「生きる」夏から抜け出して
薄暗い地下の黒くて重い扉を開くと、真っ白な煙がモヤモヤと広がっていた。数名の影の間を縫うように、すり抜け、階段を登った先の光を目指した。
人、車、窓、私の影。
そこには何一つ特別な光景は広がっていない。だけど、下から見上げた時の光は、特別な何かが広がっているという予感を震わせた。
歩いてすぐの国道。横断歩道を大股で歩く。黒のアスファルトの白く塗られた道はなんだか特別に見えて、胸を高鳴らせた。真っ黒い地面の底からサメのヒレが顔を出してるから。
ファミリーマートの脇を抜けた先、塩のにおいに誘われた。ここからでは背伸びしても見えない。塀に手をかけてよじ登った。腕にいっぱい力を入れて、足を持ち上げた。
顔を上げたその先には、“青い水色”が広がっていた。そこに太陽が反射して、沢山の宝石の在処を教えてくれていた。
真っ白ではない、クリーム色。サラサラと風に乗って飛んでいく。私はこのクリームが好きだった。一心不乱にクリームの上を走り出す。このクリームは触れてもベタベタしないが、他のクリームより熱い。だから「ぴょんぴょん」と飛び跳ねるように、”透明“の中へと向かっていった。ここにもカエルはいるよ。
足の裏が水に浸かり、ジューと音を立てていた。熱される鍋の気持ちが少しわかった気がする。
服を着たまま入ってしまった。ズボンの裾を捲り上げたが、少し高い波には関係なかった。もうどうでもよくなった。
一気に全身を浸してみる。そこにあった熱は一気にぐるぐる巻きにされて、フワッといとも簡単に持ち上げられてしまった。私は足を地面につける事を辞めた。さっきのサメになりたかった。けど息は続かないから、顔を空に向けて、背中を底に向けた。これじゃラッコじゃないか。
人に戻った。Tシャツは肌にくっつき、さっきまでベタベタじゃなかったはずのクリームが足にべったりまとわりついてきた。クリームはやっぱりクリームだ。裏返しのスリッパを裏返し、パンっと大きな音を鳴らして見せた。
ファミリーマートで新しいTシャツのを買った。夏なのに、財布が寒がっているのをみて、投げ捨てたくなるくらいムカついた。先程までのサメのヒレはもうなくなって、そこには白と黒の道があるだけだった。
地下へと続く階段。薄暗くて先がよく見えない。白いモヤの中と数名の影の間を縫うように抜け出し、黒くて重たいドアを開けた。
ドアの向こう側。ひかりへと続く階段を登った先の景色よりも眩い光と特別な光景がそこには広がっていた。
「生きる」
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