐれ」でも「自然を感じられる暮らし」をテーマに、店の前には野原を作ったりしていましたから、田舎への移住は自然な流れでした。

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↑岩手県遠野市の家

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↑表参道の路地裏にあった「かぐれ」の前庭(2020年9月に閉店)

「かぐれ」は、2008年末に、天然繊維で作られた衣服と、日本の作家や職人の手仕事を紹介する、グリーンなライフスタイルを提案するセレクトショップとして始まりました。
陶芸家の個展やアートイベントも多く開催しましたが、オープンした当時は「ロハス」という言葉が流行り始める頃で、「フェアトレード」や「エシカルファッション」という言葉は浸透しておらず、そもそもアパレルのお店が生活雑貨を置くというのも(今は普通になっていますが)ほとんど見られない形でした。

「かぐれ」のコンセプトは、その直前に働いていた、栃木県益子町にある「STARNET(スターネット)」というカフェ・ギャラリーから大きな影響を受けています。そこは、一見ハイクオリティでおしゃれで、でも「クリエイティブに自給自足する」「循環する暮らし」を提唱してしている場所でした。

私は、幼い時からアートが好きで、日常使いできるアートピースとして器にのめり込んでいったのが大学生の頃。それを自分の暮らしに取り込みたくて、一度大学を卒業した後に、美術大学に入り直して日本画と陶芸を学ぶという、長い学生生活を送りました。美大在学中に、現代作家の多く住む、栃木県の益子町に通ううちに出会ったのが「スターネット」というお店です。

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↑スターネットの一風景

私の考えていた「美しく暮らす=地球環境と共生し、関わる人みんなが幸せになる」「アートで社会と接点を持つ」という理想とかなり合致するように思えて、大学卒業とともに迷わずスターネットに飛び込み、働き始めました。

私のメインの仕事は、ギャラリーで催される展覧会やイベントの運営をする事でしたが、時折店の裏の工房にこもって、カフェで使われる器の金継ぎをするのも、私の仕事のひとつだったのです。これが、私と「金継ぎ」の最初の出会いです。
周辺にはたくさんの陶芸作家がいました。そのもとへ赴いて作品を買い付け、ギャラリーで作品展をしたりショップで販売する。さらにはオーガニックカフェで日常的に使う。そして修繕が必要になればスタッフが工房で直し、またカフェで使われる。このように器が循環していて、ほかにも生ゴミを堆肥にしたり、ヤギの世話も仕事の一つだったり。暮らしと仕事を分けない、というのもスターネットの一つのかたちでした。

こうして、環境に配慮した暮らしを実践する職場で、大好きな器を扱いながら、納得のいく暮らしの在り方ってどんなものだろうとさらに考えていく中で、新しいライフスタイルを提案したいという(株)アーバンリサーチと出会い、その思いが「かぐれ」というお店に結実していったのでした。

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↑「かぐれ」で働いていたころ (出典[DRIVE])


器のチカラを実感する。

「かぐれ」で働く中で、ひとつの器を購入したことから、その人のもの選びの基準が変わり、結果的に暮らしが少しずつ変わっていく、というお客様を何人も見て胸を打たれました。最初にひとつお茶碗を選んだとして、このお茶碗に似合うお箸はこれかな…って考えるはじめるように、ひとつの器を基準として、他の選ぶものも自ずと変わっていく、という現象です。これは、私自身の経験をもとにして、初めから期待していたことではありましたが、実際に変わっていくお客様の様子を見るのは感動以外のなにものでもありませんでした。

たったひとつの器でも、そこに作り手の思いがあり、大袈裟に言えば、作家のそれまでの全人生をかけて作られた器、であったりします。曖昧な言い方になりますが「ほんもの」と言うこともできるかもしれません。だから、たったひとつの器にも、それを手にとった人の暮らしを変えていく力があるのだと思います。

しかし、ふだん使いしている器はどうしても割れたり欠けたりしてしまいます。好きだから使いたい、でもたくさん使うとそれだけ破損のリスクも増える…というジレンマ。そしてもし割ったりしてしまっても、自分と暮らしを共にしてきた、作り手の想いが込められた大切な器です、そう簡単に処分することはできません。

ここで、悲しみに浸らずとも、直せる手段があるのです、そうです、「金継ぎ」の出番です。小さな子どもと一緒に暮らしている中で、私の大切な器たちも、どんどん割れていきましたから…(涙)しばらく遠ざかっていた金継ぎを習い直し、私も日常的に金継ぎを行うようになりました。

はじめてスターネットで金継ぎをしてから、もう10年以上が経っていましたが、改めて習ってみるととても気持ちがよく、すんなり自分に馴染んでいくのがわかりました。天然素材を使った作業は、その日の天候に左右されたり、思うようにいかないことも多いですが、そういう制約があるのも然るべきと感じられるのは、学生時代に日本画や陶芸を学んでいたときの経験と、遠野の大自然の中で暮らしていたからかもしれません。

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「金継ぎ」で、陶芸家の思いをつなぐ。

一方で、あまり知られることはありませんが、陶芸家のもとには、制作の途中に割れたり欠けたりした作品がたくさん眠っています。これらはいつか処分されるだけで、日の目を見ることはありません。それらの、ちょっと傷が入ってしまっても、ほかと同じように作り手の想いが込められた器を、引き受けて「金継ぎ」で直し、みなさんへご紹介したいと思うようになりました。

器の魅力に引きつけられて、陶芸に関わるようになってから気づけば20年になります。今もこうして「金継ぎ」を通して、器と、作り手の思いに関わり続けられることに感謝しつつ、それを次のだれかの手に届けていくことができたら、さらには、金継ぎされたひとつの器が、その人の暮らしのなかで新しい光を放ってくれたら。そんなことを願ってせっせと金継ぎに励んでいます。

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プロジェクト「Zen」(繕) の詳細については、また次回。別の記事に書きます。

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