サン・タコス

「ごめん、サンタコス忘れたから出勤遅れる!」
サン・タコスなんて変わった名前の栄養剤があるもんだと呑気に構えていた、サンタコスがサンタ・コスプレのことだと分かったのは、びっくりするくらいミニスカートのもはやボディコンといっても過言ではないくらいピチピチの真っ赤なワンピースを抱えたママが夜の繁華街に現れた時だった。
「それ、ママが着るんですか?」
私は絶対に着たくなかった。そもそも12月24日にガールズバーのバイトに出勤していること自体情けないのに、こんなにみっともない格好をしてこれ以上自己嫌悪を強めたくなかった。
「なに言ってんの。これはアリが着るんだよ。これ着て写真撮ろ!」
バイトに反論する権利はない。スズメの額くらいしかない暗いバックヤードで泣きながらサンタコスに着替えた。背中が大きく開いていて、寒さが骨身に沁みた。
サンタコスの上にコートを着て、クリスマスの繁華街で震えながら客引きをしていた。結局その日の売り上げは、12月にしては稀に見る低さで泣けた。こんなにも私のサンタコスに引きがないどころか、客を遠ざけるとは。

コンビニの前でサンタとトナカイがクリスマスケーキとチキンを売っているのを見て、遠い昔のクリスマスのことを思い出した。
全然愛想もないし、上手い返しのひとつもできなくて固定客がつかなかった私にも優しくしてくれたママ、元気にしてるだろうか。

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