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「Disney(ディズニー)」が次に見据える配信サービス「Star」とは?

こんにちわ。

先週「ウォルトディズニー(DIS)」の四半期決算が発表されました。世界各国のディズニーワールドがコロナにより休館に追い込まれる中、昨年リリースした配信サービス「Disney+」の結果がどうだったのかに注目を集めました。結果は、5750万人ということでしたが、アナリスト予想を下回る数字だったそうです。

(ブルームバーグ): エンターテインメント大手、米ウォルト・ディズニーが10カ月前に開始した動画配信サービス「ディズニー・プラス」は4-6月(第3四半期)の会員数が5750万人に達したが、ブルームバーグが集計したアナリスト予想平均の5840万人を下回った。原題:Disney+ Subscribers Miss Estimates in Tough Quarter for Giant(抜粋)(c)2020 Bloomberg L.P.

現在のDisney+のラインナップ(※日本版)は、アベンジャーズ等を筆頭にした「マーベル作品群」、「ピクサー作品」、「スターウォーズシリーズ」、「ディズニーアニメーション」などの大作をすでに揃えております。そして利用料金も700円(6.99$)前後とNetflix(11.99$/スタンダード版)よりも安い価格です。

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そのような状況の中で、既に1億9000万人の会員数を誇るNetflixと比べ、ここからさらに数字を大きく伸ばしていくのは結構大変なのでは?と思いました。

次のグラフは、NetflixとDisney連合(Huru、ESPN+)のサブスクリプション会員数を比較したグラフです。

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この3連合を足し合わせても合計100million=1億人程度でNetflixには届きません。

これは、単に「Netflix」がすごすぎるのか。はたまた「Disney+」が思いの外ユーザー層が集まっていないのか。どちらなのだろうと疑問に持ちました。

そして、そのDisneyの決算資料をみると興味深い言葉も述べられていたので今回はそうした部分を調べてみました。

1 他のサブスクリプションサービスの状況

他のサービス含め現状の状況を調べてみます。

最初の表は、NetflixやDisney含め様々なストリーミングサービスとも比較してみたものです。なお、Disney+に関しては、決算時に口頭で現在は6,050万人と補足されたのでその数値を使います。

ディズニー

今回あげたサービスは主に6つです。

まず、配信サービスでオリジナルコンテンツを発信する「Netflix」と「Prime video」の2強。そして、それに続く「AppleTV」です。これらはサービス提供期間が長いこともあり、かなりのユーザー数を伸ばしております。

次に製作スタジオが主流となる配信サービスです。ワーナーブラザースのコンテンツを扱う「HBO Max」、NBC系コンテンツを扱う「Peacock」(※これらは日本はまだ非対応)、そして、「Disney+」です。

また、最近話題になった元Disneyの方が立ち上げたショートムービー専門の「Quibi」をあげてみました。

米The Walt Disney Studiosの元会長、ジェフリー・カッツェンバーグ氏が立ち上げ、米HPEの元CEO、メグ・ホイットマン氏がCEOを務める米新興企業Quibiは1月8日(現地時間)、CES 2020で開催したカンファレンスで、4月にスタートする新動画配信サービス「Quibi」を紹介した。

こうしてみるとまず特筆すべきは、「Netflix」と「Amazon Prime video」の2強の存在感です。共に1億ユーザーを超えています。なお、アメリカ国外では「Netflix」が強く、国内では「Amazon Prime Video」の方が会員数は多い状況です。

そして、続くのが、「Disney+」です。その他のスタジオ系は去年・今年リリースされたばかりなものが多くまだ数字としては低めです。そうした中で、現時点で約6,000万人まで伸ばしたのはすごいのかもしれません。

「HBO MAX」は、最近「Crunchyroll (クランチロール)*1」との提携を発表しています。そのため、ワーナーコンテンツ以外も入ってくるので今後はさらに幅広いラインナップになるのかもしれません。

*1 なお、クランチロールは、2018年時点で1,000万人のマンスリーアクティブユーザーと200万人の課金ユーザーがいるようです。

2 Disneyの目標値

次に「Disney+」の会員数をどこまで伸ばそうとしているのかを調べてみたいと思います。

決算資料によると「Disney+」の目標会員数として、2024年までに9,000万人まで伸ばせればよいと言っています。現状が6000万なので1.5倍です。

hitting its goal of 60 million to 90 million subscriptions by 2024, four years early.

目標会員数は、てっきりNetflix超えを目指すものかと思っていたらそうではなかったのでびっくりです。この数字は現在のNetflixの2分の1程度の数字です。

では、なぜ9,000万人なのでしょうか?仮説を考えてみました。

1 ディズニーブランドを大切にした

Netflixようにごちゃ混ぜに様々なコンテンツをいれるというよりも、Disney+は、入るコンテンツを限定することにより「ブランドを維持すること」を優先しているのではないかと考えました。彼らほどブランドを大切にしている企業はありません。

先日のnoteで、Netflixはブランド構築が今後の課題ではないかという指摘がありましたが、そうしたブランドコントロールを考えた時に、9,000万人という数字が目標として相応しかったのでは考えれます。

2 ディズニーのコアファン層の大きさ

では、次にその9,000万人という数字はどのような根拠に基づくものなのでしょうか?いくつか数字を拾っていきます。

ディズニーファン層の大きさの考え方はいくつかありますが、まず最初に、ディズニーワールドの入場者をみてみます。

最も入場者数が多いオーランド(アメリカ)のウォルト・ディズニーのテーマパーク(オーランド合計:マジックキングダム、アニマルキングダム、エプコット、ハリウッド・スタジオ)の2019年の年間入場者数が約6,000万人です。

さらに日本のディズニーランド(ランド及びシーの合計)は、2019年は、約3,200万人、上海は1,100万人、パリも約1,000万人です。

重複も考えられますが、これらを足して約1億1,000万人です。そう考えると9,000万人も妥当ともいえそうです。

次の映画鑑賞者数をみてみます。

ディズニー映画で最もヒットした作品は、ディズニーアニメーションでは「アナと雪の女王2」になります。これが全世界興行で約15億ドルでした。アメリカの平均映画鑑賞料金は1,000円前後なので、仮にそれを全世界標準として考えると、1億5000万人の人が劇場でみたと考えられます。

次に「Star Wars スターウォーズ」シリーズを考えます。「スターウォーズ」の全世界興行で最大は「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」で20億ドルです。つまり約2億人の人が劇場でみたと考えます。

「Marvel マーベル」作品はもっとすごいようです。

「アベンジャーズ エンドゲーム」の世界累計興行収入が7月20日(現地時間)、「アバター」の27億8970万ドルを超え、27億9020万ドルに到達。「アベンジャーズ エンドゲーム」の北米興収は8億5300万ドルと、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」に次いで歴代2位。

仮に28億ドルとすると、1,000円で仮定した場合、2億8,000万人いるということになります。

全世界でみると、確かに9,000万人の目標は少し物足りないかもしれません。しかし、世界的に見れる環境になるためには時間がかかるので、アメリカ国内の興行収入もみておきます。それぞれのカテゴリー上位はこれでした。ディズニーは「アナと雪の女王」ではなく、「インクレディブル・ファミリー」になりました。

「スター・ウォーズ/フォースの覚醒(Star Wars: Episode VII - The Force Awakens)」9.367億ドル =約9,000万人
「アベンジャーズ/エンドゲーム(Avengers: Endgame)」8.584億ドル=約8500万人
「インクレディブル・ファミリー(The Incredibles 2)」6.086億ドル=約6000万人

もしアメリカを中心に考えると、9,000万人というのは妥当な数字な気がします。

最後に過去のDVDの市場規模とも関係があるのか調べましたが、レンタルのユーザー数は不明でした。なお、セルという観点では、「ファインディング・ニモ」がアメリカでの歴代セールスナンバー1で3,880万枚ということでした。

3 Disneyの戦略

では、果たして9,000万人でどのようにビジネス展開考えているのでしょうか?

先日の発表で大きな話題となったのは下記のニュースです。

このたび公開が延期されていた「ムーラン」がDisney+で公開されるとのことです。(※日本は現段階ではまだ対象になっていないです!!)

米ディズニーは4日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で数度の公開延期に見舞われている実写映画「ムーラン」について、動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」で視聴できるようにすると発表した。
「ムーラン」は、1998年に公開して世界的なヒットを記録したアニメ映画の実写版。配信開始は来月4日からで、視聴するには29.99ドルの追加料金がかかる。
「ディズニー+が利用できない地域では映画館での公開となる。もちろん、映画館が開館できていることが前提だが」と付け加えた。

この記事をみると「Disney+」で無料で見れるわけではなく、あくまでも追加料金を払えば「ムーラン」が観れるようです。そして、約30ドルという価格です。結構高いなという印象ですが、映画館で3人分の金額で、もし4人以上の家族で見るならお得な金額とも言えます。

仮に現在の会員数である約6,000万の人が、その映画を30ドルで観賞した場合、売上としては、18億ドルの興行成績をあげることになります。さらにいえば、通常の劇場公開に比べ、劇場での興行手数料(日本だと約40-50%)がありませんので、実際の配給主であるディズニーにとってはかなりの金額が入ることになります。

つまり、このように「Disney+」を活用することにより、サブスクリプションだけでなく、Disneyファン専用の映画館システムを備えていると言えるかもしれません。そうした場合、Netflixとはポジションが異なるので、数字を比較する必要はありません。

さらに決算記事をよんでいると読んでいると不思議な名前が見つかりました。それは、「Star」というサービスです。

Chapek also said that Disney would launch a new general entertainment streaming service in fiscal 2021 under the Star brand it acquired from Fox. The service will feature content Disney already owns from ABC Studios, Fox Television, FX, Freeform, 20th Century Studios and Searchlight

意訳すると「2021年から『スター(Star)』という新しいブランドのストリーミングサービスをします。それは、ABCやFOXなどのコンテンツ中心に編成するものです」と言っています。

つまり、「Disney+」、「Hulu」、「ESPN+」に加えて、第4のプラットフォームを誕生させるのです。

実は、サービスとしてかぶるのが「Hulu」です。これも同じようにディズニー以外のコンテンツを提供しているのですが、Chapek曰く、アメリカ国外の人ではあまり知られておらず、Starの方が認知がということだから、Huluよりもすでに知られているStarを中心に広げていった方がよいとの考えのようです(※ちなみに日本のHuluはアメリカのそれとは異なり日本テレビが主体となって運営しているので、含まれているのかは定かではありません)。

日本語の記事も見つけました。

新しいストリーミング・サービスは「Star」という名前で、元々はインド発のサブスクリプション・サービスを20世紀フォックスが子会社化していたが、ディズニーと20世紀フォックスが買収合併合意したことにより、ディズニー傘下に入ることになった。ディズニー社はHuluではなくStarブランドを用いて海外市場展開していく予定で、Disney+より一般的な視聴者に向けた作品を扱うという。

上記の中でHuluに変わるとしていることから、Disney主要ブランドが中心な「Disney+」とディズニーがもつその他コンテンツやFOX系を中心とした「Star」の2軸で展開していくことになるのでしょうか・・。

4 Starとは

そもそもStarってなんだろう、と思ったので少し調べておきます。

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Starは、元々はインドのメディア企業であり、ウォルトディズニーインディアの子会社として扱われています。現在はインドの本社があり、インドを中心に9ヵ国語で100以上の国で見られており、約7億9000万人の人が見ていると言われています。チャンネル数は約60です。(wikipediaより)

なお、2017年にFOXを買収した際に一緒に買収したようです。つまり、元々はFOXの子会社だったのです。Starは、メディア企業であったので当然サブスクリプションサービスを持っていました。それが、Hotstarというものです。そして、今は名前を変えて「Disney+Hotstar」というサービスを提供しています。そでにあるHotstarにDisney+コンテンツが乗っかった形です。

そのため、放送局である「Star」という名前は残っています。そのため、そのブランドを使って新たなサービスを提供するという流れかなと思います。「Star」自体は元々からFOXのコンテンツを提供していたので、今回のコンセプトにもあっています。

下記は世界人口の図ですが、中国を除くと、インドは最も大きな国なので、そこを中心にサービスを展開していくことも、とても合っていると思います。

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おわりに

最後にまとめていくと以下のようになります。

・Disneyは、Netflixとは異なる戦略でサブスクリプションサービスを展開している
・Disney+は、あくまでもDisneyの主要コンテンツのみを提供するもの
・そして、Disney+はただのサブスクリプションではなく、Disney専用の映画館というような要素を持ち合わせている??
・今後は、ブランドによって切り分けた複数のサブスクリプションを展開していくことにより市場をカバーしていく
・特に人口の多いインドを中心に「Star」という新サービスに注力していく

彼らは、たくさんのコンテンツを所持しているので、一つの大きなプラットフォームを作るよりも、そのブランドに合わせたチャンネルをそれぞれ展開していく方法を取りました。そうすることにより、結果として、より大きな利益を取ることができると考えているのではないでしょうか?それがどのような結果になっていくのかに関しては、今後楽しみです。

なお、「ムーラン」の日本での配信や、「Star」の日本の展開については触れられておりませんので今後の続報を待ってみたいと思います。

ちなみにNetflixのインド展開も気になったので調べていくと、インドでの会員数はまだ200万です(2019年)。全く浸透していないと言えます・・。そこで、どうやら携帯専用の低価格サービスの提供を開始するようです。

つまり、Disneyは、サブスクリプションサービスの領域において、NetflixやAmazonという強者があるのでアメリカ国内ではなかなか難しいですが、インドを中心とした国々では覇権をとれる可能性があるのかなと思いました。

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「 We rode like the wind, to infinity and beyond. Hanx」“僕たちは走った、風のように。無限の彼方へ、さあいくぞ!”」(引用

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