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変革の難しさは「馬を水飲み場に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない」から?

馬を水飲み場に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない
イギリスのことわざ、
You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.
である。てっきり論語や日本の旧い諺(ことわざ)かと思っていた。

いきなり、ことわざと「変革」を結びつけたタイトルに?ナ?ン?デ?と思われた方も多いだろう。

馬に水を飲ませることができた話

前の会社に勤めていたときの話で、もう8年以上前の話だ。ある金曜日の午後に、社内ネットワーク・インフラがまったく使えなくなる緊急事態(災害)が発生し、製品の出荷も当面のあいだ見通しが立たなくなったのだ。それを取引先やご注文をいただいたお客さまに連絡する手段も絶たれてしまい、そのときのマーケティングメンバーは25名と、そのうちマネージャー5名とも社内システムでは連絡が取れないお手上げのまま週末を自宅で迎えることになった。唯一、携帯メールが機能するだけだった。
解説)↓ここが「馬に水が必要なんじゃないか!」と気づいたあたりだ。ここで言うとは、メンバー同志が連絡を取り合うための手段のこと。

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実は、この約1ヶ月前から、社内SNSの試験導入が始まっていたが、新しいツールに目がない新しもの好きの私やマーケティングの面々は、さっそくメールの使用を止めてまでして、未知の社内SNSを思い切り使い倒したところ、全社(社員30万人)のトラフィックの2割をわずか25名が占拠したとして、グローバルの運営チームから「いったい何やってんの?」とお叱りを受けた(まだ全社員が使っていたわけではなく、まだ一部の新しもの好き達が触っていた程度だったらしいので世界の2割と言ってもたいした話じゃなかったようだ)。この社内SNSも使い勝手は、そこそこ悪くて遅くガッカリしていたところだったので、すぐに飽きてしまい、この災害を機に、当時は御法度だったFacebookのグループ機能に目をつけて、マーケティング25名全員でFacebookに引っ越したのだった。
解説)↓ここが馬を水飲み場へ連れて行くところだ。この水飲み場がFacebookグループのことだ。

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その直後に、こうした災害が発生し、通常業務連絡や会義そのものを全員が自宅待機のまま、Facebookグループ上で行う羽目になった。月曜日朝までに外部のサーバーで運営しているWebサイトに災害発生のお見舞い、その対策と製品配達の遅延についての告知を載せるために、メンバーは不眠不休でFBグループ上のスレッドのタイムラインを埋め尽くして連携を取り始めた。私は技術的には何もできることがないので、まさに「馬を水飲み場へ連れて行く」ことしかできなかった。この時はマネージャーの誰かが指示をしたわけでもなく、メンバーが自発的にゴールを共有し、自発的に役割分担もスレッド上で自分たちで決めていってどんどん仕事が進んでいった、まるで未来の働き方を視ているかのような不思議な感覚に感動したのを覚えている。

見事に月曜日の早朝までに、Webに告知が掲載されて、目標を達成した。私は馬を水飲み場へ連れていっただけだったのに、「馬に水を飲ませることができた」のだ、いや自ら進んで水を飲んでくれた(Facebookグループを使い倒してくれた)のだ。

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この未来の働き方に感動した私は、即座にセールスフォースオートメーション(SFA)と社内SNSを、IT部門の許可を取らないまま(ごめんね、手続きを経ると半年以上かかると言われたのよ)、SFAなのにマーケティング部門25名にだけ導入し、Facebookグループでの未来の働き方を社内SNSへ移植した。もちろん結果は大成功で、未来の働き方が現実になった瞬間だった。そこまでは良かった。

馬に水を飲ませることができなかった話

これで気をよくして、少し傲慢になったであろう私は、この成功を大々的に経営陣にアピールして、全社へ導入することを決断し承認を得る。
解説)↓ここが馬を水飲み場へ連れて行くための承認を採った瞬間で、「馬の喉が渇いていて水を飲ませなければいけない」と思い込んでいた。そう、社員200名にも社内SNSが絶対に必要だ!と信じ込んだ瞬間だった。

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ただ、残念なことにグローバルITからの許可は下りず(日本のライフサイエンスなどという全社の1000分の1にも満たない組織が、当時では最先端の社内SNSを導入したいなどと、何を寝ぼけたことを言っているんだ!的な対応をされ)、私たち日本組織だけの独断で勝手にSFAの会社と契約して、全社員200名にライセンスを発行した。マーケティングでの導入の成功から、私は「馬を水飲み場へ連れて行く」だけで、皆が勝手に使い始めると信じて疑わず、200名の社員が未来の働き方をはじめることを夢見ていたのだ。

もちろん、社内SNSの契約をしてお終い、と言う手荒なことをしたわけではない。きちんと、なぜ、いま社内SNSを導入するのか、と言う災害時での活躍を事例に解説をして、全社員向けの説明会を何度も何度も繰り返し、勉強会もしつこいくらい開催した。各部門からはエバンジェリストと呼ぶ責任者を選出してもらい、彼ら18名に徹底的にデジタルリテラシー教育から、アプリの操作方法、利用ガイドラインまでシェアをしてから、エバンジェリストが中心となって各部門の全員のPCにアプリをインストールして、ユーザー登録して、顔写真をアップしてもらい、自己紹介を書き入れるところまで、徹底的に指導した。あとはもう使うだけという誰がみても文句ない完璧な状況にまで仕上げられたのは、未来の職場を体験したマーケティングのメンバーの強力なバックアップのおかげでもあった。
さぁ、未来の職場が始まるぞ! それがこれ↓

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しかし、馬がおとなしく私の言うことを聞いてくれたのは、そこまで。私がいくら手綱を引っ張って、無理矢理に馬を水飲み場に近づけようとしても、脚を踏ん張って、水飲み場には近寄ろうとせず、水なんか飲もうとしないのだ。
    嫌だよー、頼んでないよー、大きなお世話だよーって。

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特に抵抗が激しかったのは、私の出身部門だった営業部からだった。
▢メールだけで充分ではないのか?
▢メール以外のコミュニケーションツールを使う理由がわからない
▢メールと社内SNSの両方をチェックできるほど暇ではない
▢どっちが正式な情報伝達経路で、どっちが非公式なのか?
▢社内SNSを診なかったときにはペナルティがあるのか?
▢スマホはバッテリーが持たないので、営業は折りたたみ携帯しか使わないから、その社内SNSアプリを使うことができない
▢自分に関係のない連絡もタイムラインに流れてきて、全部見ていたら仕事をしないでみる羽目になるけどそれでいいのか?

など、お決まりの言い訳が飛び交い、とうとう営業の部門長とマネージャー達が私のところへ来て

「飯室さん、わたしたち営業部では正式に社内SNSを使わないと決めましたので、ご報告します」

と言われ、私は「馬に水を飲ませることはできない」と悟ったのだった。

変革の難しさは「馬を水飲み場に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない」から

変革のほとんどは失敗に終わる、100歩譲っても成功よりも失敗の方が多い。なぜ、変革は失敗するのだろうか?

経営者達は変革だ、改革だ、と声を上げるだけで、一向に変革は進まない、いや進める気すらないのかも知れないと疑いたくなるほどだ。誰もが『変革が急務』『変革しなければ生き残れない』などともっともらしいことを言うが、どうやら他の何かで忙しくてそれどころではないらしい。そうとしか考えられない。

失敗する理由は枚挙にいとまがないし、組織ごとに変革のゴールも、現状も、抱えている課題も異なるので、失敗の理由をまとめて分析して共通項が見つかったからと言って、失敗との因果関係があるとは限らない。

そもそも、『変革』というとなにか組織を挙げての特別なことのように受け止めて構えてしまうことが多いが、組織が環境変化に適応できないで、自己変革をしなければ、生き残れないだけの話で、しかし、環境に適応したからと言って、それで、ハイ、おしまい、ではなく、環境が変わり続ける限りは、変革はずっと続けるものなのだ。そう、もはや変革は特別なプロジェクトではなく、通常業務のルーチンであるべきで、組織にDNAに組み込まれていなければならないものなのだ。

組織の構造や制度やシステムやプロセスや戦略は、絶対に必要なものだが、それ自体が自律して単独で成果を上げるようなものではない。組織を動かし成果を出しているのは働く人々なのだ。冷たい無機的なメカニズムではなく、血の通った温かい夢と希望を持ち人生を楽しもうとする人々が動かしているのだ。

であれば、変革すべきは「組織の構造や制度やシステムやプロセスや戦略」だけではなく、人々にも環境変化に適応できる自己変革能力が求められるのだ。

しかし、流行の働き方改革しかり、ルールや仕組みを変えることはあっても、人財育成に舵を切る会社はほとんどいない、だから変革は失敗に終わることが多いようだ。

これに照らして、ことわざの前段と後段で分けて考えてみると、

前段:馬を水飲み場に連れて行くことはできても
後段:馬に水を飲ませることはできない

前段:SFA(営業支援システム)を導入できても
後段:営業に使わせることはできない

前段:組織の構造や制度やシステムやプロセスや戦略を変革できても
後段:人々の意識や価値観や行動様式といった文化までは変革できない

変革とか、難しいことだけじゃなくいろいろなことに当てはまる

前段:お医者さんが患者さんにお薬を処方できても
後段:患者さんにお薬を飲ませることはできない

前段:パートナーをディズニーランドに連れて行くことはできても
後段:パートナーを楽しませることはできない

前段:ルールを決めることはできても
後段:ルールを守らせることはできない

前段:働き方改革で19時までに社員を退社させることはできても
後段:実際に社員が会社以外のどこかで働く時間を減らすことはできない

前段:いくら優秀なリーダーが素晴らしい変革計画を提案したところで
後段:プロジェクトメンバーのアクセプタンスは得られない

うーむ、キリがないので、この辺にするけど、これを読んでる皆さんにも思い当たるんじゃないだろうか? 

人々の意識や価値観や行動様式といった文化まで変革する

残念ながら、機器やシステムのようにスイッチがあってすぐに人が変わるわけでもなく、人の意識や価値観や行動様式といった文化を変える教科書やマニュアルやプロセスがどこかにあるわけではない。

また機器やシステムのようにお金を出せば、いつでも手に入るものとは違って、「環境変化に適応できる自己変革能力を獲得する」には、時間がかかる。「じゃ、3ヶ月の研修でナントカ変えてね、頼んだよ!」というわけにはいかないのだ。

「馬を水飲み場に連れて行く」

のは、物理的に技術的に問題や困難や障害を解決するだけの手続きに過ぎず(もちろん、それはそれで大切なことなので軽んじてはいけない)、これを『技術的問題』と呼び、人以外の環境や設備や施設や装置や仕組みなどの変革と考えて取り組めば良いだけなのだ。おそらく、組織で働く人ならば、「技術的問題」の解決は、日常茶飯事でモグラ叩きばかりしているだろうから、慣れているだろう。いっぽう、

「馬に水を飲ませることはできない」

のは、技術的な問題と違って、人自体が変わることを求められている。環境変化に適応する、意識を変える、価値観を変える、マインドセットを変える、行動様式を変える、いろいろな言い方をするが、要は自己を変革をすることが求められており、「馬に水を飲ませることはできない」と同様に、無理矢理に自己変革を強要しようとしても、本人にその気がない限り、人は変わらないのだ。これを『適応課題』と呼び、技術的問題とは区別している(参照:ロナルド・ハイフェッツ教授〜NHKリーダーシップ白熱教室〜)。

この技術的な問題を解決するのではなく、人が環境や課題に適応して変わることが求められる「適応課題」こそが最大の難関で、人財育成にしろ、変革にしろ、リーダーシップにしろ、すべてがこれによって大きく成果を左右されるにもかかわらず、最も手をつけられないままで放置されている部分なのだ。

変革とリーダーシップと人財育成における「適応課題」に、どう取り組めば、「環境変化に適応できる自己変革能力の獲得」ができるのか

を命題に、昨年から多くの実証実験を繰り返し、今年の1月からは50名の仲間達と実際に「自己変革」を実践してきたところ、半年経った今、成果が見え始めてきた。

つづく


これから、その成果をシェアしていこうと思っている。興味のある方は、Facebookグループ「学びの本質」(無料)へご参加願いたい。


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